31砂嵐のセト
水陸両用船は、ナイルの西岸の砂漠へ上げられた。砂地なので上陸には打って付けだった。
下ナイルでは、宴会が催されていた。
ホノヒコは上機嫌だ。
酒に、魚に、山羊の肉、そして女。
洗練されている料理ではないが、天然ハーブや人工的に調整されていない食材。
苦味や渋みはあれども、それがうまみにつながる。
「こんなの初めてだよ。」
ホノヒコにとっては、工場栽培の野菜、肉も加工済みで、魚なんて水が貴重品なので、そう易々と養殖できない。
「喜んでもらえてるのかしら。」
女たちがホノヒコを取り囲んで、酌をして食べ物を口へ運んでいる。
「こんなもてなし、してもらっていいのかな?」
ホノヒコは通訳に話しかける。
「セト様が言うには、天使様には不自由をさせません。という事で、いろいろ優遇してくれるようです。」
前日より続くもてなしは、過剰とも思えるものであり、それは兵士たちも同様だった。
黒人の兵士たちの中には、見事にハニートラップに引っかかったり、篭絡されるものもあった。
言語が方言レベルで同一であったため、わかり辛いが会話が一応通じる。
ムーの言葉を使う人々は、うまくいかない様だが、ホノヒコには通じる様だ。
「天界の武器とはいかなる物か見てみたいものだ。」
セトが見事に罠にかかった兵士たちを集めて、座談会形式の秘密会議を行っていた。
「遠目で見てもらってもいいなら、あの船の甲板には強化外骨格が見えます。一言で言えば人が着る巨人です。」
「巨人を着るとは滑稽な。人が背に乗るのではないのか?」
「コレが着るんです。足を履き、腕に袖を通す様にすると、まるで自分が大きくなった様に動かせるんです。」
「ほう。何かコツはあるのか?」
「コツと言うと、少し遅れて動く感覚というか、足や手に棒を付けて動かしている感覚なので、慣れない内は転びそうになったり、タイミングがずれたりしますが、力は何倍にもなります。」
「それはすごい。それでその力の源は何だ?」
「それが、我々兵士ではよく解らないもので、魔法(ケミカルの語源でないかと考えられる)で水を燃やしているらしいんですが、炎がなくて。」
「水を燃やすと!?それまた奇怪な。神の成せる技か。」
「これも、女王陛下のもたらした奇跡でして、天の御柱から降ろされてきた物です。」
「天に続く柱の上には何があるのだ?女王は何者なのだ?神なのか?」
「女王陛下は、自分のずっと前の祖の頃から姿が変わりません、いつ降りられたかは存じませんが、神だとしか思えません。たまに天に戻る事があって、そのとき一緒にいろいろモノ(物、者)を降ろしてくるんで、上には神の国があるんだと。」
「そうか、神の国か。神なら納得がいく。しかしあの降りてきた”ホノヒコ”は神とは思えん。」
「あの男は神ではない様です。女王陛下の血を引いているらしいですが、まったく力を感じません。」
「しかし”神”の血を引いているのだ、侮れないだろう。」
「そうですか?道中まったく普通でしたよ。」
「普通か。それは、道化かもしれん。しばらく様子見するとする。」
「ところで、翅はどこにあるのだ?」
セトは、あのフライトユニットの所在を聞いた。
「それが、船の中にあるのはあるんですが、限られた者しか知らないんです。基本になる装備は、我々でも装着出来るのですが、アレは特別で使う人間も固定されているので、モノがあっても扱えないです。しかも4機分しかないです。」
「船はどれだ?それと扱う者は誰だ?この中にいるのか?」
「船は、強化外骨格が乗ってなくて、部屋みたいになってる船があるでしょう。一つは、使者の船ですが、もう一つがそれです。装着者はこの中には居ないです。見た目から女性なので、宴会に参加してないかもしれません。」
「その者達が、真実の天使か。」
セトは真の客人がその者達と断定した。まあ本当はミミと同じく、選抜され訓練を受けているテストパイロットであって、使者ではない。たぶんホノヒコより機密は知ってるが。
「我々と同じ黒い肌の者ですよ。天使ではないでしょう。」
「あの者、肌は黒くなかったが、それが天使の証か?」
「女王陛下もそうなので、そうだと思います。」
「それでは、ポセイドンと同じ肌色ではないか?ポセイドンは神だと?」
「ポセイドンとは誰の事で?海原の国の主の事なら、女王陛下は同属だと仰っておられましたが・・・・・・」
「なん・・・・・・だと!?」
セトの顔色が変わる。
「神と同属だと!!あの力は神の力だと!!確かに硬い武器。人と思えぬ速さと力。神のものと疑わないが、それが月の山の神と同じだと!?なんということか。」
「女王陛下は、武力で攻め入ろうとせず、海原の国と国交を結びたいとしています。兵力も不明なので、慎重なのでしょう。」
「武器や兵の特徴なら、私が知っている。女王に私から報告したい。話は出来るだろうか?」
「それは、ホノヒコ様を使えば簡単かと。でもその前に海原の国から帰還して報告しなくては。」
「別に、帰らずとも、しらせがあればよいのだろ?」
「それはそうですが、しらせは言葉でなくてはいけません。」
「何とか、ホノヒコと解る印があれば良いが・・・・・・」
セトの企みなど知らず、ホノヒコはおもてなしに酔いしれていた。
「いい、いいよ。このやわらかさ。おっぱい、フトモモ、おしり。」
見事に女に溺れていた。
「ホノヒコは、まだやっているのか?」
セトが会合から戻ってくるまで、数時間があったが飽きることがないようだ。
「ちょっと、これもって来てもらえる?」
ホノヒコは、メモ用紙を取り出し、通訳に渡す。
しばらくして、通訳はアクセサリー類を幾つか持ってきた。
「これあげるよ。その代わり、夜はいいことしようよ。みんなでさ。」
通訳が、アクセサリーを渡し、ホノヒコの言葉を意訳してつたえると。
女たちは喜び、抱きつく。実はコレもセトの策略の内。もともとホノヒコを骨抜きにするためだ。
「あれはなんだ?」
セトが篭絡した兵士に聞くと。
「あのアクセサリーは近隣で採れる金や銀、宝石で装飾しています。わが国の特産です。」
「そうじゃない。あの木っ端のようでうすいあれは何だ?」
「私もあんまり知らないんですが、あれに顔料で何か絵を描くと、あの肌色の人達は何か解るみたいで、何でしょうね。」
「あれは、どういう時に使うのだ?」
「何かの数とか命令とからしいですけど。あ。今回の御使いにも木箱に入ったアレがあるそうです。」
「ソレだ!!」
「ソレ?」
「ああ。あれがあれば、ホノヒコだと解るのだろう。あれを女王宛で手に入れればよいのだ。」
「ですが、どうやって?」
「もう、その下地は出来ている。しかし簡単だな。女に現を抜かしまだ解らぬとは。」




