25技術者たちの憂鬱
「おもしろいもんを持ち込んだもんだ。」
技術者は言う。
「ここ、うまいこと空圧をループさせている。圧力損失は少なそうだ。」
「ほれみろよ、このコントローラー。ぺらっぺらだ。リレーとモーターがつながってるから、制御しているのは理解できるが、ほっそい線だな。」
「このちっこい回路はよくわからん。古代人とコイツを作ったヤツラは、どんな理屈でコレを設計したんだ?」
「パワー系は面白いぞ。人口筋肉の部分と油圧と回転軸。うまいこと分散しているな。」
「不思議だな。工具がそのまま使える。ねじもそのままだ。」
海原の国に持ち込まれた、強化外骨格は見事ななでにばらばらで、さながら解剖検体のように並べられている。
強化外骨格というだけあり、人体に似た構造が見られる。
ただし、駆動系など機械的部分は人体とは違う理屈で割り込んで配置されている。
技術者たちは、機械をバラしてあそんでいる。たぶんもう戻せない。
「なんだこの回路は!!」
一方、天の国に残された強化外骨格を解析する研究者は。
「下手なジャンパが多いな。はんだも下手だ。それに部品がおかしい。」
集積回路やFET(電界効果型トランジスタ)なんてしゃれたものは無い。真空管だって無い。
基本ON OFF、可変抵抗で調整。
出来ないことは無いが、論理回路なんて夢のまた夢。
しかし、空圧で動く部分が優れている。
空気式の制御回路が組まれていて、パイロットとかエア流路が秀逸で、コレが小型化されている。まったく信じられない。
現代は電子系が幅を利かせる中、防爆エリアでしかめったに見ない制御系だ。それがちゃんと動いている。
「信じられないくらいアナログだ。アナログも極めればここまで出来るのか。」
基本はアナログだと思うのですよ。
デジタル回路もアナログ回路で実現されているので、アナログは重要です。
「この部分はサイコメトリックエンジンか?」
小さな珠が備え付けられ、そこにレーザーダイオードとフォトダイオードのヘッドが取り付けられている。
私オモイカネが考案しました。単電子で駆動する回路をつくり、石英で封じ込める。
ガラス内部にレーザーでナノレベルの記録をしてROMとしている。コレだけでペタバイトを超える。
駆動にレーザーというか光子が必要。
「ここは機能していないのか?」
ああ、それはたぶんしていない。人が装着しないと起動しない。それに電力が足りない。もっと電力を与えてくれ。
「とても軽いな。それであんな曲芸ができるのか?」
軽いカーボン素材を用いている。しかし運動能力の説明がつかない。
「こんなので近づかれたら、うちの強化外骨格では対処ができない。」
現代戦では、あんまり戦車は有効な兵器でなくなってきている。
基本は、動く砲台。戦闘ヘリの格好の的。
制空権が取れれば地上戦は、歩兵の仕事。
銃器の発達もあり、大柄な強化外骨格は白兵戦に不向きだろう。
出自が農機具だと思えば当たり前の事かもしれない。
海原の国の王、スーサはご満悦である。
2m近い、屈強な幅広でマッチョな体格をしている。
カズチも2mあるが、こちらは非常にバネのありそうな黒マッチョで、本来対照的とは成らないはずが、スーサ王は筋肉ダルマなので対照的に見えてしまう。
「この剣、黒くて硬くて長い。なんてすばらしい。」
タングステンカーバイドの剣を抱えすりすりしている。
ものすごく重いはずなのに抱えている。
このスーサ王。非常に武に秀でた存在で、地中海周辺はこの王の遠征で安定している。
戦につよい。切れ者のはずである。
しかし、内政には無頓着で不満を買い、しばしば暗殺されかけるが見事に撃退している。
そんな王に代わって、嫁はんがすばらしい働きをして国を支えているのだった。
「王様。そんな黒光りしたモノにべったりしないで、今後の事を話し合いませんと・・・・・・」
嫁はんは真剣だ。なんたって、国の存亡がかかっているのだから。
「この黒光り感がいいんじゃないか。これを見てどう思う?」
「すごく・・・・・・大きいです。」
「だろ?コレなら何人だっていける、千人切りだって出来そうだ。」
「いや、むりだろ。」小声でイナンダ王妃は言う。
「何かいったか?」
「いいえ。」
「この剣、年中群雲が起つ天を仰ぐ橋をもつ地から持ち帰った。そこで天叢雲と名づけようとおもうのだが。」
「あなた様がそう思うなら、そうして下さい。」
嫁はんはだいたい夫の趣味には付き合わないものだ。
「そうだな、今からこの剣は、天叢雲だ。」
イナンダ王妃は、まったくしょうがないヤツだと、夫の言動を聞き流した。
「たしかに、得るものはありましたが、失うものも多くありました。」
「テヲのことか?惜しいものを亡くしたな。」
「亡くなってません。ただいま療養中です。」
「なんだ、生きているのか。せっかくセセリがあきらめると思ったのに。」
「なんですか!!自分で派遣しておいて、その言い草は!! 相手が何者か判ったのは誰のおかげですか!!」
イナンダ王妃の怒声が響く。かくゆう、彼女自身も彼を利用したが、スーサ王は本気で行き倒れになる事を望んでいたのと違い、彼に期待していたので怒りがこみ上げて来た。
「だいたい、国の行く末も考えず、戦ばかりで、その戦費はどこから出ていると思っているのですか?国の備蓄も心もとない状況で、使える人材を捨て駒にする余裕なんてありません!!」
さすがに内政を預かるまさしく”女王”は国の予算が火の車である事を夫よりよく知っていた。
「あなたは約束したでしょう?テヲが戻った暁には、セセリとの結婚を許すと。まさかお忘れではないでしょうね?」
「そうか?そんな事言ったか?」
”女王”カチンと来た。音であらわすと、「ガッ、ブシュゥ」という蒸気でてそうな感じだが。
「あなたは・・・・・・どうして・・・・・・わたしの・・・・・・言う事を・・・・・・聞かないの。」
嫁はんは、子供を生んだ嫁はんは怖いんです。息子だけだと亭主関白できる可能性があるのですが、娘さんは怖い、やけっぱちで出て行かれるとか怖い。嫁はんはさらに何か怖い。
さすがに、スーサ王もびくっとした。体力的に勝てるはずだが、嫁はんの得体の知れない迫力にびびる。
「い、いやー。そうだったかなー。そうだな。今思い出しだ。」
「本当ですか?嘘だったら、セセリに話しますよ?」
「やめてください。嫌われてしまいます。」
「大丈夫ですよ。王はセセリに煙たがられています。いまさら変わりませんよ。」
「おいいい。こんなに愛しているのに。」
「男親なんてそんなもんです。セセリも所帯を持てば変わりますよ。」
「そんなもんか?」
「そんなもんです。」
いつもの夫婦漫才が繰り広げられる。
そんな中、天の根の堅洲国より使者が送られる。
彼は、ヒルメの血族であるが、彼女が子供を生んだという記録が残されていない。
一応、外交の技術を学習したが、交渉は不慣れで、技術系の人特有の、なんとなく言われるほうに流されてしまいがちな性格だった。
護衛の大隊と共に、海原の国を目指していた。




