46毒針
タキリとワカヒコの離宮に、たくさんの人が出入りしている。
使用人は元より、国の伝令、衣類や食物、貴重品を扱う商人。入門証を持つか身元を証明するものや、保証人が必要となる。
「今日は、奴隷の取引に参りました。人足係にお取次ぎをお願い致します。」
「今日の奴隷は、上玉だね。自由市民からの降格者かい?」
「ええ、でも犯罪者じゃあないですよ。孤児や、借金で自由権をはく奪されたもんです。」
ローマ以前の奴隷というのは結構不思議な存在で、働きさえすれば後は自由にできたりする。軽く人材派遣といったところでしょうか。
よく時代劇で借金のカタに嫁を売るとかありますが、相続権が女性にあったりして、その逆もありというご時世。男も売られてどこに需要があったのでしょうか。
奴隷と自由市民は今でも存在する。社畜と上級国民である。現代と同じ。奴隷が厳しいのは中世から現代で、犯罪者が奴隷になった時に受ける様な苛烈な待遇を受けていた。
少年、少女、妙齢の女性、働き盛りの男性など様々な人がいた。
「お子さんが生まれて、乳母の口があるんで、それにお付きの稚児も要るという事で、女子供ばかりです。」
「そうなんだよ、城の中が騒がしくて仕方がない。もう何人目だ?まったく。」
「それで、私も商売になるってもんですよ。」
あれから月日が経ち、サーラが子供を産み、ニーナも子供を産み、セセリには子供がなかった。
あれですよ、正妻には気が引けて気軽な側室のほうが落ち着くという。
婿入りとはいえ、タキリ姫とワカヒコは仲むずまじく、子宝によく恵まれた。
ククと出会ってから9年経つ。
テヲも24歳になった。古代ではいいおっさんである。
同時にククも古代では行き遅れのおばさんである。
トトリちゃんは14歳なので、古代では本格子作り世代。ようやくテヲの守備範囲に入ってきたが、幼女時代のトトリのかわいさは捨てがたい。
12歳の少年、マイキは天涯孤独の身。物心つく前に木の洞に捨てられていた。この人材派遣業者に連れられて、離宮にやってきた。
彼は、自由市民ではないが、12になったため、保護先から独立しなくてはならない。そのため人足の求めに応じたのであって、厳密には奴隷ではない。一緒に来た少女や乳母候補も奴隷と呼ぶにはふさわしくない。
「今日から、ここお世話になるんだ、失礼の無いようにな。」
人材派遣仲介のおっさんは、事務的に手続きをすませ、帰っていった。
「さて、しばらくネグラに困らないし、食いもんもあるし、ここの暮らしになれんとな。」
マイキは、新しい環境に適応するため、周りの空気を読もうと、きょろきょろしていた。
そんな中、同じようにきょろきょろしているが、見るからに怪しい女性がいた。
その女性は、単に不慣れであるとは思い難い、扉の場所、部屋の配置、人の動きなど、確認しながら見回っている。
「お姉さんも新しい仕事場で不安なのかい?」
マイキがその女性に声をかけると。
「ええ、どんな仕事をして、どんな人たちと一緒に働くのか心配でしょ?」
「なにをさせられるんだろう?俺は水くみとか薪割りとか雑用かな?」
「男は、そういう力仕事じゃないかしら。女は煮炊きとか洗濯、私は子供の世話に来たつもりだけど、その仕事に就くか分からないわ。」
「俺っちは、屋根があるだけで十分だけど、あんまりきついのは嫌だな。」
「もっときついのは、こんなところの仕事じゃなくて、港とか工事現場とかでしょ?私も汚らわしい仕事じゃないと思うわ。」
女性は普通の会話をしていた。あやしい所が見当たらないが、やはり違和感があった。
マイキが離宮で働き始めて数か月が経ったころ、庭で雑用していると、あの女性がワカヒコの部屋に入るのを見た。
そば仕えの者以外は普段近づくことも許されない場所だが、庭仕事位なら許されている。だが、建物の中に入ることは禁じられている。それが入っていくのだから尋常ではない。
”「何やってやがんだあの女。どうして主人の部屋に行って、まさか妾にでも取り入ろうってのか?」”
しばらくすると、女が出てきた。何をしてきたんだろう?
それから数日後、ワカヒコは狩りに出かけると言い出し、狩りで仕留めた獲物を離宮の使用人に振舞いたいと、狩場のクラブハウスへの同行を募った。これには結構驚きであり、強引に連れ出されるような事はあれど、キャンプ気分で誘われるなんてあり得ない。何か裏があるんじゃないかとうがった考えを持ってしまう。しかしただ飯が食えるというところで、マイキが参加をしない理由がないので、マイキは行くことにした。
あの女も参加するようだ。身の回りの世話係や食事係など必要なので女手も必要だが。
主人は馬車で狩場まで移動だが、従者は徒歩で行軍していた。当然のように警護の兵を連れていた。変な形の棒を持っていて槍にも短く、こん棒にも役にも立たなさそうな棒の先にはナイフがついている。それを肩に抱えている。
クラブハウスにつくと、荷をほどき軽く昼食をとり、狩の準備をする。戦車が馬につながれる。そこで、ワカヒコ殿下は、兵士がもっていた棒を手に持ちクラブハウスの広場前に現れた。狩りに弓では使わないのだろうか?それに槍もない。
「やあ、皆の者、険しい道を同行して疲れただろう。私はこれから狩りに出る。帰りには大量の獲物を持ち帰るだろう。それまで、このクラブハウスでゆっくりしていってくれ。同行したいものがあれば希望は受け付けるが、自分の身が守れるものはついてくるがよい。」
狩場では、主に牛や鹿のような動物を獲物にする。だいたいライオンとか食ってもうまくなさそうだ。
さすがに、同行する気はない。草原は危険がいっぱいだ。好き好んでいくか!!。
ワカヒコが”銃”を構え、獲物を狙う。現代の猟銃と同じものと思っていい。だだそれが軍用に用いられている銃と同じというだけだ。
銃声が響き、牛が一頭倒れる。
「簡単なものだな。しかしレーザー銃と違って反動がある。無反動砲でも軽減できるというのに。」
ワカヒコが、入国の際持ち込んだ、誘導弾を発射する砲が戦車に積まれていた。本国からの刺客が航空機で来た時などのイザというとき用に持ち歩いていた。特に狩りという特に開けたところでは意味がある。
また、一頭と仕留めようと、戦車を走らせ、銃を構えたそのとき、ワカヒコの腕に閃光が走った。
「ぐあああああああ!!」
ワカヒコの前腕を貫通し、落車した。
周りは騒然となり、ワカヒコの落車した地点を目指す。
そこへ、高速で飛来するモノがあった。それは物陰から現れ、鷹が獲物を捕らえる様に滑空した。
「この野郎!!」
飛来した物体めがけワカヒコは、銃を乱射した。
「あたるものか。」
空を飛ぶものに狙いもつけず当たるわけもない。しかも散弾なので射程がない。しかし牽制にはなった。
飛来した物体は空中を宙返りする。
「何者だ!?こんちくしょう!!」
傷口はレーザーに焼かれ出血はない。筋繊維が生きているので、引き金を引くことは可能だった。
上空に舞い上がったそれは、ワカヒコの方を向き。
「貴様はなぜ、本国に報告もなく、敵国に与している!!申し開きあるか!!」
女の声だ。2ローター装備の拡張儀体群を纏っている。
「貴様こそ何者だ!!」
ワカヒコが銃を構え叫ぶ。
「婚約者のことを忘れたか!!いったい何時になったら帰ってくるの!!あんたはいつまで待たせるのよ!!」
何かとても親しい間柄の様だ。
「まさかお前、キギスか!?なんでこんなところに?」
「それはあんたが、でていったまんま連絡もよこさず、あまつさえ女を孕ませ子供までいるとは・・・・・・殺す!!」
キギスは、レーザーライフルを構え、ワカヒコを狙い打つ。
ワカヒコはすばやく戦車の陰に隠れる。
キギスはレーザーのバッテリーパックも惜しいので、本当にねらいを定めていたため、打つのをためらった。それがいけなかった。
ワカヒコは、戦車に積んでいた盾と誘導弾を手に取った。
「そんな盾なんて貫通するわ。」
キギスは盾など気にせず打ち込んだ。
「ばかめ!!こんなこともあろうかと、鏡面仕上げだ!!」
レーザーを反射する。かと思いきやそれは対策がなされている。三波長レーザーなので、どれかが金属面に作用するし反射角もそれぞれ異なる。しかしながら時間稼ぎにはなった。盾の一部が融解し、貫通したが角度が変わったため急所は外れた。
ワカヒコはアームを展開する。これで機動力があがる。
「悪いなキギス俺は、この国で王になる。お前のことはいい思い出にする。」
そういって、誘導弾をかまえトリガーを引く。
誘導弾は、キギスに向かい飛んでいく。
「なんてこと、人に向けて打つなんて!!」
キギスは回避行動ととるが、相手は人間の機動を超える。
キギスの着弾し、轟音と共にはじけ飛ぶ。まさしく木っ端微塵になった。
「成仏してくれよ。」
ワカヒコは胸に手をあて祈った。原語は成仏なんて言葉ではないが、そんな感じの言葉を発したのである。
「ワカヒコ様、ご無事ですか!?」
護衛についていた兵士がやっと、駆け寄ってくる。そりゃ空飛んでくるんだから怖いだろうよ。
「ああ、命はある。でもしばらくは動けない。」
そういって、地面に倒れた。
クラブハウスにワカヒコは運ばれ、治療を受ける。レーザーによるピンポイントのやけどなので、致命傷には至らなかったが、しばらくは安静にしなくてはならない。
離宮には戻れそうになかった。
マイキなど、特に技能のない使用人はその日のうちに、離宮に帰され、逆にクラブハウスには警護、医者、タキリ姫が向かった。
キギスの回収に来ていた部隊は、識別信号が途絶えたため、捜索部隊と攻撃部隊の派遣を依頼していた。
空に響く雷のような轟音。バリバリと音があとからついて来る。
音速を超える攻撃機が、クラブハウスに近づく。そして、一本の矢のごとくミサイルが放たれる。
クラブハウスにそれが到達すると、号炎をあげ建物を粉砕した。
そのさまをタキリ姫は見ていた。遠くはるか彼方に上がる火柱。




