13話 思いの回路
また新しい季節がやってくる。
そろそろ進路を決めなくてはいけない。あのロボットのVR技術が知りたいので電子制御系になるとは思う。
常々おもうのだが、異世界に生まれ変わって現世知識で無双するとか、文明が遅れている世界で現代知識で無双するとか、夢なんですかね。
基本的に基盤が違って、石油を使わない技術が発展していて、付け入る部分がない世界だと真面目に勉強しないとついていけない。かろうじて現代のほうが発展している点はやっぱり、高度な技術で国家レベルじゃないと実現できないので、一般人が無双できるはずがない。
やっぱりチートな未来のアレ型ロボット、ど○○もんが、何とかしてくれるなんて事ないとだめなのかな?と思ってしまう。
出来るんだとしたら、
①あらゆる物質を変換し形に出来る:イメージング3Dプリンタ
②人間の意志を操れる:マインドコントローラー
③起こった事をなしに出来る:セーブポイント
が出来れば、世の中無双できると思うのですよ。
①で、欲しいもの、価値のあるものが作り出せれば、お金なんていくらでも作れる。
②で、どんな人でも自分のいいなり。何をしても許される。
③で、不慮の事故や災害をさける事が出来る。
まあ、夢物語なのですがね。
①と②があのロボットを解析すると出来そうな気がする。③は難しいけど過去転生してきたので、もしかするとあるかもしれない。
あのロボットを解析するのは、もうちょっと後だと思う。
あのロボットがらみで、僕の手元には島で起こった事件の遺物がある。僕の命を救ったオカリナみたいな物体だ。
この物体、銃なのかと思ったが、手のひらに握るにはちょうどの大きさで、オカリナの穴がない感じだ。
あの時は、空気がでてうまく着地したはずだが、空気が吹き出した穴らしいものがない。
何なんだろう?あのマイクロミサイルみたいに意思に反応するのだろうか?ふしぎだ。
「なんとか、コイツをしらべたいもんだ。」
「そうですね。お力をお貸しするのは可能ですよ。」
「わっ!!いつからいたの?」
ワカメが後ろに座っている。まるで定位置のようだ。忍者か?
この子は小学生とは思えない色気で、周りの大人を惑わす魔性の女だ。
「なにか考え事をして、その陶器みたいな物を手でくりくりさせている所からです。」
「結構前からいるのね。」
「影武者として訓練されていますから。」
「ですので、影武者のわたくしと契ればお姉さまと契ったのと同じなのですよ。わたくしで解消すれば、虫に食われる事もないです。」
どういう理屈ですか。僕、あなたに食われるって事じゃないですか。
「いつも思うけど、そんな自分がない影武者でいいの?」
「それがわたくしの務めです。それに姉妹は遺伝的に同じなので、お姉さまはどうせ人のものになるならいっその事、と思うのを思いとどまり、わたくしで我慢しなさいと置いていったのです。」
「そんなことないだろ。普通。」
「それはそれ、常識に囚われていては、王族などやってられません。それに嫌いじゃないですし。」
「いや、倫理上どうなの?」
「そこは、超法規的措置を敢行してゴニョゴニョと。わたくしより下の年齢でもアレはアレです。」
「国家権力怖い。」
「国家権力ついでに、その物体。こっそり解析しましょう。」
「えっ!?いいの?でもこれの存在バレたら、やばいんじゃ。」
「それはそれ、ナニはナニです。」
「いや、隠語が多すぎだよ。」
「言葉にするには恐れ多いので。」
「えーと。どうすればいいのかな?」
「とりあえず、裏の”別邸”へ行きましょう。あそこなら邪魔は入りませんし。うふふふふふふ。」
裏にある別邸はいいんだが、最後の「うふふふふふふ。」はなんだ。
この姉妹裏がありすぎて困る。ヒルメが狸ならこの子は狐に化かされた気分がある。
裏といっても少々離れた場所にある近代的な建物で、多目的ホールみたいで人が住んでいるとも思えない建物が建っている。カメラとかもあって、厳重な警備がされている。
たぶん、普段からSPがワカメ姫の周辺にいるんだろうと思われる。
建物のワカメ姫の私室へ向かう。途中侍従長の方ともすれ違った。
「ごゆるりと・・・お楽しみください。」
侍従長は、目を光らせ、口元をにごらせながら言った。
「がちゃり」
「さて、いかがいたしましょう。」
「ちょっと待て。いま鍵かけただろう。」
「当然ですよ。他に聞かれては困ります。それに、秘め事は知られたくありません。」
「セキュリティ上の事は理解しているが、だ。貞操の危機がある。」
「わたくしは貞操の危機とは思っていませんので、お構いなく。」
「僕のだよ。」
「いえいえ。据え膳食わねば男の恥というではないですか。」
「そのへんはとりあえず、星雲の彼方にすっ飛ばしてくれないか?」
「仕方ないですわね。」
「早速だが、これを調べる方法だ。見たところ分解しようがない。X線とかそんな非破壊検査で調べるとか。」
「普通に、透過するとは思いませんが、やるだけやって見ましょう。X線ならこの施設にありますし。」
「あるんかい!!」
「荷物など、調べるときに使いますよ。」
そりゃテロがあったら大変だ。荷物検査くらいするか。
どのご家庭にでもある空港にある荷物検査の装置。ってねえよ!!
「とりあえず。透過してみますか。」
と言うわけで、早速見てみると、あっさり見られたりして。という甘い考えは通じない。
「ですよね~」
「そうですね。」
「仕方ない。割るか。」
「それはやるだけ無駄ではないでしょうか?」
「とりあえず、軽くハンマーしても、と思うが。」
「一旦、現象を整理してはいかがでしょう。発動条件が見つかるかも知れません。」
再び、部屋に戻る途中、侍従長とすれ違う。
「お前が悪いのだ。」
侍従長はつぶやくと後ろから襲ってきた。ナイフを手に持ち上段から振りかぶる。
「やめなさい!!」
ワカメは僕の一歩後ろを歩いていた。だから異変にすばやく気づいた。
ざくっ。
ナイフが刺さる。
「ぐふぅ!!」
「大丈夫か!!ワカメ姫!!」
刺されたのはワカメ姫だった。とっさに僕をかばったのだ。刃渡りのあるナイフが胸に突き刺さる。
「なんて事だ姫を刺してしまうなんて・・・・・・」
侍従長は困惑気味だ。
「お前さえ、お前さえ現れなければ、姫は私のものだったのに・・・・・・」
「誰か!!誰かいないかーーーーーーー!!」
僕はとっさに人を呼んだ。
「ばかめ、お前が犯人だ、お前が刺したのだ。お前の言うことなど私の言葉の前では儚いものだ。」
侍従長は錯乱ついでに、僕を犯人に仕立てる計画の様だ。
「ちっ!!」
「ワカメ!!大丈夫か!?」
「は・・・い、やごっぷ!!」
ナイフは胸に刺さっており、もしかすると心臓かも知れない。
「わるい。しゃべらなくていい。待ってろすぐに人が来る。」
「はっはっはっ。お前の終わりはすぐそこだ。」
侍従長は、悪そうな顔で僕を指差した。
「だまれ!!この館には監視カメラで見張られている。すぐわかる事だ!!」
「そんなものは、証拠隠滅すればいい。」
「死なせるものか!!貴様!!何をしたのか判っているのか!?」
「判っているさ。姫はもう永遠に私のものだ。誰にも汚されはしない。」
「コイツ。狂ってやがる。」
ワカメの胸から血が止まらない。
「畜生!!どうすれば!!どうすればいいんだ!!」
と上着のポケットに入れていたオカリナが震えだす。
「なんだ!?」
そう、あの時と同じだ。僕の命を救ったあの奇跡。
オカリナが分解される。それは無数の破片に別れ球状になって僕らを包む。その中央からガラス球のようなものが、僕の方へやってくる。
僕の頭頂部に達したとき、ある種のフィールドが形成され、液体の中にいるような錯覚がした。
すると、侍従長をも巻き込み、中に風が吹く。その風は色がついていると感じた。
その風は、ワカメの胸に入り込み、血がとまり、ワカメを癒しているようだ。一方侍従長の耳や鼻から入り込んでいる。
「うぁぁぁぁぁぁぁ。なんだ・・・・・・私は・・・・・・姫・・・・・・わ・め?・・・・・・まめ?・・・・・・?ああああ、。」
侍従長は、訳のわからないことをいって倒れた。
ワカメの胸のナイフが徐々に透けていく。そして不思議なことに傷口が癒え、服さえ修復されている。
「なにが起こっているんだ・・・・・・」
僕は状況が解らないまま、その中心にいた。
ワカメの傷がすっかり治ると、展開されたフィールドが元に戻る。その中でコアと思われる部分を掴んだ。一瞬!!頭に展開される仮想空間。次の瞬間には、オカリナに戻っていた。
「ワカメ!!ワカメ!!
「ヤゴロヲ様・・・・・・いったいどうしたのです?」
「気がついたか!!大丈夫か?」
「大丈夫も何も、何もございませんよ。」
「覚えてないのか?」
「はい?」
「あの侍従長は?」
「え?新しい従者ですか?あの方は初めてお見かけします。」
「は?記憶がないのか?」
一時的なショックだろうか?記憶がすっぽりないようだ。
「くくっ。私はいったい何を・・・・・・?」
侍従長は立ち上がって、周りを見渡す。
「ここはどこだ。私は・・・・・・?」
こちらも記憶がない。しかし様子がおかしい。
「いったい何が・・・・・・そこのお二人。ここはどこですか?」
「へ?ここはワカメ姫の別邸で、こちらワカメ姫です。」
「え?こちらがワカメ姫?こんな大きな娘が?」
「は?ワカメ姫は今年12歳ですよ?」
「私が知るところでは5歳の子供ですが・・・・・・どうなっているんだ?」
どうやら記憶をごっそりなくしたらしい。やはりあれの効果なのか。
しばらくして人が集まったが、床に広がる血痕を見て驚いたが、誰も傷ついていない。まして衣服にも血がついていない。まったく不思議な状態で、侍従長が記憶をなくしている。まったく不可解な事件となっていた。
再びワカメの部屋に戻り、オカリナを眺めていても何も起きない。
「なんなんだろうな?」
「そうですね。それにしても、この部屋を出た記憶がないのですが、何があったのですか?」
さすがに詳しくは説明できない。あの侍従長に刺された記憶と侍従長の存在がなくなっている。なんて事信じるか?
「途中で催眠術をかけて寝ている間に終わらそうかなと。」
途中で寝ていた理由付けがうまくうかばない。
「まっ!!」
ワカメの顔が一気に赤くなる。
「それで、わたくしの・・・・・・その・・・・・・」
「いや、何もしてない。オカリナの調査だよ。」
「残念・・・・・いえ間違いで・・・・・・ちょっと、お花を摘みにいってきます。」
ワカメはそそくさと部屋を出て行った。
戻ってきて、落胆した顔で帰ってくる。
「はぁ・・・・・・、異常ありませんでした。」
「そらそうだろう。」
何を確認しに行ったやら。
一つ解ったのは、オカリナが結構ヤバイものだということだ。思いが力になる。でもどんな理屈だ?もしかして、ロボットの意思コントロールにも係わるのか?
なんにしても、不思議な物には変わりない。なんとしても解明したい。