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古事新記(ふるごとあらたにしるす)  作者: 五十鈴飛鳥
第4節 海と天はふたたび交わる
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41トトリちゃんの日常

 トトリの朝は早い。

 現代の時間帯で言えば4時ごろ、かまどの準備をするため起床する。

 前日までに準備した薪に火を入れる。火打石など気の利いた道具はない。

 種火を残すか、木と木を摩擦して火をおこす。

 通常は種火を残すため、火のついている薪を灰の中に埋める。


 トトリは、灰に埋もれた薪を掘り起こし、そこへ木屑や松ぼっくりなど燃えやすい素材に火を移し、再び炎をかまどにもどす。

 アウトドア派には馴染みがあると思う。なにせ一回の飲み会3000円あれば一回焚き火が出来るから焚き火をとると言うくらいである。火にとり憑かれているのかと(ゾロアスター教か?)と思うくらい。


 かまどに火が戻り、そこからパンを焼く準備をする。

 前日の夜に小麦を挽いて小麦粉となったものを、ビールのような醗酵で得られた飲料を水代わりにして練る。水がきれいであれば水でもよいが、ビール酵母があったほうがおいしい。このころはイーストの醗酵など期待できない。もっぱら無醗酵パンが主流である。ナンのようなものである。

 水の悪い地域では、ビールは家庭の味である。低アルコールのビールは飲用にパンから作られる。そしてトトリのパンは、そのビールが使われていて、ビール自体も美味であるが、パンも美味である。


 フライパンなどの気の利いたものはなく、調理器具は土器や石を加工しているので、加熱までに時間がかかり、火加減の調整も難しい。


 皿状の石焼釜でパンを焼いていく。

 一日分のパンを焼いたところで、6時ごろになる。そこからいつもはテヲの御所まで行くのだが、今日はテヲは用があると言ったため、おかずを作って朝食にする。


 だいたい8時くらいに”学校”という名の後宮に向かう。

 王の妻であるいわば”中宮”(枕草子とか更級日記とか参考にしてもらいたい)なので宿舎は御所の中にあり、通常は御所の壁の外に出ることはほとんどない。


 学校内のヒエラルキーは、正妻が頂点でありその下に王家ゆかりの出自、国家の強度が関係する。先王や現王、王位継承権があるものの共用なので、実はもっと複雑である。イナンダは先王の正妻というより女王なのでその限りではない。

 ちなみにサーラやニーナの立場は、正妻に次ぐ中宮、トトリは最下層なので、労働の必要があった。10~11歳であっても生活するためである。


 学校では、読み書き、マナーや立ち振る舞い、料理などの花嫁修業が義務としてある。


 学校の授業が正午までに終わる。そのあとにトトリは軽く昼食をすませ農園へ向かう。




 夏を前に、スイカが植えられている。病害を防ぐため(コンパニオンプランツ)に周りには西洋ネギ(リーキ)が植えられている。西洋ネギの旬は冬だが、実に種類が多く年中食べられる。



 トトリが農場までの道のりを歩いていると、様子がおかしいことに気づく。

 数日前まで、収穫を待つまで熟れるスイカがしおれて、中には枯れているものもある。




「トトリちゃん大変なことになったよ。」

 トトリが着いたときには、農場のおばさんが困り果てていた。


「こんなんじゃ収穫は無理だよ。せっかく虫が寄らないで、甘く出来たと思ったのに。」


「おばさん。あきらめては駄目!!どこまで広がっているの?まだ健康なスイカを収穫して、病気の畑と健康な畑を分けなくっちゃ。」


「それがね・・・・・収穫できるようなスイカは獣にやられて・・・・・・」


「なんてこと・・・・・・でも、病気の株を分けることは出来るでしょ?」


「今いる人手では少なすぎるんだよ。植え替えるにも時間がない。病気のスイカを埋めておく土地もないし、土を燃やして病気の元を絶てない。どうしたもんか・・・・・・」


「他の作物の土地は?」


「てんさいとかなつめやしで埋まっているよ。」

 収穫がなければ収入がなくなってしまう。単一植物では、飢えてしまう。


「どうすれば・・・・・・」


「燃やすしかないよ・・・・・・」


「だって・・・・・・せっかく育てたのに・・・・・・」


「こうするしかないよ。」

 おばさんはあきらめた表情で、畑を見つめていた。


 周りの家族ともどもスイカを根元から掘り返し、土を盛り上げ土を焼く準備をしなくてはならない。農家には苦痛の選択だった。


 トトリは悔しさに涙をにじませながら、悪くなったスイカをツルと根ごと引っこ抜いた。その作業は日没前まで続き、帰りは日が暮れてからになった。







 帰ってから、夕飯の準備をする。今晩はリーキのスープが付く。まだ未成熟だが。

 ネギはうまみ成分の一種を持っていて、なべ、すき焼きや、串焼きに付いているのは、相乗効果が見込まれるためである。



 やはり前日のようにパンの仕込みをし、今晩はリーキーを鉢植えに植え替えて就寝する。



 翌朝、いつもと同じように起き、支度する。今日は適量のリーキと共にテヲの部屋へ赴く。


 いつものように朝風呂をいただき、食事の用意をする。

 さすがに一緒に入るのは気恥ずかしくなってきたが、習慣になっているので止められないでいた。状況だけ見れば通い妻といって差し障りない。実際、後宮に入れば何歳であれ、アレの対象になる。もっとも子供も産めない年齢では意味がないので一般的には適用外である、一般的には・・・・・・。

 なにせテヲは、同衾すればそれは男でも女だってかまわないで食っちまう人間、と呼ばれている。



 朝食にトトリのパン、それにリーキのスープが並ぶ。テヲは、トトリがいつもの様子ではない事に気づいた。


「どうしたんだい?トトリ?なんか元気ないね。」


「うん。仕事でちょっと嫌な事があって・・・・・・」


 トトリは農場での残念な出来事を語った。


「じゃあ、人手を出そう。そうだな、機動兵器もだそう。」


「え?そんな事してもらっても何も返せないよ!?」


「いつもおいしい朝食を作ってくれる。こんどは俺の番だろ?」


「でも、軍隊まで動かさなくても・・・・・・」


「このままじゃ、おさまりがつかないんだよな。人手は暇なやつを連れてこればいいし、機動兵器もたまには動かしてやらないと、さび付いてしまう。だいたいどれだけ実用できるか見たいしな。」


「だって・・・・・・」


「だってもへったくれもない。やる。」



「・・・・・・ありがとう。ありがとう。おじさんもおばさんも農園のみんなの命が救われる。」


 トトリは、祈るように感謝した。





 昼学校が終わり、農園に着くと、サーラとニーナがいた。

 主に土木担当のサーラと農業担当のニーナである。


 テヲが話しをすると快くなのか、打算的なのかすんなりと受け入れてくれた。


「いっやー、トトリちゃんが困ってるんだから、ちょっとは協力しないとね。あとぶどうよろしく。」

 ニーナは幼馴染であり、妹みたいな存在のトトリをスナック感覚の扱いだ。


「わたしが赴いた限りは、決して全滅させませんわ。」

 サーラは従者を従え、大見栄をきる。


「そんなこんなで、機動兵器もって来ました。」

 テヲは、鹵獲したパワーローダーをアレンジした機動兵器を転がしてきた。

 基本的に車両だよね。という雰囲気である。後部に鹵獲した小型トリウム原発が搭載され、地上を走る動力兼その熱で機動兵器のスターリングエンジンを動かしている。電力でなく空圧、油圧を用いるためスターリングエンジンを用いている。まあ失敗兵器です。


 スターリングエンジンは、現代でも最大の熱効率を持つ、単純にして究極のピストン機関である。コンプレッサーや冷凍機に使われることが多い。


「じゃあ始めようか。どこからやっていけばいいですか?」

 テヲは農園のおじさん、おばさんに尋ねる。


「それなら、植替えがしたいんだが、駄目になった土を取り除いてその上に正常な土を盛りたいけど、その土がないんだ。だから土を焼いて寝かせないといけないから無理だ。」


 農園のおじさんはあきらめて言う。


「うちの農園の土をもってくれば?」

 ニーナがあっさり言う。


「でもかなりの土の量だから、どうやって運ぶんてんだい?」

 おばさんが言うと。


「じゃあこの機動兵器で運ぼう。」


「土を取り除くのはわたくし達にお任せください。」

 サーラ率いる、エージアの兵士は農具を持って控えていた。

 テヲとニーナは、ニーナの農園へ土を取りに行った。

「テーヲ。何する?子作りする?」

 もう十五歳になるニーナは魅力に性的魅力に溢れている。そりゃテヲも心揺らぐこともあるでしょう。しかし。

「いまは、一刻を争う。早く解決しよう。その話は後でもいいよな。」


「うん。わかったー。」

 素直な返答だが、素直すぎるのはあとが怖い。


 ニーナの農園の農夫に土を分けてもらい。荷車を牽引する。


 スイカ農園に着くとすでに兵士が土山を築いていた。ただ、ツルや根っ子ごとなので分別に時間がかかりそうだ。

 兵士があけた土地にニーナの農場の土を上乗せして、ならす。無事だったスイカを植え替えるのは、農夫が行うが兵士では不安が残ると思われた。


 これを何往復もする。一番初めにニーナが付いてきたが、2往復目からは農夫が付いてきた。多少でも植替え技術がある人員がほしいからだ。


 トトリは泥まみれになりながらも一生懸命植え替えた。



 夜を迎えるころ、作業は終わった。しかし全滅を免れたとはいえ、8割の作物を失ってしまった。


「ありがとう。ありがとう・・・・・・」

 トトリは涙を浮かべるがさびしそうだ。

 おじさんおばさんはもっと深刻だ。

「トトリちゃんに支払える給料がない。ごめんなさいね。」


「大丈夫よ。また育てていっぱい収穫すればいいだけだもの。」

 トトリは気丈に振舞う。


「じゃあ私のラピズラズリを差し上げましょう。」

 サーラは自身の首飾りに手をとろうとすると。

「いけません!!これは自然の成り行きです。いつ同じ事が起こるかわかりません。そのたびサーラ様に施しは受けられません。」

 トトリが大いに声を荒げ言う。


「しかし、あなたの生活は苦しいのでしょう。ならば一時は受け取りなさいませ。」


「駄目です。甘えが出てしまいます。申し訳ないですがお納めください。」



「じゃあ、ニーナの農園ではたらく?」


「え?でもわたしおじさんの農園を立て直さないと・・・・・・」


「立て直しは任せろ。機動兵器の正しい使い方を見せてやる。」

 テヲは大見栄をきるが、機動兵器はトラクターではない。営業がよく安請け合いして、技術が見積もりすると、可能だが資金と時間が要るので断りたいというと、もう受注したので駄目ですと言われる。それと同じにおいがする。


「じゃあさ、ぶどう。植えてみない?すこし時間がかかるけど、ちょうどこの開いた土地で出来そうだし。そしたら、うちで収穫まで面倒みるから。育ててみない?」


「え?おじさん、おばさんが良いって言わないよ。」


「トトリちゃん大丈夫だよ。おじさんはぶどうを作るよ。そしたらトトリちゃんに苦労はかけずにすむから。」

「そうだよ。ぶどうがなにか知らないけど、作物に変わりないからね。」

「おじさん、おばさん・・・・・・」

 トトリと農園のおじさんおばさんは抱き合い、涙を流した。


「ぶどうからはワインが出来るよ。この農園で出来たワインは買い取るよ。」

 ニーナは、やっとワインがぶどうから出来ている事を知らせたのである。


「えっ!?あの高い酒の!?」

 おじさんは驚いた。

「なんだい。あんたが一生に一度は飲みたいっていうやつかい?」

「じゃあ、ワインでパンもつくれる?」

 三人が抱き合ったまま顔をニーナのほうに向ける。



「わっかんないけど。とにかく良いものらしいよ。」

 ニーナがワインの価値がわかっていないまま取り扱っていることが判った。



 三人の顔が一気に明るくなる。


「ありがとう、ニーナちゃん。これでこの農園は安泰ね。」

 トトリはニーナの手をとりブンブンと上下に振る。


「わっ!!なになに? うんよかった。」

 ニーナは、喜ばれていると感じているので、とりあえず賛同した。






 数日間、宮廷には、西洋ネギ(リーキ)が食卓に並び続けた。

「毎日、鳥料理やスープがおいしくなるね。」

 トトリはにっこりと微笑むが、テヲはしばらくネギを見たくないと思った。


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