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古事新記(ふるごとあらたにしるす)  作者: 五十鈴飛鳥
第3節 いい男と魔法少女は、黒ノ国主と白の魔法使いにクラスチェンジしました。
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27ナイルののけ者

「おおー、ええ増水じゃ。今年はたくさん麦がなるべ。」

 農民は川の様子を見に川岸にやってきていた。



 エジプトはナイルの賜物。本来の意味は、砂漠に土の土地があるという意味らしいが、現代では肥沃な土を運んでくるという意味で使われている。

 つい最近までこの法則が機能していたが、綿花生産のため灌漑したため、堤防やダムを作り、定期的な洪水、いや増水により麦栽培農地の維持が出来なくなった。商品作物を作る現代植民地の発想がそうさせたのである。


 人々は増水の届かない高台に住み、夏の増水を低地に引き込む。川の氾濫原がそのまま農地になる。

 秋になると麦を撒くと自然と育つ。もともと野生の麦が生えていたので、農耕と言うより採集に近い。



「今年も収穫が多ければ、無駄に攻められることもない。」

 ナイル河口部の部族長セトは、増水の様子を見て安堵した。

 収穫物を強国に輸出できれば、食料庫としてその土地は保証される。


セトが持つ武具では、海原の根の堅州国の鉄とも違うグレーの金属器には到底かなわない。

 唯の一度の衝突でそれは圧倒的だった。



 槍の先に黒曜石のやじりや、石のナイフ、石の斧、石のハンマー。

 この時代は石器時代である。武器は黒曜石や、磨製石器であって、金属の威力には及ばない。



 金属を使うのみならず、古代のオーバーテクノロジーを持つ国があれば、当然圧倒的な武力を発揮するだろう。



 金属を扱う技術は門外不出。アフリカの神話では、火を盗むペルセウスの神話によく似た神話があり、鉄の作り方を盗むという伝承が各地で伝えられている。

 神話に残るほど重要な出来事であったのだろう。



「セトさまぁ。聞いてくだせい。川の上流から、変な船が来てます。」

 川の様子を見に行った農民が、セトの元にやってきた。


「何だと!?どんな船だ?」


「へえ。小さな舟や大きな船が、パピルスで出来てもないし、丸っこい船で、帆がないし、櫂もないし。それに目のついた4枚の(ばね)の変なのが、ビーンて翅音をたてて空を飛んで船を吊ってるし。」


 セトは、農民の話を眉唾で聞いていた。

「帆がない、櫂もないだと。方向はどう変えているのだ。帰りは帆がなければ川を上れないではないか。それに空を飛んでいるだと?」


「船からも翅音がしてそいつは2枚翅でして、船に化け物が化けてるんじゃねえかと」



 ナイル川は川上に向かって風が吹いている。そのため帆を張れば川上に船は進む。

 ナイルには大湿地帯に入るまでに急流が複数あるので、下流付近までは行き来が容易である。




 天の根の堅州国ではナイル川を下り、人の移動や物資の運搬が困難とされていた。

 第一に急流がある。もともと高低差がある地形に加え、峡谷であるため陸路も険しい。

 第二に川の遡上が問題となる。ナイルは風の向きもあって帆船であれば川上に上ることが出来るが、その情報は得ていなかった。



「フライトユニットの準備完了。アンカーワイヤーを水陸両用車(ホバークラフト)に固定。」

 急流を越えるため、ドローンの様にローターブレードが4枚ついた飛行ユニットを纏った人型が船を空から引っ張っている。


 先の事変で得た敵の強化外骨格は、本来の運用をされていなかった。

 加えて、改善の余地が大幅にあり、設計を焼きなおした結果、さまざまな用途に対応できる機動性を得た。その一つがフライトユニットである。


 従来の強化外骨格(パワーローダー)は重すぎた。それにもともと重機であったため戦闘には不向きであり、それは先の事変で飛び道具同士の打ち合いで証明されてしまった。


 そのため、強化外骨格(パワーローダー)は移動砲台や、基地や橋等の設営に運用し、強化外骨格(パワーローダー)に変わって拡張儀体群エクステンションアームズを配備するに至った。


 従来の強化外骨格(パワーローダー)に比べ、あらゆる体格に適合し、コスト面でも優れており、軽いため機動性が高くなった。その反面パワーパックが制限されるため、ワッテージの高い装備を使えばすぐバッテリー切れを起こす。

 消耗の多い作業をした後は、充電が必要で、水陸両用車(ホバークラフト)トリウム原子炉(リアクター)を推進動力として使えなくしてしまう。それは、搭載機である強化外骨格(パワーローダー)も同じで、10隻(搭載機うち8隻、一隻一機)が停止を余儀なくされる。





「それで、そいつらはどこにいる。」

 セトは農民に問いただすと。

「へい。今第二の滝あたりです。もう少しで最後の滝にたどり着いてまいます。」


「では、今何をしているんだ奴等は。川を下ればすぐに河口までたどり着くだろう。」


「それが、休憩しながらきているみたいで、滝を越えるたびに野営しているようで。」


「ならば、あと一つの滝を超えるにはあと10日もあるまい。早急に対策をとらねばならんが、やつらは何者だ。」


「へい。どうやら、月の山から女王様が使わした。といううわさがあって、中に黒くない人がいるようで。」


「なに?、海原の国以外に黒くない人がこの大地にいるのか?北方や東方ではないのか?」


「へい。どうやら」


「なかなか興味深いな。月の山の女王など伝説のものと思っていたが、実在するとはな。」


 セトは、伝説の地から、まさか地上に下りてくる天使がいるのかと思った。4枚翅を持つ天使がいるということ。今まさに海原の国に運命を握られている、自らの境遇を救ってくれるのでないかと思うほどだ。


 ここでセトは、川上から降臨した天使にお目にかかりたいと思うところだが、スーサ王の恐ろしさも良く知るところであり、報告を怠れば何らかの制裁を加えられる。

 しかし、黙って屈するとは少しも思っておらず、反撃の機会を伺っていたので、正に好機といって良いかも知れないが、天使が悪魔だったとなれば悲惨な未来しか待っていない。


「今しばらく様子を見たいが、ここは一つ接触を試みようではないか。」


「へ?あの奇妙な軍勢に話をしようってんで?」


「ああそうだ。あちらもタダで通ろうとは思ってもいまい。」


「へい。じゃあ自然に土地貸し賃をとりましょう。」


「農地に入られては困る事情を話すのだ。決して槍を向けてはならない。」


「へい。」


 農民はセトの元から去っていく。


「さて、いかが致そうか。ポセイドンに知らせないわけにもいかないが、うわさ程度なら当方も動けない理由になるか。敵か味方かいかなるものか。」






 海原の根の堅州国では。


「足止めが出来ればよいのです。10日も時間が稼げれば、戦艦をナイル河口に向かわせることができます。」

 テヲは、通常の船という概念で話を進めていた。まさか多少の地形などものともしない水陸両用車(ホバークラフト)で来ているとは思うまい。


「その足止め。誰ができるというのでしょうか?」

 イナンダ王妃の疑問は募る。


「私が参りましょう。」


「え?結婚式は?」

 セセリはあせった。というより、何を言い出したと思った。


「大丈夫ですよ。1ヶ月前には終わります。」


「しかし、如何するというのだ。軍勢は1000、見るところ体に自由が利かないようだが、戦になるのか?」

 エージアの王子ギビルの疑問ももっともだ。


「けっして、戦いになるとは思っていません。相手の利害がなんであるか確かめるのです。」


「テヲ殿自ら赴くこともあるまい。それに期間内に決着がつくようなら、我にお教えくだされ。我が代行いたしましょう。」


「いえ。私が確かめたいのです。それに本気で攻めに来ているとは思えないので。」


 ギビルは少々考え込み。

「いや、やはり護衛は必要でしょう。我が連れてきた我が軍勢をお貸ししましょう。」


「私もお供しとうございます。テオ様の思いを実現するためわたしがんばります。」

 エージアの王女サーラは、テヲにヨイショしたい。というか"よいしょと”されたい。


「じゃあ私もいくわ。」

 セセリも突然現れた泥棒猫に、むざむざ寝取られをキメられたくはない。


「いえ、私使命を全うしますわ。」


「いやいや、同行は妻の務めです。テヲは必ず守ります。」


 女同士の火花が散る。


「まあまあ、セセリは大事な身。大丈夫ですよ。俺は必ず帰ってくる。約束だ。」

 テヲがセセリに真顔を向け、言葉をかける。

「でも、心配です。何か(この女何するか)あったら大変です。」


「大丈夫だ。エージアの武将がついているんだ。心配はない。」


「そうだ、我が死なせはしない。スーサ王に悲しい思いはさせない。」



「わしは、勇猛果敢なら、死しても意味があると思っているから、悲しくないぞ。」


「あんた!!どうしてそんな物騒なことを言うの、なにを思っていってるのかな~。」

 公衆の面前で夫婦漫才が始まってしまうじゃないか。


「ああー。コレは言葉のアヤだ。決して他意はないぞ。」

「そうは聞こえませんよ。あとでゆっくり聞かせてもらおうかしら。」



「では、出発はいつに致す。」

 ギブルは、テヲに問う。

「早いほうが良いでしょう。あさっての朝には出立したい。」


「急だな。だが仕方あるまい。急いで兵糧を準備せねば、我らが乗ってきた船に乗せよう」


「では、準備費用はこちらで持ちましょう。」

 イナンダ王妃は、戦費の支給を約束する。


「あくまで、交渉です。しかし準備は万端の方がよいですが、あまり目立たないようにしなくては。」


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