初戦闘、スキルの感覚に問題はない
うん、まあこうなるよね。
あれからリヴァイアの背中に乗って目的地まで飛んだ訳なのだが、飛行機なんかとは訳が違う。何度も体全体に掛かる突風に負けてスカイダイビングを繰り返す羽目になった。
人はどうしようもない事に直面するとパニックを通り越して悟りを開く、と学習したよ。二度とやらんからな。
まあリヴァイアも謝ってたし許した。目的地には着いたしね。前と同じようペットのアイコンボタンを押せばリヴァイアは光の粒子となり帰還した。
さて、私が来たのはゲームを始めた人がまず最初に行くダンジョン。その名をヨモツ。運営のネーミングセンスはよく分からんね。意外と驚いたのはダンジョンという割に人が入り口付近で騒いでいたことか。
横切るついでに露店を開いていた商人と冒険者の話を盗み聞きしてみた。
「あい、いらっしゃい!今なら安くするよ!」
「そんな事より大変だぜ!この辺でデカい魔物が飛んでたらしい!」
「本当ですかい?空って事は雲よりデカいんですかねぇ・・・ま、それでも大丈夫!この魔物避けの粉があれば!」
すいません多分それうちのペットです。しかしまあ、そんな事があっても商魂逞しいな。どんな時でも商売に繋げるのが凄いわ。
そんなこんなでダンジョンにいざ入ろうとしたら衛兵に止められた。どうやら冒険者以外は入れないらしい。ゲーム時代に衛兵は居なかったんだが、何やら一般人が侵入して死んだ事があったらしくそれからの決まりらしい。
冒険者カードを見せると納得した様子で気をつけて、と声を掛けられたので笑顔でありがとうとだけ返しておいた。衛兵の顔が少し赤かったのは気のせいにしておこう。まあ私の理想を詰め込んだキャラだしそうなるのも仕方ないかな?
中に入るとそこは湿った岩肌が特徴の洞窟だった。ゲームではそこまで細かく作られていなかった記憶があるが、こうして現実になると雨上がりのコンクリートの匂いが蔓延していて少し嫌になる。
カビ臭いんだろうか?ゲームの時にない五感に伝わる刺激は私には新鮮で慣れたはずのダンジョンでも少し緊張する。
さて、私も何の理由もなく初心者用のダンジョンに行かない。理由はもちろんある。ここには一つだけ初心者向けとは言えない要素があるのだ。
明らかに初心者では勝てないボスが一番奥底にいる。いわゆるおまけ要素のようなもので、練習用ボスのような立ち位置だが今回のような調子を確かめるには持ってこいなボスだ。
鈍ってなきゃいいが・・・昔は10人で挑むようなレイドボスをソロで相手したりと冒険した。
っと、そこでまず横から不意打ちするように魔物が飛び出し木を削って作られた棍棒が振り下ろされる。
「おっとっと・・・」
すぐに反応して体を逸らして回避する。空振りした棍棒は地面を強く叩くだけで終わった。そこでようやく姿を視認。緑色の皮膚に口元からニチャァっと垂れるヨダレ、ボロ布の腰巻につけたそれは魔物の中でも代表的なそれ。ゴブリンである。
しかし初心者向けと侮るなかれ、ここの運営は酷くて完全な死角から攻撃をしたり初見殺しな敵を配置したりと油断はできないのだ。
今もこうして攻撃を死角からしてきた。まだどこに敵が隠れているか分からない、警戒しながら構える。
「これなら・・・まあ、魔法は使わなくていいな」
魔法使いなのに魔法を使わないのは変な話だが私の魔法は少し使い勝手が悪く、ただ使うだけだと融通が効かないのだ。だからここは素直に拳で戦う。
まずはスキル発動、『迅脚』と呼ばれる一定距離を任意で瞬間的に踏み込むスキル。これは職業問わず誰でも使えるスキルで攻撃の始動には便利だ。
その動きに反応して振り下ろした棍棒を構え直し振り下ろしてくるが、遅い。掌底をガラ空きの顎に打ち込み、その隙に空いた腹に向かって正拳突き。
「○☆%$¥!?」
ゴブリンは悲鳴を上げ吹き飛び壁肌に叩きつけられ、力なく倒れた。
念のために首に向かって足のかかとで踏み潰して終わりだ。やはり初心者用なら一撃で終わるのも仕方ない。
「動きに問題はなさそうだ、スキルも自分の考えた通り発動した」
頭の中でスキル発動を意識しただけで発動した、これなら問題なさそうだ。次は・・・魔法の調子と感覚を掴んでおきたいな。いい魔物はいないものか。
「―うわぁぁぁぁああ!」
と、その時洞窟内に響く叫び声。声からして近そうだ。迷いなくその方向に『迅脚』でゴツゴツした岩だらけの地面を蹴りながら進む。
誰か襲われてるのかもしれないな・・・
軽くスキルの説明をすると。
スキルには共有スキルと職業スキルが存在します。
共有スキルは誰でも使えるスキルを指し、職業スキルは職業それぞれにしか使えないスキルの事になります。