49ナイルの決戦
セトとギブルの衝突は明け方始まった。
シナイ半島とエジプトの境、沿岸のマンザラ湖、そしてナイルの支流によって天然の堀となっている。歩兵部隊はここを通るしかない。
海側から攻めるにもエジプト人は陸を行くより水路を好む、地の利を生かした戦術を持っていたためギブル軍はまさしく難航していたのだった。
セトの軍勢のバリスタによる牽制から始まり、なぜかギブルの陣営から槍や投石が届く。
今までされるがままだったギブルの軍に何があったのか。
今まで損害のなかったセト軍に投石による人的被害、バリスタの破壊が起こった。
逆に、河渡で船上に構えているギブル軍はレバノン杉の盾を構え、その後ろには屈強な男が投石器や投槍器を使って投擲している。まったくでたらめだ。
カズチの軍がナイルを下りデルタ地帯で、物資の補給を受けていた。
主に食料の供給をセトから受けている。武装や燃料は補給の受けようがないからだ。
この時代の兵站は現地調達である。言い方を変えれば略奪や課税。そのため長期の遠征が可能になっている。現代戦では剣や槍を補給しているのでなく、武器弾薬、医療品、整備部品を補給しているので、補給線が延びるとたいがい負ける。
ギブルの渡船部隊を壊滅させるためには、なるべく戦略物資を消耗しないようにしなくてはいけない。レーザーならリアクターの電力で賄え、かつ安価で弾が無限に打てる。だが燃えにくい物質は、熱交換する時間が必要なので、大出力にすれば給電能力が足らなくなる。
なるべくなら現地調達の武器で済ませたいのは山々だが、川向うの陣地を壊滅するためには、レールガンによる制圧力が必要で、ホバークラフトが安全に上陸地点にアンカーを打ちレールガンを射出しなくてはならない。
上陸するために渡船部隊を壊滅させる事が必須になる。
航空戦力として、拡張儀体群があるが、レーザーを無制限に放てる機体ではない。
大型輸送機ほどの機体を投入して空爆するのは最終手段としたい。奥の手は取っておきたい。
セトの陣営にカズチの機動部隊が到着する。キャリアーには改良された重機動兵器が搭載されていた。すでに人型ではなくなっていた。獅子の体に人の頭。その姿はスフィンクスを思わせる。ただし上半身はメジェド様。
搭乗形態は纏うのでなく、ライディング形態。
到着した重機動兵器は拡張儀体群を纏った兵士が騎乗している。
重機動兵器には、キャリアーからケーブルが繋がれている。
「一斉射撃!!」
重機動兵器の頭部からレーザーが照射される。光は直線で放物線を描かない。ナイルの乾いた空気は干渉をやわらげ射程をのばす。
船上のギブル軍の盾はレーザーを防ぐには燃えやすかった。投擲者を守る盾は燃え尽き防ぐものがなくなった。
船は炎上し、流れ弾の光線は対岸のギブル軍まで届く。
「後退!!岩場まで後退!!」
たまらず、後退を支持する現場指揮官。
ここまでは、カズチの思惑通りだ。レールガンによる掃討が始まったが、数が少ない。ギブルの陣営はナイル周辺ではなくシナイ半島のシナイ山にあった。内陸100kmも入った場所である。そんな遠くからどうやって攻め入ろうというのか。
この当時シナイ半島も湿潤であり、川が運河として利用できた。陣を敷く山にはギブルが控えていた。
「テヲには感謝に堪えない。この遠くを見る筒はよく見える。おとなしく陸を上がってこい。通り道は一本だ。」
はるか上空、衛星軌道上には一隻の船が浮かんでいた。機動戦艦ムサシは試験運用を終え、ヤマト用改修部品を降ろす任務のため待機していた。
「私も搭乗してよかったのでしょうか。」
「大丈夫です。新材料の開発にも携わるあなたがいたからこそ、プラズマ粒子加速器の改良が実現したのです。試験を見守る義務があります。」
ムサシの客室にククとヒルメの姿があった。
未だ制圧には時間がかかるが、準備を進めていた。
「超伝導流路が循環式だったものが解放も、ねじれも可能にしたので、炉の制約がなくなって、自由に設計できるのは大きい。推力として高速航行も可能になるでしょう。」
「しかし、なんで進行方向だけでなくて前方にもついているのですか?」
「作用反作用の法則というものがありまして、停止するには逆噴射の必要があるので、同じ推力のものが対で設置しています。」
「でも、前方のはねじれと射出速度が違いますよね。もっと絞っているというか高速化しているというか。」
「後方よりも短時間で効果を発揮するためです。他意はありません。」
「そうですか?これはまるで……」
「それ以上は言わないほうがいいですよ。」
カズチの部隊は、ナイル川の川岸に陣を敷き、レールガンによる援護を背に上陸部隊はキャリアー大隊が内陸に進んでいく。
そこに「キューン」と音が響き、突然、大隊の真ん中に爆発が起こる。
上空から榴弾が降り注ぐ。
「どうだ、月の山の者。投石器の威力は。」
ギブルがテヲから援助されたのは、望遠鏡だけではなく、蒸気カタパルトも援助されていた。
カナンの北、レバノンでたんまり仕入れた薪を山と積んでいた。




