対策と新たな選択肢
日記の内容は面白いものばかりだった。世間話かと思いきや地中に住う民族と出会い未知の魔法を学んだだとか。私の魔法を込めたカードの技術をスケールダウンした汎用生活用品を作ったとか。
飽きない内容だったが私が一番使える、と感じたのは複数の魔法を混ぜる事で属性の違う魔法を使うもの。それ自体は私も使っているものだ。水と風で嵐になるように、複数の属性を合わせ別の属性に転じる技術。
日記に書かれていたのはそのさらに先。合わせて生まれた属性をまた別に合わせて作られた属性と合わせる技術だ。これによって作られた魔法は上級魔法を超える威力と範囲を持つ禁忌魔法である。と書かれていた。わかりやすくイメージするなら核の炎だろうか。
そもそも、複数の魔法を混ぜ合わせるという行為が危険だ。あれは今にも切れそうな細い糸を繋ぎ合わせるようなものだ。まあ私は前もってその配分を決めたカードで組み合わせてるからその場でやるより楽なんだけど。また竜のようなレイドボスと戦う可能性もある、後で切り札として作っておこう。
「これだけじゃ足りないな、何か他にも考えておかないとダメだ」
例えば魔法そのものを封じられた場合だ。私はカードを使って魔法を使っているがカードを奪われたりすれば攻撃と同時に魔法を使うのは無理だ。なら体を使った攻撃だけでできる方法を探す?いや難しいな。そもそも私の戦闘スタイルは色んな方法を考え突き詰めたものだ。それを更に強くするのは至難と言える。ならば他の方向を鍛えた方が・・・
「うーん・・・」
「どうした?先程から唸ってばかりだな」
「ん?」
汗まみれのナツミさんが布で体を拭きながらこちらに来る。後ろではバルキリーがまた山賊達を鍛えるという名のリンチをしているが、多分バルキリーと試合したんだろう。
「そっちこそ随分と疲れてそうだね、バルキリー達は強いでしょ?」
「あぁ、私もついていく事で精一杯だった。疲れたが体に染みるような心地いいものさ。で?レイカ殿が悩んでるのは何だ?」
「それがなー・・・」
一瞬私の事情を話してもいいものかと考えたが、もはやお互い犯罪者で共犯だ。別にいいかと思い今までの事を話した。ゲーム時代の話はそれなりに誤魔化したけど。
「なるほど・・・だから上はあれだけ強引に来たのか」
話を聞いたナツミさんは納得した様子だ。
「レイカ殿の話をした途端、上の反応が変わったからな。前に開かずの間が開かれた記録が発見されたのもあって上は確信があったんだろう、竜を相手できるような魔法使いなんて賢者くらいなものだ」
まあ私のチームが集まればレイドボスだろうと倒せるだけの火力はあるしな。しかし・・・私の部屋にあんな重要な情報の日記が置かれていたのも納得だ。
おそらく開かずの間と呼ばれていたのはゲームでの仕様が残っていたからだ。個人の部屋は許可した者か部屋の持ち主だけしか入れない。それを知っていたチームメンバー達が私の部屋に漏れたらまずい物や情報を残したんだろう。
「それと対策だが、噂話にでしかないが魔法を封じる道具が開発されたという話もある。レイカ殿の懸念は間違ってない」
「やっぱりか」
ゲームの頃はアイテムでそういうのがあったからなぁ・・・効果時間は短くて対処は楽だったけど。
「それなら武器を持つのはどうだ?私のように剣を持つだとか」
「武器か、今愛用してるのはこの籠手だからな」
自分の意思によって展開される両腕を包むアイギスという名の籠手。本来は防具なのだが素手で殴る関係で武器にもなる。
「それだけでは手段に乏しいだろう。何か探してみてはどうだ?」
「武器ね・・・」
確かに魔法を使わない前提なら素手にこだわる必要はない。他に武器を持つのも手だな。