呼び出し
放課後になり、2人を見送った後、私は1人で図書室に向かっていた。心配をかけるかもしれないが、話を聞いてから報告しても大丈夫だろう。それに放課後の図書室にも人は何人かいるため、問題はないだろう。天気も晴れだし、発作を起こすこともないだろう。
図書室に入り、辺りを見渡すとすでに東雲先輩は来ていて、風間先輩と同じように勉強をしていた。ここにいる人たちはほとんどが3年生。受験勉強をしていてもおかしくはない。
「東雲先輩」
声をかけると、勉強をする手を止め私のほうに目を向ける。
「来てくれたんだね。少し待ってて。場所を変えようか」
東雲先輩はそのまま道具を片付けると、私を連れて図書室を出た。連れられたのは屋上だ。屋上には誰もらず、相変わらず生徒たちの声が聞こえるだけだった。
「ここで話そうか。ここならみんなの勉強の邪魔にならんし」
荷物を下に置くと、先輩は大きく伸びをした。私のカバンよりも膨らみ、重そうなカバンには参考書とかが入っているのだろう。私も近くに荷物を下ろした。
「そういえば、朝はありがとうございました」
「気にしないでいいよ。先生に頼まれたことだったし、俺が行ったのはたまたま。有名人は大変だねー」
他人事のように言うが、東雲先輩も一緒なのだが。2人を見ていると、本当にユウ君といるみたいだ。2人でも3人でも、親友になることは間違いなさそうだな。
「本題に入ろうか。風間が休んだのは模試なんかじゃないんだ。先生も理由は分からないが、体調不良としか聞いてないみたいだ。俺も連絡したが、全く返事がこなくてな。水野さんなら何か知ってるんじゃないかって」
東雲先輩は不安そうに私を見る。心配しているのは嫌でも伝わってくる。ここにも本気で風間先輩に向き合ってくれる人はいると思うと少し安心すると同時に、嬉しくさえも思った。
「そうですね。休んだ理由には心当たりはあります。しかし、私の口からは言えません。本人が言いたいのなら別ですが、私からは何も……」
風間先輩が休んでいるのは私が理由だろう。学校を休むほどのショックを与えてしまったのは私なのだから。
「そうか……。理由に心当たりがあるなら少し安心した。俺は何も分からないからな」
「東雲先輩は風間先輩と一番仲が良いように見えますが」
「あいつはな、誰も頼ろうとしないし、胸の内を明かさないんだ。あいつの中に、俺でも超えられない人がいるからな」
超えられない人……。その人にも心当たりがある。
「東雲先輩は、風間先輩の過去についてどれくらい知っていますか?」
「あいつは過去については一切話さないんだ。当たり障りのない会話はするが、誰に対しても壁があるみたいな感じだ。俺もその1人さ」
どこか悲しそうに喋る姿は、弱々しさが滲み出ている。
「超えられない人がいるっていうのは、どうして分かったんですか?」
過去の話を聞いていないのに、そんな人が出てくることに疑問が湧いた。
「なんて説明すればいいか分からないが、誰かを目標として勉強もテニスもやってる感じがするんだよな。俺を通して誰かを見ているような、そんな感じもするし」
私に伝わりやすいように、考えながら話してくれている。でも、それは私にも分かる。山辺君を通して、ユウ君を見ていた私にも。
「そうですか。風間先輩は何も聞いていないのですか」
「なんかグサッとくるな。でもそうだな。1年の頃からつるんでるけど、あいつのことは何も知らない。なんか自信なくなるな」
どこまで話すか。風間先輩が言いたくないのなら私から話すことはできない。
「先輩。この後時間、ありますか?」
「まぁ一応」
「一緒に先輩の家まで来てください」
「え……?」
私たちの間に沈黙が流れる。東雲先輩はそのまま考え込んだ。
「分かった。一緒に行こう」
「じゃあ行きましょう。今の風間先輩には、東雲先輩が必要です」
私たちは荷物を持って屋上を出た。念のために葉月と山辺君には連絡した。後から小言を言われる未来が見えるのは仕方ないな。




