53嵐の前
「わたくしは帰りません。ここがわたくしの居場所ですから。」
サーラは、兄を失い、国の同盟が断たれ、帰る故郷をなくした。しかし彼女は妻であり、母であり、人である。簡単にあきらめない。
ニーナとて直接の被害はないが、陸路を絶たれ母国に連絡を取れず安否確認もできない。
元より人質の側面のある彼女たちにとって、母国の裏切りは自らの処遇に直結する。二つのアーリア人集団は同盟関係にあり、軍門に下った関係もあり裏切りとは取られないだろうが、ほかの国にあっては寝返りしている。場合によっては殺される事もある。
トトリは微妙な立場にある。彼女の場合、矮小部族の出身であり、あまり重要と思われていないそのため、後宮に王の妻としての居場所がない、よって彼女は後宮で監視の目は届かず、ブドウの収穫と加工のため農場に寝泊まりしていたおかげで、軟禁を免れた。
「サーラ様、私とて、帰る故郷をなくしました。子供はこの国の子、私はこの国の母です。敵がどんなに強大であろうと、国を守るのに出自は関係ありません。」
ニーナは大人になり、美しさが際立つ。かつてイナンダ王妃は彼女よりも美しいとされていたが、娘盛りに敵うまい。
「よくぞ申しました。わたくしも同じです。」
有力集団であるアーリア人である彼女たちとて、反抗の兆しがあれば(なくてもでっち上げで)容赦なく処断されるだろう。しかし彼女たちは天の根の国で生きる選択をした。
「私はしばらく森に身を隠すけど、マイキ、あなたはどこに逃げるの?」
トトリは念のため、当局の追求を逃れるため消息を絶って、願わくば国外脱出をもくろんでいた。
「おいらは天涯孤独の身だよ。どこに留まるも行くも自由さ。でもトトリ一人じゃ心配だからついて行ってやろうか?」
「生言ってんじゃないよ。あんたまだ子供のくせに。目上を呼び捨てするなんて大人の男になってからにして。」
「自分だってまだ大人じゃないんだろ?おやっさんに聞いたぜ。まだなんだろ?」
「よ、よ、余計なお世話よ。そんなのは時間が経てばなるものよ。問題は人生経験よ。」
「おいらだって、伊達に一人で生きてない。トトリ一人守るくらい簡単さ。」
「いったわね。じゃあ守り切ってみなさいよ。」
「ああ、やるぜ。おいらは男だ。」
トトリとマイキは、身を隠しつつ国を出る方法を探ることにした。
「テヲよ、この新しいアームはなかなかよいぞ。それにこの蒸気船もなかなかに良いつくりだ。」
「お褒めに預かり光栄です。」
スーサは天叢雲剣を背中に挿し、甲冑のようなアームを身にまとい、戦へ赴くため港に駐屯していた。
カズチはホバークラフトと地上から部隊を進めており、海原の根の国からも海と陸から迎え撃つ必要があった。
ガチンコ勝負では勝てないので、決戦の地は考えどころである。
前哨戦で、小競り合いをするが、飛び道具合戦では分が悪いので、ほとんどしたことがない戦略のゲリラ戦を強いられた。
慣れていない戦いのため、良い成果とはいいがたいが、そこそこの損害を与え、行軍のペースを鈍らせていた。
「今のところ、我が方は勢力圏を奪われており、アトラスの門に到達するのも時間の問題です。しかしながら、それは当方にとって、引くことができないラインでありますが、好機でもあります。海洋の後方からも攻められていますが、そちらに海戦の兵力を割かねばならないため、海兵が足らない。しかし海峡ならば両岸に陸戦部隊を置き、固定兵器を置くことで海峡を封鎖できます。あとは陸戦の勝負になり、実弾兵器を主体とした我が方が有利となります。」
「そこで、我が彼奴らを屠ればよいのだな。」
「単純に言ってしまうとそうですが、戦略が必要です。」
「そんなもの、我が剣技で蹴散らしてくれる。」
「でもその剣は、敵の鹵獲物ですので、同じものがあると思われますが。」
「聞くところによると、例の機動兵器でなく、獅子が投入されているらしいではないか?それにずいぶんと軽い装備で攻めてきていると聞く。なめられたものだな。」
「油断はなりません、いかなる装備があるかも計り知れないのです。用心に越したことはありません。」
「テヲよ、臆するな、我に敵はない。」
「はい。……ご随意に。」
「これからは、敵の本拠地、いかな秘密兵器があるかもしれん。用心して進めい。」
カズチの軍は、ナイルからリビアに向かい、着々と進軍している。
東から攻めるカズチ、西から攻めるフツ。地上を主体とした軍勢と船と飛行艇を主体とした海兵部隊による挟み撃ちにより、海原の根の国を追い詰めていた。




