異変を感じる
僕の前に現れたのは黒装束に身を包んだ女性だった。その女性はレイカさんというらしい。
「ありがとうございます、お陰で助かりました」
そうお礼を言えば手をひらひらとさせ軽く流したレイカさん。そういえばレイカさんはどうしてこのダンジョンに来たんだろう?ここは初心者向けとされたダンジョン。さっきのゴブリンの群れを一掃した強さといい、もっと違うところにいるのが普通だと思うんだけど・・・
「レイカさんはどうしてこのダンジョンに?助けてもらったのは助かりましたが、ここに来る初心者には見えませんし」
そう言えばレイカさんは「ああ」と僕の説明に納得して頷くと
「まああれだ、この先にいるボスに用があって来ただけだよ」
このダンジョンのボス、それは初心者の僕も入る時に説明されたが、絶対に近づくなと言われているボスだ。初心者向けと銘打ったダンジョンには不自然な程に強く、また勝ったとしてもメリットはないとされている。
そんなボスに用があるという事はレイカさんも冒険者としてかなり強い人なのだろう、としか初心者の僕には考えられなかった。
あの20体は居たであろうゴブリンの群れを一瞬で灰に変えたのだ、当然と言えば当然なのかもしれない。
はてさて、助けたのはいいんだけど。なんか流れで一緒にこの少年とダンジョン歩きながら話してるんだが・・・まあ急ぐわけでもなし、これでもいいか。
「レイカさんは闘士の方ですか?」
ふと、話の中でそんな事を聞かれた。闘士、それは拳を武器とする。武器を持たない分身軽で素早い攻撃を得意とするが、その分防具が薄く耐久に難がある職だ。
私は魔法使いが専門とする武器である杖を持たないからね、初見の人にはよく聞かれる。実際私が装備しているのは戦闘時に展開する籠手だ。
「私は魔法使いだよ、まあ少し特殊だけど」
私がそう名乗ってるだけで実は少し違うけど。似たようなものだし大丈夫でしょ。
「そうだったんですか、あのゴブリン達を灰にしたのも魔法ですか。いいですよね!僕も魔法使いはかっこよくて好きです」
そう言った少年は鼻からふん!と空気を出し興奮した様子だ。
そうかそうか、魔法使いが好きか。あのファンタジーな魔法は見栄えもいいしかっこいいよなぁ。私もそれに惹かれたからその気持ちは分かる。
ただ魔法使いは他の職に比べて 育成要素が強い。最初のうちは使い物にならない事が多いから、初心者が折れやすい原因になる。
「魔法使いを目指すなら、弱くても諦めない事だ。やってるうちに分かる」
「諦めない・・・事ですか?」
口に出して首を傾げる少年
「誰でも出来るように見えて難しいんだ、ある意味才能だぞ。諦めないっていうのは」
人は何にせよ諦める。諦める事で何かを得る。そして何かを失う。だけどたまーに居るんだ、何があっても諦めないやつが。そういう奴が世の中で持て囃され、成功する。
まあそんなものだ。
「なるほど・・・?」
よく分からないって顔で呟く少年。
分からんでもいいさ。そういうものだから。
「と、そういえば少年の名前聞いてなかった」
ずっと少年呼びというのもアレだし聞いておこう。人の縁は何処で繋がるか分からんし。
「あ、忘れてました。僕の名前はアレンです」
「アレンか、よろしく・・・といってもこのダンジョンだけの付き合いになりそうだけど」
「よろしくです・・・!?」
と、二人が話をしているときに前方からまたもやゴブリンの群れが走って来た。はて、何かの作戦か?このダンジョンは雑魚はゴブリンしか出てこない。何らかのイベントを疑うべきか?
「うわわ・・・!」
アレン少年もまたこちらに走って来たゴブリンに持っているナイフで切りつけ対処している。初心者とはいえ、戦えないわけではないらしい。
なら私も適当にカバーしつつ蹴散らしますか。
それから数分後にはゴブリンは全滅しこちらもドロップ素材を回収していく。まあ全部アレン少年にあげた。私にはいらん素材しかないし。しかし・・・
「今のゴブリン達、なんか変でしたね」
「そうだな、何かおかしい」
アレン少年も感じたらしい。ゴブリンは、というかこのゲームの敵は頭がいい。当然のようにエゲツない攻撃をしてくる。のはずが今きたゴブリン達は無闇矢鱈に突撃してくるのみだった。
いや、突撃というよりは・・・
「何かから逃げて来た・・・って感じか?」
ゴブリン達の攻撃からは必死さを少し感じた。この先に何かあったのか
私の記憶にはこんなイベントは無かったはずだし、何か異変があるのは間違いなさそうだ。というかあった方が楽しそう。
最近、グミを食べながら執筆するのがマイブームです。レモン味が正義。たまにグレープ味もありですね。