3旅のものですが
はるか昔、どこからともなく彼らはやってきた。
彼らは、本来この時代にあるはずのないものを持っていた。鉄器のない時代、彼らの武器は強力だった。
通常、アフリカ大陸なのでヨーロッパとアフリカの混血と思うのだが。しかしながら現在の地中海人のような、白人と黒人が混血した様な人々では無い様に思われる。
彼は、馬車を操っていた。国を離れ、貿易街道を走っていた。
そんな彼が大きな川に差し掛かったとき、人の営みの証拠ともいえる、生活廃棄物が多く流れていた。
(「この川の上流には人が暮らしているのだな。ちょっと上ってみよう」)
彼は川上に馬車を走らせた。
湿地帯で粘土質の川の岸には、桟橋があった。特に農地であるとは思われず、葦が川の岸を埋めていた。そんな中、異物を発見した。それは、リボン状の布がついていた。その下には金属の棒が二本、ぶら下がっていた。
「コレは、箸か? それにしても、金の箸があるとは。上流には人が居るのか?」
箸があるため人がいて、しかも文化的に近い人が居るという事実があるため、人恋しさのあまり、この土地を探ることにした。
周辺を探索していると、ガラの悪そうな男たちが、一回り小さな女を囲んでいた。
「はなして!!どこに連れて行くつもり?」
「おうおう、ねえちゃん。いいもん持ってるらしいじゃねえか。おれらの族長が話がしたいってよう。」
何かしら、いちゃもんをつけて、連れ去ろうとしてた。
「なあ、ねえちゃん。ちょっとだけでいいんだ。うちの輪中まできてくれねえか?」
「いやよ!なんの用件かも伝えないで、どうして行かなきゃ行けないの」
そんなやり取りがされているとも思わず、近づいていくと、こちらにも気づいた様で(馬車だから目立ったんだろうな)なんとなく、その場の雰囲気をごまかそうとしているようだった。
「どうしたんだい? 女の子でも誘っているのかい!? それにしては乱暴だな。」
彼は馬車から、男たちに話しかけた。ただ何を言っているかわからないようだった。
”「あんた、その顔だと、山向こうからきたのかい? こりゃあ俺たち部族の問題だ。口出しは無用ですぜ。」”
”「はなして! どうか旅のお方、助けてくれませんか?」”
彼らの話す言葉がよくわからない。でも彼女は助けを求めているようだ。
「女は嫌がっているじゃないか!。はなしてやれ!」
少し強めの口調で彼は言った。
”「少し厄介だな。よそもんだし、一人みたいだから、やっちまうか。」”
そう、一人の男が言った。そうすると、男たちは腰のナタや斧を取って、こちらに向かってきた。
彼は馬車を走らせなかったため、走ってきた数人の男たちに囲まれてしまった。
彼は、武器を馬車の中から弓矢を取り出し、男たちめがけて射た。
矢によるけん制で、二人に当たり、包囲網が少し崩れる。
彼は、馬車から飛び出し、背中に挿していた棒の先にすばやくナイフをつけた。
棒は、「カシン」と音を立てて、伸びた。簡単に言えば、ボタン一つで伸びる高枝バサミみたいな感じで、あっという間に槍になった。
男たちは、ナイフと斧で襲い掛かってきたが、さすがにリーチが違うため、圧倒的に彼のほうが有利だった。
大きく槍を振り回し、幾分か武道の心得があるのか、槍捌きは様になっていた。
男たちは、何か捨て台詞的な事を言って、一目散に逃げていった。
彼は、彼女のところへ急ぎ、近寄った。
「大丈夫か!?」
フードをかぶっているので、表情はわからないが、やっぱり何を言っているかわからない様子だった。
「アリガタキコト。」
片言で彼女はお礼を言ったようだが、今では使われていない様な言葉遣いで、よくわからない。
「いま、しゃべったか?」
「キミ、ナ ハ」
「名前を聞いているのか?」
自分を指して、彼女に確認した。
彼女は、首を縦に振った様に見えた。
「俺は、テヲだ。君は?」
まず、自分に指をさし、次に彼女に指を向けた。
「ワガ ナ ハ 、クク」
彼女は片言でやはり答えた。ただ、彼女の中では困惑が渦巻いていた。
”「あれ、これって。ムーの言葉だよね!?結構変わってるけど通じてるみたいだし。どうして?」”
彼は気にしないで、次々質問していったが、よくわからない言葉があり、彼女は返答に困っていた。
そんな中、彼女は、自分が落とした火箸を彼が腰に挿しているのを見つけた。
”「その火箸返して!?」”
彼に飛び掛るように、火箸を取ろうと手を伸ばした。
「お。これか? これはさっき桟橋近くで拾ったんだが。コレに興味があるのか?」
彼は、すぐさま火箸を手に取り、彼女の目の前にかざした。
彼女は、目の前にぶら下げられた箸の所有権が、自分にあることを示すように手振り身振り、早口で彼にはよくわからない言葉を発していた。
「これ、もしかしてお前のか?」
彼女は、うん、うん とでも言うように首を縦に振った。
「じゃあ、これをどう使うか教えてくれ。」
彼は、箸の持ち方をしながら、指をさして、使って見せた。
彼女は言っている意味がよくわからなかった。
彼は箸の使い方をしていたので、彼はこれが箸だとわかっているようで、わたしが使えるか確かめたいようだ。
彼女は、ジェスチャーを交えて箸を渡してほしいと頼んだが、受け入れられなかった。
そこで、彼女は粘土板を使って絵を書きながら説明しようと、普段使っている粘土と左官のコテとコテ板で器用に粘土板を作り、葦でできたペンで何かを書き始めた。
ちなみに、サハラ湿原では文字はない。口語伝承である。だから技術や風習は詩で伝えられる。しかし彼女は、聞いた話を粘土板に残していた。
粘土板に図と文字が書き込まれ、解説書が作られていく。
彼は、その粘土板に書かれた文字に見覚えがあった。それは彼の国の文字だからだ。
言葉といい、文字といい、この少女のはいったい何者なのだろうか?
そんな事を考えている間に、解説書が作られ、彼女のプレゼンが始まった。
やっぱり、言葉はよくわからないが、この箸は、食べ物をつかむ用途ではなく、釜から熱くなったモノを取り出すための箸らしい。
「はあ、はあ」「わかって頂けたかしら・・・・・・・」
彼女は解説で疲労していた。
彼は彼女ににらまれた様な気がしたが、フードをふかぶか被っているので表情はよくわからなかった。
どうやら本当に彼女のものらしい。
なんとなく納得して、箸を差し出した。
彼女は、すぐさま箸を奪い取って袋にしまいこんだ。
やっぱり、彼女ににらまれている様な気がしたが、さっきの状況はいったい何だったのか、彼女に聞いてみた。
やっぱり、ジェスチャー交じりだったが、今度は粘土板が追加された。
今度は、彼が粘土板に文字を書き加えて、同時に言葉を発した。
彼女は驚いていた。文字の伝達が可能なのだ。もうとっくに滅びたはずの文字がわかる人がいる。
とにかく、二人は粘土板を通じ、先ほどの誘拐未遂のこと。なぜ族長が彼女に用があるかわからないこと。彼が国から離れ旅をしていること。いろいろ話し合った。
粘土板には言葉と文字の対比表が付け加えられていった。
彼は、今晩の宿を求めているが、物々交換するものがない。同時に職がない。用心棒くらいなら出来るが、他に出来ることが雑用くらいしかない。
これは好都合と、彼女は粘土運びなどの雑用を求めていて、さっきの暴漢がいつ現れるかわからないので、用心棒として雇おうと思っていた。
まったくの謎であるが、言葉や文字に共通の認識があり、肌の色が黒くない(フードをふかぶか被り、泥のファンデーションで隠しているので彼女しか知らないが)ため、彼らは親近感を持ち始めていた。




