9話 天の岩戸
巨人とロボットが運び出される。
姫の乗ったロボットは慎重に取り扱われキャリアーに乗せられた。
戦闘後1時間が経った今なお、いまだ動く気配がない。
中で気を失っているのだろう。外から開ける方法が解らないので、らちがあかない。
手持ちの工具が歯が立たない。さすがランダー、宇宙船外作業を想定しているため相当硬い。
元気なウェルあたりに「冥王星まで飛んでいけ!!」と叫んでもらうように頼もう。
浜辺の基地には、ロボットを解析するため、特設されたテントがあった。
上半身を起こされ、周りには橋脚が張り巡らされ、今回の調査団に参加していた専門家がそのまま、ロボットの調査員になり、ロボットの周りに張り付いていた。
オシホやチコメはもちろん専攻にあった配属をされた。
チャンティコに至っては、中等部のときから看護系だったらしく、大学に入ったのも医療系だったので、急遽救護班に抜擢されていた。
他のロボットの中身を調べて、開け方を探っていたがあまりいい成果がなかった。
周りも薄暗くなり、夕暮れに差し掛かった。
「姫の安否を確認したい。」
今回の調査団の団長が、切実な願いを口に出した。
急遽、救出作戦の責任者となった彼にとって、不測の事態だ。
当然、国の重要人物なので当たり前だが、無事じゃないと困る。
「でも、中と外は完全に隔離されています。生命維持装置が働いているかも解りません。」
「とりあえず外から合図を送っているが、光や音声、姫の通信機への発信。いろいろ試したがだめだ。」
テントでは対策を練っているが、決定打が出ない。
国の王女が、荒ぶる者の行いを退き、閉じ込められてしまった。
なんか天の岩戸に似ている。というかこれが本ネタなのか?
天の岩戸伝説だと、朝鳴く鳥を鳴かせて、鏡と勾玉を奉って、アマノウズメが半裸で踊って、新しい神が現れたので、お祝いしているとアマテラスをおびき出して、鏡を見せてひるんだ隙にタヂカラオが岩戸を空けて、引っ張り出す。
とりあえず、超うるさい鶏がいなか確認してみる・・・居るわけがない。
モスキート音とかガラスをつめで引っかいたみたいな、人間が嫌な音かな?
とりあえずガラス瓶と黒板と高周波発信機を用意しよう。耳栓して。
僕は、他の調査員の間に入り、センサーがありそうな頭部部分で、鳴らしてみた。
「キー、キー、ガー、キー、プーン、キー、キー、キー、キー、ガー、キー、プーン、ー、キー、キキー、キー、ガー、キー、プーン、キー、プーン、キーキー、キー、キー、キー、キー、プーン、キー、ガー、キー、キー、キー」
コレをずっと続けていると・・・・・・
「ギャー!!、やめてー!!、やめてー!!」とロボットから返答があった。
どうやら起きたらしい。第一関門突破。
「姫、聞こえますか?」
「聞こえるわ。でもあれは勘弁して。」
「なかなか起きなかったものですから。強烈なものを用意しました。」
「本当、いかれてるわ。」
ふと、姫は周りを確認した。姫の周りにコードやチューブがいつの間にかまとわりついている。バイタル情報がモニターに映し出されている。そんな中に異質なのもがあった。
「くちゃ、どぷ、ずぞぞぞおー」
体に何か入ってくる。いや、吸っている。
「んっ!!。いいいーーやぁぁぁぁーーーーーーー」
「どうした!?」
「い、いや・・・・・・、なんでもないわ。すぐ取れたし、先っぽだけだし。もともとにぐったりしてたみたい。」
「先っぽだけ?ぐったり?」
「早く出たいわ。こんなところ・・・・・・」
姫はきんちゃくから何か取り出し、ごそごそしていた。
「姫が意識を取り戻したぞ。!!」
「状況を確認しろ。!!」
周囲がにわかに沸き立つ。
「どうやったんだ?あんなに呼びかけても起きなかったのに。」
現場の状況を知らない調査員がやってきた。
現場に立ち会った者は、悲惨な音を聞いているので、説明の必要がない。
僕の前には、救出作戦の責任者が立っていた。
「なにがあったのかね?」
「妙案ではないですけど、人間の苦手な音を立てればいいのでないかと考えまして・・・こんな感じの・・・・・・」
先ほどの雑音を掻き撫でてみた。
「なかなか、大胆な事を考えるね。君は命が惜しくないのかね?」
「そこらへんは大丈夫です。姫には信頼を得ているので。」
「しかし、姫の安否の確認が出来るようになったのは、大きな成果だ。」
「このまま、僕が話しかけてみます。たぶん話しやすいだろうし。」
「姫、大丈夫か?ケガはないか?」
「特にケガは無いわ。かすり傷よ。」
「頭がボーとしてるとか?ないか?」
「ないわ。」
「じゃあ、何か持ち物は?」
「きんちゃくが一つ。」
「中身は?」
「女の子のきんちゃくには秘密があるの!!教えられないわ。」
いや、言いたい事はなんとなく分かるが・・・
「たべものとか、工具の様なものは?」
「水筒と、お菓子、つめきり、やすり、毛抜き、はさみ、サングラス、化粧道具よ」
「あとどれだけ持ちこたえられそう?」
「チョットだけでも嫌よ!!でも水の量からして半日はいけそうよ。」
「何か、あける方法はないの?」
僕は姫に、内部から開けられる方法が無いか確認した。
「このランダーの電力が足らなくて、待機モードみたい。それにシェルターモードが働いて、たぶん規定値にならないと動かないわ。なんとか充電しないと・・・・・・」
「起動の時に、ソーラーセイルがあったけどあれは?」
「展開している様だけど、今は、出力が無いみたい。」
「もう夜だから、日が出てないからね。」
まず光を当てよう。LED電球をいっぱい集めた。
「電気つけるぞ。モニター準備いいか?」
「いいわ。付けて。」
反応はあるがあまり上がらない。
「いい反応ではないわ。熱量もいるのかしら。」
次に、白熱球やハロゲンライトを用意した。
「ちょっと強度が上がったわ。」
紫外線ランプ。めがね着用。
「反応あり、意外と上がるわ。」
そして、ミックスしてみた。
「少し反応が変わったわ。充電の上昇が始まったわ。」
状況の確認、どうやら太陽光に近いスペクトルに反応がある。赤外線熱量もあったほうがいい。太陽光を当てるのが一番効率がいいようだ。
でも夜明けまで、まだ間がある。姫には休憩してもらい。対策を立てることになった。
「とにかくありったけの光を当てよう。」
「今でも当ててるぞ。それでも上がらない。」
「太陽が出ても、充電できるかどうか。」
「未知の機械では何が起こるか・・・・・・時間が・・・・・・」
とりあえず。光を当てることは続行する。
太陽が出るのを待つ。
「あの・・・・・・、太陽の光を収束して当てられないですか?反射炉みたいな。」
勾玉を電球とすれば、あとは鏡。たぶんコレであっていると思う。
「確かに、急速に光強度は上げられる。基地の補修部品などで作ってみよう。」
にわかに、急ごしらえの鏡が作られた。あるものはアルミホイル、あるものは鉄板を曲げ、あるものはステンレス製品。蒸着や、研磨で凹面鏡が作られていく。簡易だが、仕方あるまい。
あとは祝詞と半裸の女と力持ち。
祝詞はまあ、あってもいいけど、無くてもいいかな。姫の気を紛らわすための声かけは必要だろう。
半裸の女。
それはいいもん見せてもらいました。もう満足です。
でも、ウェルに頼んでみようかな?もう普段着に着替え終わっているけど・・・・・・歌ぐらいは歌ってくれるかな?
力持ち。周りはマッチョだらけなので、いくらでも候補はいる。でもなれない人より、知っている人間のほうがいいから、テペヨロだろうか?
姿を映す鏡。鏡写しの姫。外にでて初めて顔を見るのは、やはり身内のほうが良いだろうか?
さて、神話は整った。そんな中、姫はとあることに苦しんでいた。
「~~~、トイレ行きたい。」
姫に計画の概要を伝えると。
「もっと早く出来ないの?」
「太陽が昇るまで我慢してください。」
「いや、そんな悠長なことは・・・・・・」
「分っています。でも安心してください。」
「いえ、あああ!!、そんなことではなく!!」
乙女のプライドが真実の告白を許さない。
周りを見て、何かないのか探してみるが、壷みたいなものも無く途方にくれていた。
先ほどはずした”アレ”を見ていると、サイズ的に、前と後ろにチューブがあり、前はカテーテル、女性用らしき、さっき入っていた部分もある。水着で阻まれていたが。コレはもしかするとと思ったが、最終で試すと決めた。
とりあえずウェル、テペヨロに事情を伝えた。テペヨロは快諾してくれたが、ウェルはごみを見るような目で僕をにらんでいた。
「絶対嫌よ!!なんで、半裸で最終的に全裸なのよ!!意味わかんない。」
ああ、やっぱり。でも神話なんで・・・・・・
「昼の事で疲れてるのに、そんな事言う変態だとは思っても見なかったわ。せめて個別になら・・・・・・」
「えっ?」
「いえ、なんでもないわ。」
「とにかく、い・や・で・す。」
そらそうだわな。僕だって裸で踊るのは嫌だ。でもマッチョの、ポージングは見てみたい。
「その役目、わたくしではダメですか?」
ワカメ姫が、後ろから沸いて出た。隠密か?
「いえ、姫にそんなことはさせられません。」
「王女はどの道、巫女として結構恥ずかしい格好させられるので、それは気になさらなくてもよくって・・・・・・」
「いや、やっぱり意味が無い。やめましょう。(半裸ショーは巨人の戦いの象形化と見たほうがいいか。)」
「必要な事ではないのですか?」
「神話では・・・いや、伝記とか見ると、祈りを捧げる巫女が居るので、無いよりましかと・・・・・・」
「では、やはりその巫女わたしが引き受けましょう。」
ウェルはあせっていた。自分に当てられた嫌な役だったが、突然現れたライバルにいい所もっていかれるのは、悔しい。
「えっ、でも、はじめはあたしが・・・・・・」
「辞退なされたのですから、わたくしに権利が移ったものと存じますが?」
「ヤゴロヲ~?なんで?姫にやらせるの?不敬罪で殺されるよ!?」
「やらせるとは言ってないし、やるとも言ってないじゃないか?どうしてこうなった?」
とりあえず、半裸は良くない。なにか別の衣装で神楽を舞ってもらおう。
「王族は巫女の衣装を常に準備しています。それを持ってきましょう。」
でも結構きわどい感じの衣装が出てきた。
「王女が与えられている巫女衣装ですわ。ウェルさんにはわたくしの衣装を御召しになって。わたくしはお姉さまの衣装を。」
サイズ的に、ちょっと小さい。身長差10cmくらい小さい。二人とも細いので入っているが、ミニ丈になっていて、本来はもっと雰囲気違うんだと思われる。
「あたしがここまでやるんだから、絶対成功してよね!!」
僕は土下座の格好をさせられ、ウェルは嫌な顔して、僕を見下す目をしていた。
あ、パンツ見えた。
そんなこんなで、一通りの準備が整い、各自配置についた。
救出後のため、救護班として、チコメや妹もスタンバっている。チャンティコはちゃっかり白衣を着て準備している。
軍人の皆さんは、島の捜索、警備で警戒体制のため、救出部隊は民間人が主体で構成されている。
それでは、
『夜明けのモーニングコーヒー作戦』開始
(原作では、オモイカネの作戦名のネーミングセンスが無い)
仮眠中のヒルメ姫を起こし、段取りを確認する。
開始の合図とカウントダウンから始まる。
そして、二人の少女がロボットの前に控え、姫の御つきのものが祭器を鳴らす。
美しい朝日と共にそれは始まった。
美しく舞い踊る乙女たち。単純に成功祈願だが、朝日を浴び、とても幻想的に見えた。
でも、ワカメ姫、リアルワカメちゃん状態。二人ともちらちら見えてる。だがそれがいい。
「出力が上がっていくわ。せめて、10%まで上がってくれれば・・・・・」
「なんで、神楽舞をしているの?」
「それは、神頼みもかねて・・・・・・」
「ふーん。てっきり、あんなきわどい格好させて、喜んでるんだと思ったわ。」
「ギクゥ。いやいや、あくまで神事ですよ・・・・・・他意はありません。」
「ほんと?だって戦闘中も、ねっとり見てたじゃない。」
「いや、あの時は必死でそんな余裕は・・・・・・」
うそです。ガッツリ見てました。でも遠くてよく見えませんでした。
周りは痴話げんかを見せられてうんざりしている。でも作戦は進んでいた。
「そろそろ、10%になるわ。シェルターモードが解除。コレで手動で開けられる。
「ロックを解除するわ。」
プシューと油圧が解除されるような音がして、ハッチがぱくっと開いた。
ここでテペヨロがハッチを押し上げる。
ヒルメ姫の姿が確認できた。
そこにワカメ姫が手を差し出した。
すぐさま救護班がヒルメ姫に駆け寄る。
「あなたにだけは、頼りたくなかったのに・・・・・・」
ヒルメ姫は、若干の衰弱はあるが元気なようだ。
ただしある秘密をのぞいて。
コクピットの片隅に、あやしい器具がテラテラと光っていた。
「さて、調査も終わりましたが、最後にとんでもないモノを見つけてしまいました。」
日があけて、滞在3日目。ヒルメ姫は今回の調査を締めくくる挨拶をしていた。
はじめは、移住調査の旅だったが、最後に異性人とそのテクノロジーを見つけてしまった。コレは重大な機密である。関係者全員、”処分”されても無理は無い。しかし次の言葉は、違った。
「このことを国民に開示します。もちろん表向きに内容を変えますが。しかしながら、われわれが今後生き残るため、彼らが生き残った術を使わせてもらうのです。」
たしかに、オーバーテクノロジーだが、解析できれば役に立つだろう。
巨人は早速、近くの冷凍タンカーを手配し、輸送され、ロボットは揚陸艦の格納庫へ搬入された。
我々はというと。
「皆さん、大騒動でしたわね。軍艦では落ち着かないと思うので、わたくしが乗ってきた船でお送りしますわ。」
そう、ワカメ姫は一緒に乗船していたのではない。船は沖に停泊しており、小型のボートで上陸していた。
「そうね、ちょっと休みたいし、ヤゴロヲには話があるし。船はあの船よね?」
「ええ、お姉さまの部屋もありますわ。それに、あんなものまで・・・・・・」
「あなた、なに持ってきて・・・・・・、あれ持ってきたの?でもどうやってみつけた?」
「そうですよ~。お姉さまの動きが最近おかしかったので・・・・・・わたくし達の神楽なんかより刺激的な・・・・・・」
「わ~~~~~~、ちょっとまって、何を・・・こら黙りなさい。」
よく似た姉妹が組み合っていた。なんかグラビアの”適当にじゃれあって”みたいだ。
僕たちは小型ボートで王室用豪華客船に移動していた。
「ヤゴロヲ。いっやらしい目で見てなかったでしょうね?」
ウェルはまるで汚物を見るような目で、僕を見ていた。
「いや、まったく神聖な目で、何の曇りもなく、神に誓って。」
「ん~、見つめていたよ。しっかり。パンツちらちらしてたよ。」
チコメめ余計な事を。
「ほら、やっぱり。金輪際あたしに近づかないで!!」
ウェルにはやっぱり間を空けられている。
「お兄ちゃんさいてー。」
「ヤゴロヲ君は、健全な男の子なんですよ。興味ありますよね?それにわたしも実習とかでよく男の人の見るし。」
チャンティコ、それは仕事で見ているだけで、いやらしく見ていないだろう。
「ヤゴロヲ、おめえ、元気だな!!、今度キャバクラにでも行くか!?」
オシホは、空気読まないなぁ。でも行ってみたい。
「じゃあ、ヤゴロヲ、船についたらわたくしの部屋まで来てくださる?」
ヒルメ姫は、なにか顔を赤らめもじもじしていた。
船に着き、荷物を宿泊する部屋に置き。僕は姫の部屋に赴いた。
「こんこん。ヤゴロヲです。」
「はいどうぞ。お入りになって。」
ヒルメ姫の部屋はさすがに豪華で、王女の部屋にふさわしい。
「やっと二人きりになれたね!!ヒルメ。ヤゴロヲ成分がたらないよ~。」
姫がロケットの様に抱きついてきた。お風呂入りたてで、ほんのり桜色で、かわいらしい部屋着をきていた。
「姫、いったい。」
「ウェルとワカメをいやらしい目でみてたでしょ~。だからわたしの魅力でメロメロにするの!!」
「ちょっ、姫、こんなことばれたら殺されてしまう。」
「姫じゃなくて、ヒルメ。いいじゃない。わたしがあなたをまもるから。あのランダーもあるし。」
「あれ、まだ何にも解らないじゃないですか!?どんな危険があるか。」
「だいじょぶ。あれ、ヒルメを仲間と思ってるみたい。でも調べないとね。」
「だから、アレだけでは、不十分ですよ。」
「ヒルメ。何とかしてみる。」
説得力が無い。どこからこの自信が。
「今日はね。見てほしいものがあるの。」
大きなクローゼットを姫は開けた。そこには、未来の衣装があった。メイド服、バニーガール、セーラー服、ここはアキバか?
「みーんな、ヤゴロヲに見せてあげる。着替えも手伝ってね。」
「いや、それはちょっと。」
「だ・め・で・す~。決定です~。二度と他の女に欲情させないように搾り取るんだから。」
「えっ。いやそれこそ殺される。」
「逃げられないよ。鍵閉めたもん。チコちゃんが見張ってるもん。」
そして、港に着く7日間、姫の部屋から僕が出ることは無かった。