覚悟を決めて
勢いで飛び出して来たものの、これから先どうなるかは分からない。気持ちの整理がついていないところに、無神経にも家に訪ねたのが間違いだったのだろうか。それでも、東雲先輩と話すことで、多少は落ち着くかもしれないと思っている。
「家に帰りたくないな」
今は自分も心を落ち着けたい。家にいると嫌でも余計なことを考えてしまうため、私はある場所に向かう。
「また来ちゃったな」
向かった先はユウ君のお墓。正直、このタイミングで来るのは少々気が引けたが、これからはユウ君が大きく関わって来る。そのためにも、少しでもいいから勇気をもらいたかった。
「ごめんね、ユウ君。あの日のこと、風間先輩に全部話しちゃった。でも、私不思議と後悔してないの。どうしてだろうね」
私のことを信じてくれる人が増えた。向き合ってくれる人が増えた。私にはもったいないくらい素敵な人たちに巡り会えたからだろうか。
「葵!」
「水野!」
ふと後ろから私の名前を呼ぶ声が聞こえる。振り返らなくても、名前を呼んだ人物くらい分かる。
そしてそのまま、私の肩を思いきり掴んだ。
「よかった。ここにいたのね。というか、風間の家に東雲先輩と行ったの? 大丈夫なの?」
私に喋らす余裕を与えないのは、もちろん葉月である。大丈夫なのとは、どれに対してだろうか。
「大丈夫。少し、風間先輩と揉めてしまったけど」
「「え……?」」
驚いた2人は顔を見合わせる。この2人もなんだかんだ息が合ってきたわね。
私はさっきまでのことを簡単に報告をした。2人は風間先輩が取り乱したことに少々驚いているようだが、ここは仕方がないとでも言うように、私の話を聞いていた。
「それで、今は東雲先輩と2人なのね……」
「正直、大事な時期に巻き込んでしまったのが申し訳ないわ。でも、これ以上隠し通すことはできない。風間先輩が落ち着いたら、これからが本題よ。でもその前に、私もやるべきことがある」
私はグッと手を強く握りしめる。今まで避けてきた問題。伯母さんとの会話だ。私も避け続けて、お母さんからも関わるなと言われていた。私自身も負い目があったから、会わないように気を付けていたため、あの日会ったのは本当にいつぶりだろうか。
「私自身、あの日の整理をしつつ、伯母さんと話せる場所作りをしないといけない。でも、私だけじゃなくて、これは風間先輩の協力がないと先に進めないの。一筋縄ではいかないことは分かってるし、これ以上先輩たちの受験の邪魔もしたくない。準備ができたら、すぐに動くわ」
怖いけれど、私だけで伯母さんの家に行ってみる。門前払いされるかもしれないけれど、伯母さんに誠意があること、和解したいということを伝えたい。私にそう言う資格なんてないかもしれないけれど、動くことで何かが変わることを信じている。
「私は葵を応援する。葵はもうたくさん自分を責めて、反省したわ。もう、解放されてもいいと思う」
葉月は真っ直ぐに私の目を見つめる。葉月はずっと私を見てきたが、私も葉月を同じように見てきたのだ。葉月には私のせいでたくさん迷惑をかけてしまった。自分のためにも葉月のためにも、私は前に進まないといけない。
「それと、山辺君」
「な、なんだ」
「こんなことに巻き込んでごめんなさい。あなたは当事者でも何でもないのに」
「いや、俺は別に気にしては……」
歯切れの悪い返事に、いつもの自信ありげな姿はどこにもないが、あの日以来まともに話した瞬間だったかもしれない。彼を巻き込んだのは、今の状態を見せて納得させたかったかもしれないと、今になって気付いた。なんとも卑怯な手だが、今さら考えたところで仕方ないだろう。
「改めて2人ともよろしくね」
「任せて!」
「出来ることなら何でもする」
動き出したこの時を無駄にするわけにはいかない。帰るためにみんなが背を向ける中、私は振り返って墓石に一礼した。




