45蜘蛛の糸
宇宙エレベーターは、振動に弱い。
正確に言えば、宇宙エレベーターを構成するケーブルの振動数が大きくなると、振幅が大きくなって崩壊する。
距離が距離なだけにその振幅が大きい。なのでそれを補正するため、ケーブルの各点でスラスターが働き、地上ではアースポートが動く。ちなみにケーブルを引っ張っているのは地球の重力なので、端を固定しなくていい。
ネフェリムの技術がすごいのは、アースポートの制御で、ケーブルの張力を変えることで弦の固有振動数を変える。張力は重力に依存している。
ネフェリムは重力操作により制御を可能にしていた。今まで壊せなかった理由が、重力制御の理論が不明だったからである。
「さて、念願の宇宙エレベーターの破壊が可能になりました。が、宇宙への輸送能力が惜しい。」
ヒルメの思いも当然で、ロケットに比べコストが100倍は安い。
宇宙エレベーターの構造自体は、カーボンの帯を束ね一本のケーブルに仕立ていている。塔というよりはロープウエイのケーブルが縦になっている単純な構造なのだが、件の振動対策以外に、材料と、スペースデブリによる損傷対策、地上の雷による焼失が問題である。
実は常に多重に束ねたケーブルを入れ替えているのだ。だから地上の端から宇宙の端にコードリールがあって巻き取っている。
ネフェリムのシステムは自動巻き取りを実現している。さらにレーザーによるバリアフィールドを持っており、雷もデブリも寄せ付けない。よほどまっすぐ建てる自信がないと出来ない。
「現状と同じとはいいませんが、これに類する天の橋を建造できる能力を常に持たなくてはなりません。」
「材料さえあれば簡単です。あと天候が安定して晴れの地域があれば、地上からバリアフィールドを張る必要がないので、エネルギーも節約できます。」
ヒルメの質問に技術者が答える。
「材料はプラントで製造できるでしょう。常に晴れの場所が地球上にあるのですか?」
「大丈夫です。あります。衛星観測によって雨の降らない地域があります。」
「それはどこ?」
「ザンジバル島から東に行った洋上(インド洋、セーシェルあたり)と、カラコルのはるか東と西にそれぞれ1箇所あります。」
「カラコルとはまた懐かしい地名ですこと。」
学園都市カラコルとは、また懐かしい。ヒルメと私が出会って、別れた場所。今のオーストラリアの中北の海面下にあたる都市である。3000年ぶりに聞いた。
オーストラリアのパース西地域の洋上は、砂漠と同じ緯度にあり、熱帯性低気圧も発生しない。
イースター島周辺も同様に天候の空白地帯がある。
「しかし、赤道直下でなくては、建てられないのでなくて?」
「いいえ、多少軸がずれていても大丈夫です。むしろそれがいい。ねじれが発生しにくい。」
「しかし、重力と地軸が垂直でなくては建てられないのでは?」
「あれは、建てるのでなく、降ろすのです。よく勘違いされますが、地球の重力に引っ張られて、するすると地上に降りるのです。建造も衛星軌道上から地球へケーブルを垂らす一方で、その力とつりあう重さとモーメント分のケーブルを宇宙側の端へ放出してやるのです。」
「理屈は解りますが、建造に問題はないのですか?」
「お察しのとおり、ケーブルは直下に下りていきます。多少の風などで流されるでしょうが、基本的に、赤道直下です。それを、航空機などで捕まえて、地上のアースポートに誘導していきます。」
「それでは、航空機が運用できる施設が必要ではないですか?それにアースポートが海上になって、アンカーの用を成すのですか?」
「航空基地は造成しなくても、当座は空母を用いても可能と存じます。降ろす側にドローンを付け、ある程度誘導してから、回転翼機で捕まえる。あらかじめ建造したアースポートをザンジバルから牽引し、ケーブルを設置すればよいのです。」
「とりあえず、近場からなら、航空基地は必要なさそうね。でもベヒモス回収が目的ならカラコルがいい。悩ましい。」
「実験的に、近くで試してみてはどうでしょう。地上と違って、輸送物資の搬送に制限があるので、小規模の宇宙エレベーターでデータを収集してはどうでしょうか?」
「悩ましい。レヴィアタンが手に入れば、カラコルに必要で、ネフェリムを迎え撃つためにも、宇宙エレベーターの予備が必要。しかし付け入られる心配もある。」
ヒルメが悩むのも当然で、すでに宇宙とは魅力的な空間であり、地球外の敵を迎え撃つためにも、地上からの補給が重要になる。
「エレベーターは、破壊可能ですし、建造資材をコロニーに保管しておけば、すぐにでも復旧できます。それに無重力システムがあれば、コロニーに保管したアースポートも地上に直接降ろすことが可能です。」
「そんなにうまくいくものかしら?それに、無重力システムは運用コストがかかり過ぎます。ロケットを上げるよりも。ムサシも降ろすなら一回です。それもかなり高高度で。降ろす機会はヤマトサルベージのためのみです。他の方法を考えなさい。」
「はい。承知しました。」
宇宙エレベーターを上り、宇宙に行く一人の女性、ククの見送りに多数の生徒たちがターミナルに集まっていた。
ターミナルは、厳重な入港規制が張られているため、見送り用の観覧室からだが、別れを惜しんで集まっていた。
当のククは、あまり気にしないで、まさしく天にも昇る気持ちで乗車した。
エレベーターやナノマシンの記述について、どうせファンタジーだし、実現してないものに対して間違っているというのもなんですが、ちょっと気になる事があって、補足としてをかきました。
火星のエレベーターは、フォボス、ダイモスが静止衛星軌道より下を周っていて邪魔なので、赤道をずらして建造しなくてはいけません。
月のエレベーターは地球の重力側に垂らすのですが、ケーブルが長くなって地球のエレベーターに干渉してしまいます。月なら本当に塔でもよくて、重力が弱くなった高度からダイブ。月の重力ならマスドライバーでもいい。
木星型は地表がないので衛星側から降ろします、月と同じ方法が採れます。しかも重力が強いので、干渉の心配もありません。三重水素取り放題。




