表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
古事新記(ふるごとあらたにしるす)  作者: 五十鈴飛鳥
1章 地上の楽園の太陽
4/77

3話 そしてめぐり合い

 大学校の入学式

 式典が行われるホールには受付が設けてあり、式典プログラムとその後行うオリエンテーションの資料が配られていた。


 係員の案内どおりに席に着き、しばらく資料を読んでいると、開会式、学長の言葉などなどの最後になぜか、学生代表のスピーチがあった。


 「学生筆頭 ティカル・タフ・ヒルメ王女の挨拶」

 王族の挨拶ならあきらめよう。


 このムーはいくつかの国の複合体で、勢力のある数カ国が代表統治している。その中で最大の国家がティカル。その国の王女様が在籍しているのであれば、諸国も扱いに配慮するのは仕方あるまい。


 つまらない式典の後それはやってきた。王女様のスピーチの時間。



「続きまして、学生代表 ティカル・タフ・ヒルメ王女の挨拶」

 とアナウンスがおこなわれ、 王女は壇上に上がり、軽く咳払いをし、スピーチを始めた。


「ただいま、ご紹介に与りました、2回生 ティカル・タフ・ヒルメにございます。」


 驚いた、先日の合法ロリ、大学校の専攻2年なのにとても20歳には見えない。

 かわいい制服着てるし。

 それにしても護衛なしによくあんな所に居たもんだ。いや護衛は居たかもしれない。間違っても関わらないでよかった。


「皆様のご入学、こころよりお祝いを申し上げます。」挨拶もそこそこ普通の挨拶だ。


「この国は地球温暖化に伴い海底に沈む運命にあります。」


 いや、対策として大堤防と排水機によってギリギリ維持されているので、すぐ沈むとは考えていないがいきなり重たい核心を突いてきた。


「大堤防は主要な国家群のみに建設され、北方の周辺国家、ここ、カラコルは現に海岸線が後退して多大な国土が失われており、国民の財産、文化遺産、資源が失われつつあります。」


 現代だと、海南島から台湾周辺くらいまではすでに海の底になっている。


 大堤防はベトナム南部の山脈からボルネオ島最高峰までをつなぎボルネオ島の反対側からバリ島まで伸びている。


 カラコルはオーストラリア大陸にあるが、対策をされていない。

 そのため内陸に都市を移動しているが、岩砂漠なので農耕地は望めない。もともと南極からの流氷によって、大陸中央部まで寒冷化していたおかげで、違う意味で不毛の地なので新天地を探さなくてはならなかった。


「堤防のそとの水位は20歩(1歩=約1.8m)を超えており、未曾有の災害に対して堤防は絶対ではなく、もしもの事があれば大半の国土を失う恐れがあり、早急に新天地に殖民する必要があります。」


 うすうす感じていた事実に周りがざわざわしだし、職員がおろおろしだした。


 彼女は職員を目で制止し、さらに続けた。


「現在の調査の結果、北方の消失した国家北部には肥沃な土地が広がっており、入植に十分な条件を満たしております。」

「入植候補地は、国の北東部、北西部にある大河のデルタ地帯、はるか西方のデルタ地帯。


(黄河、長江、ガンジス川流域、チグリス・ユーフラテス川のデルタ、ナイル川あたりだろうか? 四大文明発生の地なら入植の好条件になりうる)


「しかしながら、エネルギー問題、食料問題、先住民との共存が立ちはだかっております。」


「国家は、今年度より入植に必要な技術を優先し、20年後に全国民の内陸退去を実現します。」


「国家は、そのためここカラコル国立大学校にて、新エネルギー、生物化学、軍事技術開発を支援し入植計画を推し進めます。先だって、数学、物理、宇宙地球物理、機械、電気電子を改組し、新エネルギー先端応用技術専攻へ、化学、生物、農学を改組し、生物化学先端応用技術専攻へ改めます。」


 おいおい、在学中は、宇宙地球物理に進み、とりあえず文化人類学をやりつつ味噌、醤油のルーツを求めてフィールドワークをしつつ、卒業後は電検3種みたいな持ってるだけで安泰の資格とって、まったりやろうと思っていたのに、えらいことになった。


「最後に、わたくしから前途あるあなた達へ」


「故郷を捨て新天地を目指す勇気があるか!!なくば古き土地と共に滅ぶのみ。これより5年、皆様方のご活躍によりこの国の運命が決まります。皆様、御覚悟お願いします。」


 姫の演説は終わった。同様の報道は、同日行われ、入植は国家事業となった。






 入学式も終わり学群毎で集合となった。

 専攻分けまでは、基本的には各学群の行き来は可能だが、試験があるのであまりする人はいない。たとえばめざす専攻が工学系、理学系、など理系学群ならレベルが違っても同じクラスになる。


 専攻を目指すときが大変で希望の専攻になるには、学内試験の結果が良好な順から割り振られる。

 ただ医学だけは別選考で、医学を目指す人は結構必死に勉強している。


 ちなみに僕は、宇宙地球物理に進むつもりで、基本実学ではなく就職には役立たず。在学中に資格の勉強するつもりだった。


 うーんなにやろう。軍事技術は結局何でも使うから何やっても役に立つ?

 生物化学は、なんかよく分からない。

 エネルギーは石炭、石油なら現代の鉱山情報から、中東、中国、オーストラリアに行けばいい。無理に原発に頼らなくても現地調達できる。


 トリウム原発維持は中国とインドで手に入る。


 あれ? 宇宙地球物理でいいのかな? 鉱山調査をやれば、くいっぱぐれなさそう。


 入学式も終わり、僕はオリエンテーションの行われる教室へ向かった。

 専攻は改組されたが、教養部のカリキュラムはもともと基礎なので、当座は現状維持だった。


 専攻科の方はかなり混乱しているようだが、オシホは大丈夫だろうか?


 オリエンテーションの行われる教室に入ると、数人のグループが数組固まって話していたが、だいたいが席に座って、オリエンテーションの案内を見たり、一緒に用意された必要書類に何かしら記入していたりして、オリエンテーションが始まるのを待っていた。


 そのうち担当職員と、学生と思しき数人が教室に入ってきた。

 その中にオシホがいた。何か、いやいやそうだ。

 姫も居た。なんかやばい。オシホが居るということは、この教室は新エネルギーのカテゴリーになるのか?


 オリエンテーションは、滞りなく進み、解散となった。オシホや姫となるべく関わらないようにこっそり抜け出そうとしていた。


「おう、どこ行くんだヤゴロヲ、帰る前に寄ってってくれ。」

 オシホが呼び止めた。クラスのみんなが振り向く。目立つのは自身の都合上よくない。

「何ですか?オシホさん。僕に御用ですか?」

「なんかよそよそしいな、寮に帰る前に、うちらの研究室に寄ってってくれ、古い教科書とか、いらなくなったモン渡すから。」

「教科書とか普通寮にあるんじゃないんですか?」

「専攻科の先輩と仲良くなって、研究室に用も無く入り浸ると自然と置くようになるんだよ。お前も俺んとこ用も無く入り浸るといいぞ。」

「むちゃくちゃ言わないで、あなたがそんなだと、後輩に示しがつきませんわ。」


 姫が口を挟んだ。常識的な一言だが、僕にとっては関わりたくなかった。


「ちょっと騒がしくなってきたな。場所を変えよう。姫さんもいいな。」

「あなた、もうちょっと場所をわきまえなさい。」







「こんなバカでゴメンナサイね。優秀だけれどもやることが子供で。」

 意外と姫は、さばさばしていた。壇上の彼女とはかなり人格が異なるように感じる。見た目は幼女なのにかなり大人に感じる。やっぱり20歳の貫禄か。

 

「入り浸る先が、姉ちゃんだとあとあと都合がいいぜ。」

「あんたが勝手に私に、たかって来たんでしょう。寮暮らしで生活が厳しいって。」

 姫様面倒見がいいらしい。見た目幼女だが。

「あれっ、あなた。どこかで見かけた顔ね。なんだったっけ、何か見覚えがあるような。」


 やばい。幼少期とは言え、雰囲気は変わらないから、感のいい奴なら気づかれる。姫様かなり切れ者っぽいからやばい。


「先日ショッピングモールで、アイスクリーム食べていませんでした?そのとき妹たちと段積み見てましたよ。」

「あら恥ずかしい。みんなには黙っていてね。ばれると面倒だから。」


 すでにばれてると思うんですが、姫様意外と抜けてるのね。


 そんなこんなで、姫と知り合いになってしまった。いいんかね、一国の姫がこんなんで。


 連れて来られた研究室は、新エネルギーの研究室で、既存の資源を使わない方法を模索していた。現在の原子力でも高速炉や超高温炉などで効率化しているが、資源の枯渇が問題になっていた。

 (他を掘れば結構でるだろうけど、この時代まだ人類未踏の場所が多いから説明しても判らないだろうな)

 そこで、次世代のエネルギーとして、宇宙線発電、核融合、対消滅反応があげられるが、実現が可能かあやしいものが含まれる。


 結論としては、核融合を研究しているようだ。難しそう。

 素粒子物理よりやさしい、相対性理論と量子力学までで済むけど、それでも難しい。

この研究室に入り浸ると、解らないまま引きずり込まれそう。


「今日からお前もこの研究室の仲間だ!遠慮なく使ってくれ。」

「申し訳ないですがお断りします。まだ教養部ですし、何をやるかまだ決めてません。」

「あら、のんびりさんなのね。希望専攻も決まっていて、私たちの分野に近いはずなのに、ほんとは何かやりたいことがあるんでしょう?」


「国策とははなれるんですが、考古学をやりたくて、専攻としては宇宙地球物理に入るんですが・・・」


「あんまり実入りのいいモンじゃねえな。」

「いいんじゃない。水の底に沈む前に文化財保護をしないとね。」

 姫さま意外と寛容。


「国策とか関係なく、やりたい事があるのはいい事よ。」

「別に興味なくても、研究室にいつでも来ていいぜ。手伝いはさせるがな。」

「ぜひ、遠慮させてください。」

「そうよ、あなたじゃないんだから。興味があるんなら別だけど。」

 姫が何かひらめいたらしく、書き物をし始めた。


「興味があるか判らないけど、国立研究所を見たいと思わない。ちょうど一般公開があるのよ。まだ定員になっていないから入れるはずよ。」

「そんなんあったっけか、俺一回も誘われたこと無いんだけど。」

「あんたは、どうせ見てるんだからいいでしょ?」


「えっ、いいんですか?」

「いいのよ、興味ありそうだし、誰も考え付かない事を思いつくかも知れない。そんな顔してるもの。」

「なんなんです?そんな顔って。」

「そんな気がするの。」


 姫にねじ込まれた感はあるが、めったに見れる物でもないので申し入れを受けることにした。


「じゃあ明後日の朝9時に駐車場入り口集合。」


 とりあえず、教科書など研究室に置きっぱなしのままだった。








 そうして、明後日の9時



「おそいわね。」




 そう、僕たちは遅れていた。妹とウィルが連れて行けとごねたのだ。

 寮にて。


「定員があるから、連れてはいけないよ。」

「大丈夫いけるって。せっかく王女様間近でみれるんだから行かなきゃなの。」

「大丈夫だって、姫パワーでいっぱつよ。」

「あんまりわがまま言うもんじゃないぜ。姫さん実は怖ええんだ。」

 なんとなく実感がこもった言い方でオシホが言う。


 納得言ってない感じだが、とりあえず置いてきた。僕の車で移動したので着いてくる事は無いだろう。





 約1時間後。


「遅れるなら、連絡ぐらいしなさい。心配したじゃない。」

 早速、姫に怒られる。


「わりい、厄介者を巻くのにてまどった。」

「なに、ドラマみたいな事言ってるの?現実にそんな事無いでしょう?」

「いや、あるんだよ実際。もしかするとすぐ後ろに居るかも知れねえぞ。」


「さすがに、車と徒歩ではないでしょう。妹たちが全力疾走したって着かないはず。」

「数人でしたら受け入れ出来ますが、セキュリティ上手間取るかもしれません。」

「できるんですか?」

「まあ、もともと急遽都合つけたのですが。」


 王族なんでもありか?まあ、ありなんだろうな。


「あなた、車を持っていたのですね、てっきり貧乏学生だと思っていたのですが。」

「親の遺産があるので、それで・・・」

「まあ、ご苦労されているのね、その割には昼行灯ね。」


「そんなことより、早く行きましょう。時間はすぎています。私の車に乗りなさい。」

 子供が車に乗っているのが不自然。だが20歳。




 大学校から数キロはなれた、国立総合研究所の前につくと、入門手続きを行い所定の駐車場に止めた。するとすぐに、案内の職員がやってきた。


「お待ちしておりました。ティカル・タフ・ヒルメ王女殿下。そちらがお連れのお二人ですね。」

 定型の挨拶と共に、いかにも仕事の出来そうな女性が一人現れた。

「早速ですが、設備内をご案内します。私の後を着いてきてください。くれぐれもルートを外れることない様。写真撮影は禁止ですので、カメラをお持ちでしたら預かります。」

 特に、不都合があるわけでは無いので、おとなしく従う。

 国家機関らしく、基礎研究、先進技術研究、いろいろあった。とても1日で回れる規模ではない。情報量が多くてとても処理しきれない。妹たちが付いてこなくてよかった。


 休憩時間がちょくちょく入っていたが、いちいち豪華で、昼飯が旨かった。さすが姫が居ると違う。


 研究所見学の終盤に差し掛かり、最後にそれはやってきた。というより、当初からコレが見学のメインに置かれていた。


「さあ、コレが私たちが誇る新エネルギー、核融合炉。磁場のねじれを用いて、プラズマを閉じ込めて、核融合反応を促進する方法です。」

「コレにより、永遠のエネルギーを得る事が出来ます。まだ、課題はありますが必ず成し遂げて見せます。」

 姫は高らかに宣言した。


 東濃の研究所が見学会やった時以来だな。加速器の延長かトカマク型核融合炉だな。格納容器しか見えないけど、結構でかい。

「さあ、解らない事があればどんどん質問して!」

 姫、コレがやりたかったんだ。まんまと罠にはまったのだが、とりあえず適当言おう。

「発生熱はどうやって取り出すんですか?」

「それはね、ブランケットっていうリチウム熱交換器に中性子を吸収させて、三重水素とヘリウムにして取り出しているの。」

「発生した三重水素とヘリウムはどうなるんですか?」

「三重水素は燃料として回収して、ヘリウムは熱を持っているので熱交換して排出するんだけど、課題があって・・・」

「ダイバーターがないのか」独り言を言った。燃料灰を排出する機構で、日本の誇る技術である。

「なに?ダイバーターって」


 姫、地獄耳。


「えっ?何か言いました。」


 とりあえずとぼけよう。


「たしかに言ったわ。でも聞きなれない言語ね。いったい何語?」


 そらそうだ、日本語でも無く、英語だから。

「いや、気のせいですよ。ほら空耳の類ですって。」

「何か変よね。あんまり驚いてないし。まるで知ってたみたい。」

「いやそんな事ないですって。初めてで圧倒されているだけですよ。」


 そんなやり取りが続き、姫は何かを疑い始めた。


「う~~~。じっくりと話がしたいわ。後日二人で会いましょう。そうね次の休日に中央総合駅に来てもらえる?」


 結構強引にセッティングされてしまったが、行きたくないので、ブッチしたい。

「まあいいじゃねえか、姫さんとデートだぜ。」

 オシホは、気にも掛けないで話していた。

 そんなこんなで、見学会が終わり、家路についたが、帰ったら帰ったで妹たちがブーたれていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ