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古事新記(ふるごとあらたにしるす)  作者: 五十鈴飛鳥
1章 地上の楽園の太陽
3/77

2話 ありふれた日常

 僕は第二の人生を歩みだした。




 僕は首都ヒラニピラを離れ、今はオーストラリア大陸の端にある学園都市カラコルに3つ離れた妹、シシュチルと共に身を置くこととなった。


 妹とは子供時代、あまり接することもなく、両親の蒸発前には親戚に預けられていたが、蒸発後はよりどころもなく、成人を機に僕が身元引受人となって、兄妹でカラコルに移り住んだ。


 苗字も変え、世間から離れ、新生活を始めた。



 カラコルには、国立研究機関、総合大学、専門学校(現代の専門学校ではなく、戦前の帝国大学以外の旧制高等学校のようなもの)、付属の初等教育学校、中等専門学校が存在していた。

 

 ふつうファンタジーなら、学生でにぎわっているが、実際は陸の孤島。


 現代にある学園都市そのままに、計画倒れの格子状計画道路。

 計画的に配置された、学校、研究機関、住居、大型ショッピングモール。


 研究設備の仕入れ業者があり、研究に必要な資材と必要最低限のものがあるだけで、流行を追うには、数十キロ離れた中核都市まで出向く必要があり、車は必須である。




 車は電気自動車が走っており、小型自動車は比較的簡単に免許がとれる。

 レアメタルのおかげで電機機械工業が大いに発達していた。



 この世界電力は有り余っている。発電の元は石油でもなく石炭でもなく、トリウムである。


 この地域は石油も取れるが、レアメタルの宝庫であり、その副産物としてトリウムが産出する。


 放射能物質の処分に憂慮していたが、オーストラリア内陸の廃棄場に集積されたトリウムが、何らかのエネルギーを得て自然の原子炉となり発熱。最終的に周囲のガラス質を取り込んで沈静化したことにより、エネルギーとして取り出す有用性を見出し、トリウム原発が開発されることになった。



 漏洩放射線もガンマ線電池を使用する事で余すところ無く利用され高効率の発電が実現していた。




 かつての天才少年も、現代知識が通用しなければ唯の人。


 かつての自分を知る人はごくわずかであり、自分から語らなければバレる事も無いので、苗字も変えてなりを潜めていた。


 そんなわけで、僕はカラコル国立大学校教養学部の1年生、妹はカラコル国立大付属中学校普通課の1年生として入学するため、長距離バスでトラコルに向かっていた。


 もともと手持ちが少ない荷物は今日着で新しい家に送って、家財道具は現地の下見したときに、一式届くように手配した。


「お兄ちゃん。新しい家ってどんな感じなの?」

妹のシシュチルがよそよそしく尋ねた。


「8LDK、風呂共用、トイレ共用、2階建ての学生寮だよ」

「そんなんじゃなくて、お部屋の雰囲気とか、周辺のお店とか、くらしやすさとかあるじゃない」


いきなり不機嫌になった。ある意味打ち解けた感はあるが、雰囲気は悪くなった。

「なんでお兄ちゃんは、いつもそうなの?もうチョット話が膨らむほうへもっていけないの?」


「だって、不動産情報は重要だろ?まあ周りの状況は着いてから説明するとして、周辺地図は、こんな感じだ。」


 僕はタブレットを見せて、ここにコンビニ、ここに学校と指さして説明した。

「だからそうじゃなくて、どんなお家なの? 色は?間取りは?お庭は?」

妹の質問がうっとうしくなったので、

「映画見ようぜ。アクション映画好きだろう?ほらコレなんか。」

「そんなことでだまされるとでも・・・、あ、コレ見たい」

運よく、話を切ることに成功した。


 そうして、カラコル中央バスターミナルに着き、タクシーで家に向かうところ、ひとりの女の子がもんちゃくしていた。


「あー、ノホルまでいっしょに乗せてくれない?お金は払えないけどあたしの琴ならいくらでも聴いて」


「なにいってんだ!!コレはタクシーだぞ!!金が払えなきゃヒッチハイクでもしろ!!」


 あたりまでだった。そりょあタクシー相手にお金なしに乗ろうというのが間違っている。

「だって、ここ車通らないし、行き方よくわからないから」


「そんなんは、親切な人に教えてもらえ!客じゃない奴はどっかいけ!、あっお次にお待ちの方どうぞ。」


 その後ろに順番待ちしていた僕たちに運転手は、乗車を促した。


 なんかバツがわるく乗車しようとしたが、方向も同じだったし可愛かったので声をかけてみた。


「その、ノホルまで行くんだけど、途中までいっしょに行きます?」

「ちょっとお兄ちゃん・・・」

 シシュチルは僕の袖口を引っ張った。

「なに考えてるの?こんな得体の知れない女いっしょに乗せて、下心ありありにみえて気持ち悪い。」

「い。いやそんなことはないぞ。唯の親切心です。」


 その女の子は、兄妹の会話とはうらはらに

「うん。ありがとう。お礼に琴を弾くね。」

早速演奏しそうだったので、手を横に振って止めた。

「ノホルのどこまで行くの」

と女の子に尋ねると、

「ソラン学生寮っていう下宿に行くんだけど、距離にして3km(意訳です)くらいなんだけど普通の一軒屋みたいで分かりづらくて、歩き疲れちゃった。」

「ああ、僕たちもそこに行くんだ。」

「えっ!?おんなじところなの?」

妹と女の子はハモッた。

「あたしはマヤ・ウェル。今年カラコル国立大中学校に入学するんだ。」

「えっ!?わたしと同じ?」

妹とこの子マヤウェルは同い年で、学校まで同じ、寮も同じ。偶然ってあるもんだ。

「お客さん。乗らないのかい?」

運転手が業を煮やして催促したので、急いで乗車した。



 そんなこんなで寮に到着。

 妹とマヤ・ウェルは車内で打ち解けたらしい。

「しーちゃんどこの部屋?」

「お兄ちゃんなにも言ってくれないから分かんない。ウェルちゃんはどの部屋?」

いつのまにかあだ名で呼んでいる。

「とりあえず寮母さんに挨拶だ。部屋もそんとき案内する。」



 寮の外観は、入り口が一つ、長屋という雰囲気もあるが、基本木造ではなく、石造りなので現代の鉄筋建てのアパート調でもある。


 風呂とトイレは共用、キッチンは一箇所で、夕飯を寮母さんが出してくれる。

 定員は6名、僕と妹、マヤ・ウェルで3名、他に3人の入居ができる。


 現代日本と違い、靴は脱がない。なんか不潔ぽいが、居間に入るときはスリッパをはく。

廊下は基本土足。


 寮の引き戸を引くと、寮母さんが待ち構えていた。

「カガミ・ヤゴロヲさまと、シシュチルさまと・・・マヤ・ウェルさまですね?

私、寮母のカラコル・カウィールと申します。これから皆様のお世話をさせて頂きます。」

「いえいえこちらこそ、これからお世話になります。」


ちなみに苗字はだいたいが出身地を示す場合が多く、ここカラコルのひとはだいたいカラコル・~という人が多い。当然僕の苗字は偽名で場所も時代も違う地名っぽいものにした。



しかしこの寮母さんとても美人で、以前下見に来たときもきれいな人だと思っていたが、うわさでは「カラコルの宝石」と呼ばれる有名な美人と聞く。


 そんな美人に部屋の案内を受け、女性は2階、妹は2-1、ウェルは2-3、男性は1階で僕は妹の下1-2。ちなみに寮母さんは共有スペースと食堂の隣をはさんで僕の部屋とは反対にある。一通り寮を回ったところ、食堂でお茶を頂いていたところ玄関から足音が響き、


「カウィールさん、腹減ったよ。なんか食いものある?」

唐突に無礼だなという物言いで、寮の入居者が入ってきた。

「おっ、新入りさんかい?この寮は飯がうめえんだきっと気に入るぜ。」

「今日入居しました、カガミ・ヤゴロヲとこちらは妹のシシュチルです。」

「あたしは、マヤ・ウェルよろしくね。」

「俺は、1-1のトキーナ・オシホてんだよろしくな。大学の物理哲学専攻の1年だ」





 日本でも昔は、神戸大学など物理は文学部哲学科に属していたこともあった。かくいう私も物理をやると高校3年のときに親父に言ったら、「物理哲学をやっても碌なことが無い。

 給料はすべて本につぎ込んで、本棚がいっぱいだった親戚が物理哲学だった。物理とはまったく違った会社に就職して、研究所の所長になれといわれたが、断って因島でエンジン組み立ててる。物理哲学やるような奴は死ね。」といわれたくらいで、実際就職先がない。


 まさしくまったく無い。研究者か先生か、碌な就職先でないところしかない。墓場からロケットまで作ってる企業に行ったやつは多少マシだったが「ヒッグス粒子見つかったからやることなくなっちゃって予算が出てこなくて、まだ居られるか分からない」と言ったぐらいでやっぱりきびしい。



 そんな知識もあるため、だいたいなにやってるかという想像がつくが、教養学部から選別され、専攻に進んだのであればかなり優秀な部類に入ると思われる。



 この学園都市には例に漏れず粒子加速器があって、ソレはまだ陽電子と電子をぶつける段階であり、素粒子の分解に使われるのみである。


 某タイムリープアニメにでる、粒子加速器は、陽子と反陽子をぶつけることによりそのエネルギーで次元を掘る。超時空削岩機であり、時空を掘ったためヒッグス粒子が出てきた。


 ブラックホールも作れるというが、素粒子自体がブラックホールの性質を持つため、単体の素粒子に崩壊する現象は粒子加速器があればあまり珍しいものでもない。



 転生してから、なぜ過去転生なのか、そもそも魂がある前提か?というその種の考察をしなかった訳はないが、それには、魂が質量を持ち(原子などでは重過ぎるため中間子?プラズマ?)、魂を成立させるボゾン(力を伝えるため交換している素粒子)が必要になり、新たな理論が必要になるが、突拍子も無い数学力で突破する事が出来ない凡才なので、考えるのをやめた。




「オシホでいいぜ。もとは都にいたが、田舎もおもしろいぜ。」

「僕らも都でしたが、両親が亡くなって、僕の大学進学を機にカラコルに来ました。」

「なかなか苦労してんな。知らない土地で妹ちゃんもさびしくないかい?」

「早速友達も出来たから大丈夫。」

「うん。あたしも一人だけど大丈夫だよ。」

「えっ!?」


「ああ言ってなかったね、あたし天涯孤独なの。はるか昔とある王族の末裔で、落ちぶれちゃって、その最後の一人。でも音楽の才能があったから、音楽科の推薦がもらえて、ここにきたの。ああ紹介が遅れたね、あたしマヤ・ウェル。中等部音楽科1年」


 いきなりヘビーな話振ったのはこっちだが、さらにヘビーなことになった。

「え、あ、うん。」

言葉にならない。

「いいよ、別にはるか昔より現在進行形で、ヤゴロヲのほうがきついじゃん。」

 そうかも知れないが、基本中身が中年なので耐性がある。

 妹のほうはきついかもしれないが、支えていっているつもりです。



 そんなこんなで、住人が知れたのだが、一部屋は現在物置になっているが、もう一部屋女性が入居しているらしいのだが、ほとんど見かけない人がいる。何かの研究をしていて大学に住んでいるといった表現をされ、いつ帰ってきているか、帰ってきてもどんな生態か不明な人がいるらしい。

 人畜無害かもしれないがとりあえず触れないでおこう。



 引越しの片付けも結局、寮母さんオシホにも手伝ってもらい、あらかた済んだところで、夕食となった。



「新たな仲間が加わったお祝いに、一つまつりごとを執り行う。」

 オシホが神妙に事を切り出した。


 引越しそばみたいな、引越し後は碌な準備が出来ないからそばを食べるみたいな風習で、引越ししたら、近所の人が執り行う”まつりごと”で引越しの労をねぎらい、片付けを手助けする行事である。



 そうして、成人の寮母さん、オシホ、僕はビール(麦の発酵酒で冷えたビールではない、ちなみに、現代と比べてあまり旨くない)で乾杯し、妹とウェルはジュースで乾杯をした。




 入学まであと6日、しばらくはこの付近の探索したりしていた。

 妹とウェルと僕の制服も出来上がり、近くのショッピングモールまで車で取りに行った。

 

 妹の制服と、ウェルの制服とは少し異なっている。

 基本的には同じ制服だが意匠が異なっており、音楽科は若干ひらひらしている。

 他に実業科もあり、工業科、商学科、体育科、芸術科、生活保育科、看護科とあり、だいたい普通科とあまり変わらないが、体育科は運動着、工業や芸術は作業着でうろついている。(どの世界でも同じなのか?)

 生活保育、看護科は特別でエプロンドレス風でとてもかわいい。



 大学校の方は、教養期間はみな同じ制服を着る。教養期間は3年、専攻3年の期間となっており、専攻になってからは制服は着なくていいが、制服だとかわいいとか無頓着な人(寮の見かけない人はずっと同じ服装らしい)は改造してでも着ている。


「どお。にあう?」

 妹は、セミロングの髪を揺らし、くるっと回って見せた。


「ねえ。あたしかわいく見える?」

 ウェルは、後ろ髪をシニオンでたばね、もみ上げから伸びる二本のお下げを揺らしながら、ほほえんだ。


 「うん。かわいいよ。」

 気のない返事だった。失敗だった。


「本当にそう思ってる?うそ臭いよ。」

「そんなこと無いよ。心から思っているよ。」

ああ女って何歳でも女なんだよな。僕はまったく学習がなってないな。



「もう罰として、アイスクリームをおごってよね。」

仕方なく、ショッピングモールのフードコートでおごることになった。


 フードコートには、ツインテールのかわいい小さな女の子が駄々をこねていた。


「どうして5段にはできないのですか?」

「すみません、当店では安全上3段まで可能ですが、5段は不可能です。」

「不可能だと決め付けてしまうから不可能なんです。やってみてはどうですか?」

「いえ3段までです。それ以上はお客様に対して保障できません。」

「私が”いい”といっているのです。顧客が了承している事でも出来ませんか?」

「出来ません。」


なかなか、欧米チックな店員さんで、なかなか交渉のし甲斐があるいいビジネススタイルだと思う。だが美少女は引かない。


「ならこうしましょう。3段のアイスを私が購入します。そこにコーンと1段を別々で追加注文します。あなたは、コーンにアイスを添えるだけでかまいません。それでよろしくて?」


「それならいいでしょう。ただし添えたあとの保障は致しかねます。」

「では、早速用意してくださる?」

店員さんは、親切にもこの美少女の要望を聞き入れた。あとはこの美少女にやりたい放題やらせて失敗をみるだけである。


「ならアイス3段の注文・・・まずはバニラストロベリー・・・」


某アイスクリーム店の記録は10段。5段は可能な段数だが、たかだかショッピングモールの店で独立店のサービスを期待するのか?という疑問もあるが、まあやりやがった訳ですよ。可能とはいえそこまで執念を燃やすあたり、女の子は恐ろしい。



その様子を外野で見ていたが、妹どもがまねし始めやがった。



「わたしも5段ほしい。」

「あたしのはねえ、チョコトッピングと~」



「あら、あなた達も同じ事を考えていましたのね。なら私はさらなる上をめざしますわ。」


 おいやめろ。店員さんが困っているじゃないか。心の中でつぶやいた。


 なんだかんだで、アイスクリーム屋さんを蹂躙し、その美少女は去っていった。


 年のころは11歳くらいだろうか?それにしてはしっかりしすぎている。

 物言いが、子供じゃない。合法ロリ少女のテンプレみたいじゃないか。


 学園都市の小学生はあんなんなのかなあ?と思っていたが、制服が初等部と違う気がする。かといって妹達の制服ともちがうので、どこか私立の学校に通っている子かなあ?


 まあ、そう会うもんでもないしと思い、気には留めないでいた。


 「さあ、帰るぞ。」

 「まってよ~、あと1段乗せたいの。」

 「そんな事言ってるとおいてくぞ。」

 「お兄ちゃんのけちー。」

 「お兄ちゃんのけちー。」(ウィル)


 さすがにめんどくさいので、無言で車まで行くと、妹たちはおとなしく帰り支度をした。

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