15話 おねいさん
例のクラブハウスは、久しぶりににぎわっていた。
パティちゃん、僕、チャンティコ、テペヨロ、たまにワカメ。
ドラフト装置(排気)のある奥の部屋(もともと尋問に使われていた)とシンクのある前室、屋根裏倉庫、水周りで構成されている。
シンクがあるので炊事が出来る。水周りは根性入れれば、ユニットバスっぽく使えないこともない。それはすでに前例がある。いつの間にかシャワーとシャワーカーテンが設置されている。
「これはいい所だ。住めるぞ。」
パティちゃんはご満悦だ。
「前の住人は結構ずぼらだったから、どんだけ苦労したことか。」
前室は僕とヒルメの愛の部屋でしたが、ヒルメは忙しいので、ずっといちゃいちゃしてた訳ではない。食事はどうしていたか不明であるが、水周りの掃除とかはずっとしていた。
「ヤゴロヲくう~ん。こんなところにこもっていたのね。僕やいちゃう。」
男に焼かれたくない。テペヨロを何とかしたい。
「ここ。女のにおいがするわ。なんか嗅いだ事があるにおい。」
チャンティコの鼻は何だね。犬ですか?
「ここはもともと学園の管理からは外れた建物になっています。王家の、正確には女王陛下の管理です。その管理はわたくしが引き継いでおります。学園に断りなく使用してかまいませんが、なにかあれば私にお知らせください。」
ワカメがこの建物について説明する。
「この建物を本当に使わせてもらっていいんですか?」
パティちゃんは同い年の後輩のワカメに対して、へりくだってたずねる。そもそも身分が違う。それに身分相応(年齢相応でない)の貫禄がワカメにはある。
「当然です。有能な方には十分な環境を与えなくてはなりません。それに伴って成果を挙げてもらわなくてはなりません。そのためにヤゴロヲ様にも手伝って頂いております。」
はい。だいたいこの姉妹の言うことは強制です。
「それで私たちはいったい何をすれば・・・・・・」
チャンティコの疑問も当然です。ワカメの悪巧みですが。
「チャンティコさんは、医療系の専攻ですよね。パティールさんは、生化学分野の新星ですので、チャンティコさんの知識が役立つと思います。」
「はぁ。」
チャンティコは釈然としない。
「じゃあ僕はなんで?」
テペヨロもやっぱりなぜ呼ばれたのかよくわからない。
「テペヨロさんは、ロボットの制御がお得意だそうで、ヤゴロヲ様の仮想化技術を用いた制御に通じるものがあると思いまして、ヤゴロヲ様と共同研究を提案します。」
「なぬ!?」
僕とテペヨロがタッグを組むだと?僕は男は嫌いなんだ。女の子がいい。
「それなら喜んで。」
テペヨロは快諾した。
「それはよかった。(これでメス犬が寄らないでしょう)」
「何かいいました?」
チャンティコはテペヨロが苦手、僕も苦手、だいたいの人が苦手。ワカメさんとんでもないものを押し付けましたね。
「いいえ。それよりヤゴロヲ様。パティールさん。必要な機器があれば、調達しますが何か要望はありますか?」
「ええ?何たのんでもいいんですか?」
パティーちゃんは驚くだろうが、相手は国家権力である。たいがい何とかなる。
「常識の範疇でお願いします。」
「じゃあ、ボール盤とフライス盤と旋盤、電気炉、X線検査装置、核磁気共鳴装置それと・・・・・・」
「ヤゴロヲ様、分野がまったくわかりません。いったい何を致すつもりで?」
「そうだよ。俺もX線検査装置、核磁気共鳴装置は欲しい。でも置き場がない。せめて置ける物にしよう。」
ええ?あのオカリナをぶち割るのに必要だと思うんだけどな。
「まあまあ、協調して進めましょう。まずは簡単な実験機器やコンピュータにしましょう。幸い、試験管などはあるので、他のものにしましょう。」
たぶんこの中では、常識人というか一般人のチャンティコは、まとめようとしていた。
「工作機械とか、溶接とか、エッチングとかいるよね?」
「それは、電子工学じゃなくて機械工学ですよね。」
そのうち突っ込みすぎて、チャンティコが精神をすり減らしてしまう。
「装置を作るのに、箱がいるし、ジグがいるし、そうそう回路作るボンディング装置とかも・・・・・・」
「大掛かりなものは、国の研究所に任せましょう。ヤゴロヲ様。しかし簡単な工作が出来ないとあれですので、学校の設備を使ってください。もしなにかあればわたくしに言ってくだされば用意いたします。」
ワカメが珍しく事務モードに入って真面目である。
「コンピューターは必須よね?測定器も必要。必要なパーツはある程度買い置きしておいた方がいいわ。入力ディバイスも重要よね。出力用のパワーディバイスとか電源とかも。」
テペヨロが結構乗り気で話している。ただのオネエキャラじゃなかったのか?
「あ、うん。そうだね。テペヨロの言うとおりだ。」
「じゃあ俺は電気誘導装置とか遠心分離機がほしいな。」
「それは大学のを使いなさい。まったく男の子は・・・・・・」
チャンティコはパティちゃんをいさめる。見た目は女の子なんですけど。
「あれ?イッパツでわかったの?男の子だって。」
僕は、チャンティコも見た目で判断すると思っていた。
「だって、男の子でしょ?わかるじゃない。」
よくわかったな。
「え?そうだったの?僕てっきり女の子だと思って。」
「・・・・・・男の子だったのね。ぶかぶかの格好だから線がわからなかったけど、肩の線と腰の線うまく隠してる。男の娘の才能あるわ。じっくり仕込んであげる。」
テペヨロこえーよ。おめえはタルじゃねえか。確かに肩と腰をごまかしきれないが布を巻いてたりしてるな、普段から。
「え?嫌だよ。俺は大きくなりたいんだ。だから大きな服を着ているんだ。いつか男らしく筋肉ムキムキになってやる。」
「まあ、もったいない・・・・・・、いえそれもありよ、そっちも需要があるわ。」
いや、お前はどの層にアピールするつもりだ。
「筋肉の話はおいといて、機器を申請してもおき場所をきめないとな。奥の部屋は生化学チームで決まりだが、前部屋は僕たちがとるか。」
「だめよ。」
チャンティコが言う。
「炊事が出来ないじゃない。それに薬物中毒になったときの避難所がいるわ。」
それはごもっともで。
「じゃあどこに?」
「ヤゴロオ君、屋根裏があるわ。せまくておしりとおしりがくっついちゃって・・・・・・」
やめようぜそういう妄想。
「屋根裏かー、天井は低いが別に狭くない。チコメもそこで寝てたな。」
「寝られるの?僕とヤゴロヲ君で。」
やめろ。
「それは許しません。寝るのはわたくしの仕事です。」
「なっ!男同士でなにをする気?」
いつものワカメと、意外とうぶなチャンティコだった。
「ここには泊まらないぞ。貞操(処女)を守るためにも。」
「そんなこと言わず、寝食をともにして男の友情を育みましょう。」
パティちゃんが言うと、違う意味で貞操を奪いそう。
「そこらへんは切り目をつけないとな。パティール君も毎日帰って、カウィールさんの料理を食べて大きくなるんだ。一人だと栄養が偏るぞ。」
「でも帰っても、女に囲まれるなんていやだ。」
なんて贅沢な。金払ってでも囲まれたい。
「ウェルもシシュチルも気にしてないし、パティール君が襲われる危険もないし。」
「俺は男なんですが。襲われるという発想はないんですか?」
「あ!いや、ついてたなそういえば、でも倒錯してお風呂とか一緒に入りそうだ。」
「だから男だと。」
「ほんとかしらね。僕にも見せてもらえるかしら。むふー!!」
テペヨロは明らかにやばい。
「やめろよ。変態!!」
「ふっ!!なんの!!こんなことでへこたれないわ。」
なんらかの執念を感じるな。
こうして僕らの共同研究が始まる。
たまにはウェルも呼んでやろう。そうすれば少しでも仲良くなってもらえるだろうか?