35いざ宇宙(天竺)へ
宇宙エレベーターの根元にヒルメと共にククがいた。
宇宙へやっと上る時が来たのだ。
宇宙空間での注意や、対処など教本を覚え、テストして、体力も付けた。
宇宙エレベーターはロケットと違い、猛烈なGがかからない。
衛星軌道上 3万6000km 平均500km/h 72時間の旅だ。
上空に上がると重力が弱くなる。重力を発生させるため1Gは確保したいので、徐々に加速する。逆に減速は1Gで減速すると逆方向に1Gかかる。1時間で済む。
人体には優しいが方向が逆転するという非合理のため、なるべくGが発生しない速度で移動する。数百tもの重量を運搬この方法だと機械的負担が大きい
「準備はいいかしら。」
ヒルメが意外と普通な格好で、ターミナルにいた。衛星軌道上のターミナルまでは比較的気軽だからだ。そこまでは、宇宙線と空気の心配をしなくてもいい。問題はその先で、ラグランジュポイントのコロニーのへ行く、角速度のポイントへは、基本的に超音速で移動する。かなりあっという間だ。地球圏ではない、火星や木星へはもっと上へ行く。行っても帰ってこれるか心配なので、冒険目的でなければ使用しない。
「意外と普通でいいんですか?」
ククは今までの訓練はなんだったのか?と疑って、スーツケースをもってまるで特急列車に乗るような雰囲気でいるヒルメが信じられない。
「ええ、あそこまでは、安全だから。滞在するとなれば、近くにある居住コロニーに移動するときは、シャトルに乗り換えして宇宙服を着てもらいますが。」
ヒルメは安全を強調する。
「今回は、メインフレーム上の書籍のコピーですから、滞在しますけど、ターミナルには居住区はないんですか?」
「居住できない、というより重力がないので、長期間滞在すると体に異常がでます。なので1G相当の回転をしている居住区を別で用意しています。」
「長期間といっても10日ではだめですか?」
「即座に影響があるのは、循環系です。次に三半規管。体のむくみや宇宙酔いにかかります。その次に重力負荷がなくなったため、心臓の縮小、骨の減少、筋萎縮が起こります。それは教習済みですよね。2~3日でも適度に運動をする義務があります。地上にすぐ戻るのであれば良いのですが、10日前後の滞在でもお勧めはしません。」
「でも、毎日往復では大変です。なんとかなりませんか?」
「その辺は、通信でつながっていますので、一度設定してしまえば状態は確認できますし、データ転送はダウンローダーで管理しておけば、終わりを待てばいいので、じっと見ている必要はありませんよ。」
「そうなんですね。コンピューターは詳しくなくて。書籍がコピーされた端から読んで生いきたいですけど、ちょっと無理ですか。」
「無理ではないですけど、ちゃんと転送されてからの方が、データ破損の心配が少ないですから、安全を見て終わった後がいいですよ。」
「ああ待ちどうしい。どんな本があるのかしら。」
「現代から言えば古代の本ですから、あまり期待しないで。これまでにいくつかの発見もありましたが、文明復古するためにかなりの時間を費やしてしまい、失われた技術も存在して、書いてあっても実現できるかは疑わしいものです。」
「でもその時を生きた私たちは、失っていない技術を持っているはず。」
「専門や職業にしてないと、それは難しいでしょう。特別なにかが優れていないと。」
「たしかに天才ではないです。」
「転生した人物でも、異常なのは例外です。期待しています。決してククさんが凡庸とは思いません。」
「そうですか。うれしいな。」
ククとヒルメは、宇宙ステーション行きの、現代日本ではあまり見ない寝台特急に乗り込み、3日間の旅をすごす。
宇宙エレベーターは、はるか超古代の遺跡である。元の住人は宇宙へ旅立ったのだろうか、それとも地球にとどまったのだろうか。
氷河期が終わったのは1万2千年前。1万6千年から氷河期の終わりまでにスンダ大陸棚でムー連合王国が興り、海面上昇により沈んだ。その前に氷河期が始まったのは7万5千年前で過酷な時期を避けて新天地を目指したのか。
遺跡の設計自体は8万年前のものだ。ただ、定期的に使われた形跡がある。消耗品や移動手段など都度持ち込まれ、古い機器が捨てられている。2万6千年前から3600年周期で。(現代から算定した年代)
1/3の工程を寝台が通りすぎたころ重力は地上の1/4、距離の二乗に反比例して、同様に2/3は8/100、到着には2/100になる。
正確には静止衛星と同じ角速度であるため、重力と遠心力がつりあう点は3万6千kmの時点で無重力になる。それまでは列車の加速度とコリオリの力、角速度と高度による向心力の合算である。
「ほとんど歩いてられないじゃない。」
工程の半分を走り終えるとほぼ地上の1/10の重力しかない。コリオリの力により自転方向の逆に振られる。ククは宇宙エレベーター特有の現象に戸惑っていた。ロケットならコリオリの力よりも、脱出加速度のほうが強く感じる。コロニーでもコリオリの力が働くので、ボールを上に投げても元に返ってこない。
「だから、ベルトで固定するか。手すりを持って移動するか、あきらめて寝るかです。」
ヒルメは慣れているのか、列車の乗り方は心得ている。
「頭も痛いし、なんかおかしい。」
「それはもう宇宙酔いが始まっている証拠です。それに減速シーケンスに入ったら完全に無重力です。それまで慣れるまではおとなしくしていた方がいいですよ。」
ほぼ無重力といって過言ではない。地上と同じ行動をしたら作用反作用の関係ですっ飛ぶ。
それでもククは、初日にもの珍しさもあって、制服のスカートをたなびかせて、客室や食堂を回っていた。
「制服では動けない。運動着に着替えるか?」
スカートで歩いた日には、めくれるのかまとわりつくのか、慣性の法則の向くままに流れるので、どうにもならない。
「だるい。なんにもやる気がおきない。」
船酔いと同じく慣れるしかない。幸いにしてあと1日もあれば到着する。そこからは重力があるコロニーに移動するので、気持ち悪さから開放される。
ククは仕方なく横に?なることにした。
やっと静止衛星上のステーションに着く。ここでククとヒルメは下車した。列車はヒルメたちの物資とランダーを降ろすと、ラグランジュポイント方面に向けて去っていった。
「やっとかー。短いはずなのに。」
ククはもっと楽なものだと思っていた。
「それでは、一休みして、ドックに向かいます。」
「はい。じゃあトイレに・・・・・・」
「無重力なので気をつけてね。分かってると思うけど。」
吸い込み口がついたトイレに向かう。パンツ脱いで股間にあてがうのってなんか嫌。重力はとても重要だと実感するのだった。
「それで、例の宇宙船は?」
「あれは、機密事項なので、入り口が複雑なのですよ。たぶん覚えられない経路をたどるので、はぐれない様に。」
本当に初見では迷うような道をたどり、その”魔獣”は姿を現す。
その宇宙往還機は意外と小ぶりだった。しかし核融合ロケットエンジン(ド○の足についてるヤツ、リック○ムはスラスターになっている)により、宇宙、大気圏共に航行可能である。
「とうとうここまで来たわ。やっと本が読める。」
「まあ、地上の本はお嫌い?」
「そういう訳ではないですが、教科書では物足りないです。」
「その面では満足いくと思いますが、わたくしには専門外はさっぱりです。メインフレームへのアクセスは、船内のパネルを用います。データ転送も通信をコロニーからアドレス指定してつなげればモニターできます。あとは何を選択するかはククさん次第です。」
「地上のオペレーション通りで良いんですよね?」
「まったく同じシステムのシュミレーターですから。コンテンツはコピー済みですが、中身までは保障できないので、ためし読みしてからダウンロードすることをお勧めします。」
「では、早速。」
ククは、予め渡された目次を元に書籍を確認していく。
「だいたい選別はお済みですか?」
ヒルメが、ククに転送準備が済んだか確認に来た。
「いえ、思わず見入ってしまって。」
「アルバムとか見つけるとよくあることですけど、手短に。」
「はい。」
宇宙酔いに慣れたとはいえ、重力がなければシャワーも満足に浴びることは出来ない。早く汗を流してさっぱりしたい。
「これで全部。あと、やり残しないかと・・・・・・」
たぶん見落としないだろう、ただ彼女に当てたメッセージが含まれている書籍もあった。前世に係わった天才からのメッセージだが、それを読む頃はいつか。
重力を発生するため回転している、トーラス型(ドーナッツ型)へシャトル移動するため、複雑な帰り道を通っていく。
居住区について重力が発生したため再び、適応に時間がかかるがやっと落ち着ける場所にやってきた。
「それでは、夕食まで自由時間にします。それでは良い宇宙が見れますように。」
ヒルメはククを居住区に送ると、自分の執務室へ向かった。ククに付き添う形で居住区まで来たが、本来ならラグランジュポイントのコロニーへ向かい、象徴女王を演じ地上と宇宙をつなぐ役割を果たさなければならない。コロニーは民主制なので君主による統治ではない。しかし地上からの資源とコロニーの生産物は、切っても切れない関係にある。そのための女王である。
ククの付き添いがあり、今回の訪問は見送りしてあと10日はここにカンズメになる。という覚悟をして帰りの便を待つ。コロニーの生産物がなければ、戦争の準備もままならない。
書籍のダウンロードが終わっても、帰りの便が来ないと帰れない。その場合とてつもない暇つぶしが待っている。
こうして、ククは無事書籍をもって帰ることができるのか?
天竺が幻でないことを願う。




