8話 惑星への帰還
巨人は、動きが鈍い。というよりは、動きずらそうにしていた。
全身によろいをまとっている。よろいというよりパワードスーツのような見た目だった。
時折、腕を構え何かを射出するのかと思えば、やめ、少し離れた場所から様子をみて、どこかへ追い込もうとしているようだった。まるで、小動物を捕まえるように。
ウェルは、宙返り、側転やバク転を駆使しながら、方向を変え、巨人を翻弄していた。
テペヨロもあの体型でよく動く。実は動けるデブだったか。
相手も知性があるらしく、予想もしない方向から現れ、徐々に追い詰められつつあった。
「やばい!ウェル、テペヨロ、直線にじゃなくジグザグに別方向に逃げろ!!」
「別方向に動いて、どちらかが休憩できるように、役割をスイッチするんだ!!」
「うーん。わかったーーーーーー!!」
「僕も善処します!!!!!」
こういう展開の時に、なにかビーム兵器的なモノ落ちてないものか?
僕は、何か武器になるようなものを探した。
手斧、スコップ、ナイフ。お手製のヤリ。縄。あの巨人に対しては小さいが無いよりましだ。
飛び道具的なものはないか?ここの住民はボウガンを作っていたようだ。
あとは、ロボットの武装と思わしき、斧、ネット、クレーン?、パイルドライバー?。土木工事か?
あのロボットが動けば、この状況は緩和されるのだが・・・・・・
「ウェル、テペヨロ、武器になるようなものがあった!!。隙を見て手に取ってくれ!!。」
「斧とスコップとナイフ、ヤリ、ボウガン、縄だ!!。」
「あの人型の機械が動かせそうだから、それまで時間稼ぎできないか!?」
「むり~!!」「今でも必死なのに~」
ウェルはそれでも、ひょいひょいよけている。まるで来るのが分かるような感じだ。
「ヤゴロヲ君、むちゃ言わないで、でもがんばるわ!!」
テペヨロは、投石で応戦している。それにしてもいい球投げる。
投石により巨人の標的がテペヨロに移ったので、攻守交替。
「スイッチ!!」
テペヨロは手斧と縄をもって、走り出した。
ウェルは、走る速度を緩め、休憩しながら、ボウガンと矢、ナイフを手に取った。
「すまない。何か使えるものが無いかもう少し探してみる。」
ロボットのカウントダウンは始まっている。
「何かわかりました?」
「この機体のマニュアルがあるわ。画面に表示されているものから、ヘルメットがあるみたい。コレをかぶると、周囲の状況が映し出される。」
「ナニこれ、頭が・・・・・・、ああああああああ」
「どうしたのお姉さま!!」
「だ、っ大丈夫。ちょっと気持ち悪くなっただけ、頭の中が今は・・・・・・」
「母星帰還用プログラム?」
同時に姫の体のスキャンが始まり、脳波のデータを取り始めた。
「どうやら、本当に脳波コントロールが出来るみたい。どうなっているのかしら。」
「チュートリアル、腕を動かす、足を動かす。あれ?足なんてあった?」
「変形するみたい。」
「歩いてみる、走ってみる。・・・・・・」
「おねえ・・・さま?」
「なかなか面白いわ!!」
「兵装は・・・」「ドリル、シャベル・・・作業用の機械の様ね。」
「スラスター?着陸機能?宇宙空間での運用?」
「初期認証終了まであと、2000秒」
そのころオシホとシシュチルは、海岸で戯れるマッチョたちに事情を話し、調査に向かうよう要請していた。まさか巨人が現れるとは考えもしていないだろう。
姫が行方不明となっては、責任問題なので、装備を整えて数人が保護と、現状観察のため現地に派遣された。
「ねえ、ヤゴロヲ君、これって、拳銃?」
チャンティコがなにかを見つけたようだ。
僕はようやく、ビーム銃的なモノを見つけた。マニュアルも無いので、なんとなくだが、一か八か・・・とりあえず、ひもと釘と、コレを結んで、コレを引っ張って、このボタンを押す。
「ふう。何も無いようだ。」
「なにしてるの?ヤロゴヲ君?」
もしかしてエネルギー切れ?またふりだしか。
あとは、ハンドグレネード?なんだいこれ?。だたの筒というのが正しい。とりあえず穴が無い。ボタンも無い。でも銃のようなもち手がある。
なんだいこりゃ。
とりあえず、さっきのビーム銃的なものとコレを持ち出し、表に出た。
ウェルとテペヨロは、必死に逃げていた。
ウェルはときおり、ボウガンでけん制しながら、宙を飛び回り、まるで踊っているかのよう。
でも胸もはだけて直す余裕がない。ああっ見える。見えていけない部分が見える。
テペヨロも必死の抵抗中だったが、ダメージが通っているような感じではなかった。
とりあえず僕はビーム銃ぽいものを構えた。何も出なかった。
次に、あの筒を取り出した。とりあえず構えてみた。何も出なかった。
「ちくしょう。あの巨人の足止めができれば・・・・・・」
すると、筒から、マイクロミサイルが発射され、それは誘導して、巨人の足に当たった。
巨人の足の装甲にヒビが入った。巨人は急にバランスを失い倒れた。
「まさか音声入力?」
巨人は、さらに動きが鈍くなった。外装甲が傷ついただけで、なぜあれだけ遅くなるのか?
「とりあえず、巨人に見つかった。僕も動かなきゃ。」
近場にあったヤリを、数本周囲の地面に向かって刺さるようになげ、ヤリを1本持ち即座にその場から離れた。
チャンティコには、建物の影に隠れるように言った。
ひざを抱えて泣きべそをかいていた。普通の女の子らしい反応だ。
巨人相手に行動できる順応性がおかしいと思う。
足が止まったので、ウェルは居住まいを正していた。もうちょっと見たかった。
しばらくにらめっこが続く。顔をよく見ると、欧米人の様に鼻筋が通っていてアジア人で無いことが解る。
始めに動いたのは巨人だった。それは一番鈍いと思われている僕を捕まえる行動で、腕の装甲からネットを射出した。
「あぶない。」
ウェルとテペヨロは同時に動いた。
テペヨロは手斧をなげたが空振りだった。
ウェルは巨人にソバットを食らわした。それは足をねらっていた。先ほどのヒビだ。
そしてひもパンが解けてオマタ全開だった。
さすがにパンツをすぐに回収した。もうちょっと近くで見たかった。
巨人は体勢を崩した。ソバットが効いた。でもなんで?
動きが止まったので、先ほど投げた斧を拾って、ネットから脱出を図ったが、巨人が再び動き出し、脱出を阻まれた。
ネットは、僕の上に覆いかぶさっていた。
巨人はネットを引き上げ始めた、だが途中で止まった。
テペヨロの投げた斧には縄がくくってあり、それが引っかかって網を引き上げられなくなっていた。
助かった。でも依然、ネットは僕を包んだままだ。
「初期認証終了まであと、1000秒」
起動シーケンスも終盤に差し掛かっていた。
「初期認証終了まであと、300秒」
カウントダウンが迫る。
ヒルメ姫は、急激な詰め込みに消耗していた。
「ああ・・・・・ヤゴロヲ様が捕まった!!ヤゴロヲ様が・・・・・・」
ワカメ姫は悲痛な叫びを上げた。
ヒルメ姫にもその声は伝わった。
「はやく、はやく、はやく、はやく、はやく・・・・・・」
ヒルメ姫は願った。「もっと早く、間に合わなくなる前に、手遅れになってはだめなの。」
「初期認証終了まであと、0秒」
「初期認証終了しました。」
「起動シーケンスに移行します。」
「とにかく早く動いて!!!」
僕は捕まった。とりあえずすぐに殺されるわけでなく、人質のようだ。
形勢逆転をねらうには何か隙が生まれないか?
さっきの筒は、音声なのか意識なのか入力方法が予想外だった。
ビーム銃的なモノも、もっと予想外なのかもしれない。
とりあえず、さっきのロボットや、各種道具の件もあって、巨人と言葉が通じるかもしれない。話しかけてみよう。
「いったい何の目的で僕を捕まえた?」
「・・・」
「通じないのか?」
「われらが同胞、われらの故郷、われらの惑星に還る。」
「われらのニビル、われらの仮星、われらはネフェリム」
「いつかこの惑星に還らん。」
「どういうことだ?」
「われらが還るためには、うぬらとの障りは避けたい。」
「さりとて、われらの遺した、小さきものを滅ぼした。」
「われらとうぬらは交われぬ。」
「われ、ニビルに知らせなければ、ニビルは過ぎる。故郷の調べ届かなければ、暮らすにあたわずとおもう。つかまるわけにはいかんのだ。」
「つまり、侵略のため調査に来たが、帰れなくなって、どうにか通信したいが出来なくて、見つかるわけにもいかないと。」
「殺されたくなくば、押し黙るべし。攻めるのではない、戻るのだ。」
そのとき、巨人の動きが止まった。
「そこまでよ。早くヤゴロヲを放しなさい。」
ロボットが巨人の後ろから近づいて、腕を押さえた。
そして、手斧でネットを強引に切った。
僕は巨人の腕の動きと連動してネットと共に引きずられた。
「逃げられない!!」
ウェルとテペヨロが駆け寄る。
そのとき、腰に挿していたビーム銃的なものから空気が出された。
空気はクッションとなって、体に衝撃が伝わるのを阻んだ。銃ではなくて、防御装置だったようだ。
「よかった!助かったみたいね!」
「ばかやろー!!死ぬところだったじゃないか!!」
「助かったんだからいいじゃない。」
それにしても、ロボットが動いている。起動に成功したのか。
「わが、しもべどもの降下船がなぜ動かせる。うぬらは小さきものか?」
「わるかったわね!!小さくて。!!」
「離せ!!小さきものよ!!」
巨人はロボットを振り切った。基本的に力は巨人のほうが上のようだ。
巨人とロボットは対峙した。巨人の足は鈍かった、やはりあの外装が原因だろう。
だいたい、地球の重力であんな体格維持できるわけが無い。もっと重力の低い月や火星なら解る。
つまり、ニビルは重力が弱い。地球で活動するためには、外骨格で補強しなければすぐに骨折してしまう。
「ヒルメ姫、足をねらえ!!ローだ!!ローキックだ!!」
「えっ?どうやるの?」
「片足を軸にして、腰から回転だ!!とにかく蹴れ!!」
「させぬ。」
巨人は距離をとり、ボクシングスタイルで対応した。
巨人のジャブが炸裂する。ランダーは大きくひるむ。だめだまともに対したら、格闘経験がない姫が不利だ。
「相手に付き合うな!!フットワークが無いから、腕だけで攻撃してくる。手のひらを相手に向けて、パンチを払え!!」
「えっ。こう?」
うまいこと姫はパンチをそらして、ダメージを受けないようにしていた。でもコレではらちがあかない。
「パンチをなるべく大きくはらえ!!方向も毎回変えて!!」
だんだん柔道の組み手みたいになってきた。そうだ投げよう。どうせ相手のバランスは悪い。
「もっと強く払え!!」
「どうすればいいの?」
「僕が”今だ!!”と言ったら、近いほうの腕をつかむんだ!!」
強く払っているうちに、隙が出来れば・・・・・・
押し相撲が続く。
このままでは、埒が明かない。隙がつくれれば・・・・・・
僕の手元にはヤリが1本。ウェルのボウガンも矢が無い。テペヨロの投石も効果がない。
ヤリならダメージを与えられるかもしれないが、近づかないといけない。
巨大なモノ同士の戦闘の中、うろちょろするのは得策でない。
一応、7種競技で槍投げはやった事がある。
考えるよりやらないと。
僕は、槍投げの要領で、ヤリを巨人の顔めがけて投げた。だがはずれだ。
僕は、そのまま走りながら、次のヤリと取りに行き、走りながら、ヤリをなげ、また走り、また投げを繰り返した。
そして、その瞬間が来た。
「今だ!!、腕をつかんでそのまま振り返れ。前転するように巻き込め!!」
背負い投げなのか、体落としなのか、よくわからない技が炸裂し、巨人は倒れた。
ズドーン!!と大きな音をたてた。
「押さえ込め!!首の後ろに腕を回し、股の間に腕を入れて相手の背中で腕を組む位しめろ!!相手に引っかかる部分があったらそこを持て!!」
「えっ?、えっ?、どうするの?」
「とにかく上から押さえ込め!!」
横四方固めの完成である。コレはなかなか抜けられない。
「よし、みんな、巨人を縄で縛れ!!」
テペヨロは斧を投げ、斧につけた縄で巨人の足を縛り、寝技で弱っていたので、腕も縛ることが出来た。
「やったー!!ヤゴロヲ。すごいよ、どうやって倒す方法考えたの?」
ウェルが駆け寄ってきた。
近くに隠れていた、チャンティコとワカメ姫が一斉に抱きついてきた。
コクピットでヒルメ姫は疲労困憊ながら、やきもちを焼いていた。
「あの男また、デレデレと。でもスタイルのいい娘がいいの?わたし魅力ないのかな?」
姫は薄れる意識の中、落ち込んでいた。
そんな騒動が終局仕掛けたとき、やっと応援が来た。
「遅い、なんで今頃来たの?大変だったんだよ。」
「しかし、巨人がいるなんてね。びっくりだよ。」
巨人は、何かしたようだ。しかし何をしたのかよく分からなかった。
「われら、必ず還らん。また3600年後に再び・・・」
巨人は外骨格内にある、自決用装置で自決したようだ。
巨人はいったい何だったんだろうか?