26黒ノ胎動
金 暴力 セックス。
そのための右手。
まさに外道。
そうして勢力圏を広げてきた。
地中海、イベリア半島沿岸。
従えた国は、北はスラブ地方、東はイラン高原に達する。
数々の勢力があり、また為政者も変わる。万世一系とはいかない。
ただ、受け継いできたものがある。
うず高く盛られた遺丘。
その地下には、古代の遺跡があった。
遺跡には奇蹟の力があった。
その力の全容を知るものはもういない。
ケッペン気候区分に基づき、スコールが毎日ある熱帯気候の地から、地中海気候の地へ、テヲが帰ってきてから1年が経った。
ようやく、骨折や、火傷のあとが残るものの、回復していた。運動能力にやや不安はあるものの、日常をすごす程度には問題は無い。
「みんなの前に出るには、ちょっと不自由かな?」
テヲは、体を無理やり動かし、槍を杖代わりに庭を歩いていた。
「あっ、ああ、あん、もう少し、あとちょっと。」
セセリがテオの目線の先に居た。テヲの足取りに、心配しながら、まるで幼児が歩く姿を見守るように。
テヲがゴールにたどり着く。セセリの胸に飛び込むように。
「はい。よくがんばりました。」
「おい。子供じゃないんだぞ。」
テヲは、セセリの甘い態度に不満を持っていた。
「だって、うれしいんだもん。ここまで回復して、心配してたんだから。」
テヲの体が傷つき、不自由な体の時から献身的な看病をしていたが、その途中、体を拭いたり、体重をかけたり、乗っかったり、いろいろあって体が動くようになった。
「あと一月で、結婚式ですね。」
「ああ、長かった。認めてもらうまでに。」
「まったく、あの親父ろくなこと考えないわ。」
「そういうなって、王も考えあっての事だろう。」
「ぜったい。何も考えてないわ。どうせ気まぐれに冒険させようとしただけだと思うの。」
本当に気まぐれに。加えて殺そうとまでしていたが。
「同盟の民族の皆様も、アクロポリスにお集まりです。皆様もテヲの武勇伝を聞けば、次代の王としてお認め頂けると思うのです。」
「まあ、強くなければ征服も受け入れられないか。」
「謁見の間まで練習もかねて、行ってみませんか?」
「いいのか?今謁見中だろ?」
「大丈夫よ。こっそり覗けば。」
征服した地域は、ほとんど国という概念がなく、民族単位であるためほとんど直轄地になってしまう。逆に言えば敵にしたときに手ごわくない。
ただ、遠方でありかつ、特産物により力がある地域は手ごわく、征服ではなく自治権と軍備を認めなくてはならない、国に近い地域がある。
カスピ海からイラン高原にある、宝石の国エージア。
黒海からカスピ海周辺の北部にある、葡萄の国ジョシア。イナンダ王妃の故郷である。
国ではないが、麦の自生する地域、ナイル河口からアナトリア(トルコ周辺)は、地位が低く設定されていた。
穀物の生産は、人口の安定を意味する。他の地域が狩猟採集で成り立っているのに対し、
この麦の生える地域は、為政者にとって危険な地域であった。
トトリは、父に連れられ、アクロポリスにいた。はるかアナトリアの南ダマスカスより。
各民族は、新たな王候補を見極め、政略結婚を、娘を嫁がせるため連れてきていた。
「おとうさん。地面が土じゃないよ。」
幼いトトリは、ただ町に来たとしか思っておらず、今後の運命は知らない。8歳の身では、無理もあるまい。
「そうだね、トトリ。石で出来てるね。」
父親は、トトリに相槌を打つ。あまり明るい感じではないが。
これから始まる、人質人生。うまく取り入れれば奴隷同然の立場から抜けられるかもしれない。しかし娘は幼すぎる。うまくやっていけるはずがない。他の娘はすでに他にやってしまって、この子しか残っていない。
器量はいいので、可能性はあるかもしれないが、幼い。
「王妃さま。ごきげんよう。ご息災でございますか?」
イナンダ王妃に席巻するのは、イナンダ王妃のお膝元、ジョシアの王ラフムとその遠縁の娘ニーナ。
王妃の血縁らしく、ニーナは金髪である。何とか取り入るため、特別美しい娘を連れてきたのだ。しかし12歳という、いろいろギリギリの年齢で、いくら美しくても、ドサクサにまぎれて、“授かり婚”とはなりにくい。
一台の馬車が街路を進む。
属国の中では一番力のある宝石の国エージアからは、王の名代として王子ギビル・ヌナカターとその妹サーラ。
サーラは、年のころは15。ラピズラズリをあしらったドレスを着ている。アーリア人らしく堀が深い顔立ち、ただ肌は白くないようで、かといって褐色でもない。
「お兄様、おかしくないですか?」
サーラは自分の姿に自信がない。髪はさらさら、顔立ちも涼やかで、深窓の令嬢というにふさわしい。
「おかしくないぞ。とてもきれいだ。どんな川や湖だってお前の清らかさにかなわない。」
兄はこう言うが、彼は軍人でもあるので、あまり女性の扱いに慣れていない。
「これから、スーサ王に謁見だが、お前の美しさに王もメロメロになるさ。もしよければそのまま王の后になってもいい。」
「お兄様、それでは趣旨違いとなってしまいます。あくまで次期王への取り成しが目的です。」
「そうだが、現王は十分に強い。あれにかなうは、悪魔か怪物かはたまた神か。」
「そんな強い人に嫁ぐなんて、わたし怖い。」
「強いのはいいことだぞ、なんたってかっこいい。」
「でも・・・・・」
そんなことを言っているうちに、馬車は宮殿へ入っていった。
ここは謁見の間。
スーサ王とイナンダ王妃が奥にひかえていた。
ギビルとサーラは、立てひざを付き頭を下げている。
「私は、エージアの王の子、ギビル。こちらに控えるのは、我が妹、サーラにございます。」
「面をあげい。」
衛兵が声をあげる。
「そうも固っ苦しくしなっくても、気楽にやろうぜ。それよりこの剣どう思う?」
スーサ王は、黒い剣を片手に持ち、適当にやっていた。なんたってここ数日何十もの使者と顔を合わせて、うんざりしている。たまたま、有力な国なので、話をするだけで、普通は挨拶が済めば、すぐ退室してもらうところだ。
「王。そんな態度をとっては失礼です。」
イナンダ王妃は、呆れ顔で場を納める。
「ところで。途中妙な動きがありまして、ご報告したいのですが。」
ギビルは、王に許可を求める。
「よし。話していいぞ。」
「は。では。旅の途中にナイル川上から大軍が近づいているとうわさをききました。」
「ガタッ!!」「なんだと!!」
スーサ王の顔色が変わった。
「どこのどいつだ!!どんな奴だ!!どれくらいだ!!」
「伝聞でしか聞き及んでおりませんが、ざっと1000。とるに足りません。」
「バカヤロウ!!相手は1000でその1000倍なんだぞ!!どれくらいだ、1000で1000だろ?10万ぐらいか?」
「100万です。」
王座の影より声が聞こえる。テヲだ。
「お前、そんなところで何をしている。おい!!」
「お父様、間違いを指摘されたぐらいで、取り乱さないで。」
トトリがテヲの肩に手をかけ影から出てきた。
「ズキューン!!」
サーラの胸に何かが刺さる。一目ぼれだ。
テヲはテヲでかわいい娘だなあ。なんとかご一緒できないかなあ。と思っていた。
「あ・あ・あの、あなた様は?」
サーラは取り乱して男に尋ねる。
「私は、この度、スーサ王の王女、セセリ姫と婚約いたしました、ナムチ・テヲと申します。」
「あ・あ・あなたが、あのナムチさま!ナムチ様なのですね!」
「はい。私がナムチ・テヲです。あなたは?」
「私は、エージアの王の子、サーラでございます。」
サーラの心は躍った。いい男であるということと、何より優しそう。目の前の筋肉だるまはやっぱり怖い。
「サーラ姫。お初にお目にかかります。お麗しいお姿を拝見いたしましてうれしく思います。」
サーラは、もっと着飾ってくればよかったと思った。しかしこれ以上にどこを加えればいいのかと。
「えー。報告の途中です。」
ギビルは、話をもどし。
「相手は、船で下っていますが隊列が延々と続いております。しかし、船の上ですので、弓で狙い撃ちすれば、我が軍勢だけで方がつきます。」
スーサ王は首を振り。
「いや。すべて落とされて、その返した矢で全滅する。それが出来る。そんな奴らだ。」
「そんなに警戒なさる、その敵はいったい何者なのですか?」
「いや。それがよく分からない。」
「分からない相手では、手を出すのは危険です。」
テヲは、口を挟む。テヲはもちろん相手を知っている。
「先ずは使者を出しましょう。足止めも含めどこかおもてなしをしましょう。」
「なんだと。相手を歓迎するとでも言うのか?」
スーサ王も反論は当然だ、だいたい問答無用で叩き潰してきたのだから。
「いいえ。目的を知るためです。目的が判れば対処も変わります。」
「そうですね。相手が戦闘を望まないかもしれません。」
イナンダ王妃が賛同する。彼女の目的は和平と技術供与の締結である。
「次に、軍隊と交渉役を分けたい。どこか会談の場所を作るか、軍隊が動けないような手段を取りたい。」
「会談までは良いと思います。しかし軍隊の分断はむずかしいのでは?」
イナンダ王妃がテヲに質問返しをする。
「たとえば、海に出るための運河を造らせる。河口が浅瀬になっているという、偽情報を知らせて。」
「まあ、船で来ている以上は、海に出なくては先に進めませんが、うまくだまされるでしょうか?」
「確かに簡単にだませると思いません。ただいま増水の次期ですので、陸に浅い水位の場所が出来ます。そこに誘い込むのです。」
「確かに乾季であれば、川筋は決まっています。この洪水の時期は確かに川筋がわかりにくい。相手も水深が深い時期を選んで来たのでしょうが、地の利は知らないでしょうから、ほかっておいても迷いそうですが。」
「ええ。それを利用してあちらこちらへ船を向かせるのです。」
「そんなにうまくいくのかしら?」
「そこは相手次第でしょう。」




