冒険者
あれから少し時間をおいて日記を読み直した。
まだまだ多すぎて全ては読めなかったが、ある程度この世界については理解できた。今でこそ発展して違いはあるがここはゲームの世界、しかし完全にゲームがそのままと言うわけではなく現実とゲームが中途半端に混じったような世界らしい。
例えば私が使うアイテムボックス。これは普通に使える。しかしお金に関してはステータスにあるポイントを押す事で実体化させなければならないらしい。この違いは何なのか。まだまだ話せば長くなるが色々と違いがある。
タンスに閉まっていたアイテムは回収した、これでここに用はない。多分ここに来る事はもうないかもしれないな・・・
ここには沢山の思い出がある、できる事ならもう少し居たい。が、やることが出来
た以上留まる事はできない。
後を引く思いで館を出た。このあと行く場所は・・・冒険者ギルドだな。日記によるとゲーム時代のものがそのまま使えるらしいからそこでクエストを受けるつもりだ。まずは肩慣らしで感覚を覚えたい。
出るときに門番の人になんかジロっと見られた気がしたが気にしない。気にしないよ?別におかしく見られたって気にしない。うん。
道を歩くにつれて、ちらほらと冒険者らしい人たちが出てきている。見たところ上級者はいないようだけど。私のこのスーツも実はちゃんとした防具になっており、黒獅子と呼ばれるモンスターから作られたものだ。見た目にこだわりがなければもっと強いものもあるけど、自分としては動きやすくカッコいいこれがお気に入りだ。
と、そんなこんなで到着した。初心者が必ず一度は来る場所だけあり大きな建物だ。中に入るとムワッと酒が入り混じった匂いが鼻を刺激した、どうやら酒場を兼ねているらしく既に酒に溺れ酔い潰れた者が床で倒れてたりする。
(キッツイ匂いだ・・・ゲームの頃には無かったな)
思わず顔を顰める。酒の匂いは好きではなく飲むのも苦手だ。そんな様子を横目に通り抜け、壁際の隅にポツンとある機械に自分が持っていた冒険者のカードを差し込む。これはゲームの頃と変わらず存在しており、特殊な依頼の確認などが出来る。モニター代わりの水晶にふわふわと文字が浮かぶその様はファンタジーらしく原理が不明だ。
『レイカ 特S級 』
簡潔に書かれた文字に目を通し安心する。どうやらランクなどはゲームと変わらないみたいだ。またランクを上げ直すのは少し手間だったからな・・・街に入るときにこのカードを見せれば、もう少し楽になったかもしれないな。
後は受付で依頼を確認して適当なもの選んでダンジョンに行くか。この街の受付のお姉さんは少し有名で。主に露出が激しく男たちに人気なのだが本人にその自覚がなく天然な人だ。まあ私も嫌いではないが目のやり場に困るので苦手だ。いやまあ眼福だけどね?
しかし・・・混んでるな。見る限り受付をしてほしい人たちで並んでおり行列が出来ていた。ここは大人しく並んでおこう。
「なあなあ、報告終わったらどうする?飲みに行くか?」
「バカね、その前に反省会よ!何処の世界に敵陣突っ込んで武器振り回す魔法使いがいるの!」
「うっ、仕方ないじゃないか。マナが切れたんだから!」
前にいるローブ服の少年と胸に装甲をつけた少女の会話が耳に入るが私は苦笑いだ。まあ普通ならそれが正しい、魔法使いはさまざまな魔法を使い距離を置いて戦うことが基本だ。私のように拳をメインに戦う魔法使いはハッキリ言えば異常。
職業には補正があり、魔法使いなら魔法の威力、マナの量に補正が入り他の職に比べ魔法が強い。剣士なら力やスピード、技術に補正があったりとする。
つまり魔法使いが拳や武器を使おうとすれば補正がない為に他の職に負けてしまう。素直に魔法に頼った方が強く、わざわざ拳を使うメリットは存在しない。
最初は苦行だらけで私も辞めたこともあったが、デメリットを超えてようやく道があった。本来伸ばすはずのマナの量を減らしてパワーやスピードなどを伸ばしてもステータスは武器や拳をメインにする職業に負ける。まあ今の私なら上級者より下なら拳だけで勝てる自信はあるが。
それでも諦めず創意工夫を繰り返して今のスタイルに定着しトップに立つまでになった。今思えば懐かしい。
(頑張れ少年、その苦労を超えれば道はあるぞ)
なんて心の中でそっとローブ服の少年にエールを送り、ふっと微笑んだ。
そんなこんなで行列も進み私の番がまわってきた。
「いらっしゃいませ、本日はどのような御用でしょうか」
「近場のダンジョンでの依頼がないか確認したい、あるか?」
「それなら冒険者のカードを・・・失礼します」
言葉の途中で私がカードを手渡す。それを受け取り手元の機械に通して何やら確認中のようだ。
機械を弄っていた受付のお姉さんは突然目を見開き忙しなく機械を操作する手を早める。何か問題でもあったか?流石に300年近くも経ってるから使えなかったとか。それなら再発行になるのかな?
「申し訳ありませんが、このカードは使えません」
「何か不備が?」
「いえ・・・そういうわけではないのですが、どうやら故障しているようで何度やってもエラーが起きるのです。申し訳ないのですが」
「あー、分かりました。それじゃ失礼します」
カードを受け取り受付を後にする。故障ねぇ・・・さっき機械使ったときはちゃんと出たんだけどな。まあいいや、それならそれで直接近場のダンジョンに行くだけだ。
建物を出ようとしたその時、ふと視線を感じた。なんとなく感じた視線の方を見れば誰も居ない。はて、覗き見られたのかな?・・・ここを出てダンジョンに向かおう。気にするだけ無駄だ。
ゲームの頃とは違って食料や水も必要だ。今はゲーム時代の料理やらがアイテムボックスにあるから良いが、何処かで確保しないとな・・・
ステータスについては
職業
パワー
スピード
テクニック
それとは別に魔法ステータスが存在し
マナの総量
威力
速度
精度
になってます。
作中で詳しいステータスが出ることは多分無いと思います。ややこしくなるだけですので