一方その頃、とある国では
カツカツとスタンドガラス張りの廊下に足音が響く。ガラスの向こうから陽の光が差し込み厳かな雰囲気を醸し出す廊下を歩くのは一人の女性だ。
そしてその隣を歩くのは服の上からでも分かる筋肉質な身体をした老年の男性だ。何も知らない者からすれば、それは逢瀬のように見えた。しかしその二人の会話にその色は無かった。
「本当なの?開かずの部屋が開いた記録があるって」
女性は歩きながら男性に問う。それに頷く男性。
「間違い無いかと、賢者の館の管理は厳重。選ばれた者でなければ開けることは不可能。現に今の今まで開かれることはないのですから」
「つまり噂は本当ということになるの?四賢者にはもう一人賢者が居るというのは」
300年前、世界中が壊滅的な被害を受けた大災害。その元凶を討伐し世界にあらゆる知識と技術を授けたとされる四賢者。
これは伝説などではなく、その後150年ほど四賢者は存在していたのが記録されている。最後は皆消えるように亡くなり、世界中の国々によって手厚く葬られた。
その後、賢者の遺産というべき所持品やその所有物であった館を保護・・・とは名目上、その実国々で静かに奪い合いが起こった。当然だ。所持品一つでも国一つが傾くと言われるほどの逸品ばかりなのだから。
しかし、その中で唯一何も手を出すことが出来なかった場所が存在する。それが賢者の館にある開かずの部屋だ。それが300年の時を経て開かれたと突然記録されたのだから大騒ぎだ。
「まだその噂を信じるのは早計かと思いますが、可能性は否定できませんな」
老年の男性は顎髭を撫でながら息を吐く。
そんな誰にも開けることができず、中に入らなかった部屋。それに入れるとするなら四賢者か、もしくはそれに属する者。賢者の館に存在する部屋は五つ。開かずの間を除く四部屋は全て四賢者一人一人の部屋となっていた。
つまり開かずの部屋もまた、誰かの部屋なのではないかと噂が出たのだ。当時は眉唾物であり信じる者はいなかったが、こうして開かれた事実を見るに可能性は0では無いのだ。
「だとしたら・・・大きな渦になるわね」
「ええ、上からも捜索し確保するよう命令が下るのは間違い無いかと」
四賢者は一人一人が人知を超える、天変地異すら起こしかねない程の実力があった。それがまた一人、甘く見ても同等と見ておかしくない賢者が現れたのだ。
それを確保し手中に収めることが出来たならその国は世界の覇者になる事すら可能になる。つまり・・・力を求めて新たな戦争になる可能性を秘めているのだ。
「はぁ・・・」
願わくばそんな力のある者で無い事を祈る。
これから起こるであろう事件にため息が思わず漏れた。