決着はついた
「さて、次はあんただ。何もしないなら通らせてもらうよ」
黒鎧の男はそれを聞くと鼻で笑う。そして剣を抜きこちらに向ける。
「何故俺が?お前など一瞬で片付けてやろう」
「へぇ、たいした自信だ」
「その理由もすぐ知れる、お前は何が起こったか理解できないだろうな」
剣を構えた次の瞬間、黒鎧の男の姿が消えた。ゾクリとくる背筋の感覚に従い横に飛ぶ。飛ぶ前にいた場所を斬撃が走る。黒鎧の男はその場に姿を現しこちらを見る。
「ほう、避けたか。だが時間の問題だ」
再び黒鎧の男の姿が消える。先程避けられたのはたまたまだ。次を避けられる自信はない。なら・・・私は腕をクロスさせ装備を展開する。その名を『アイギス』籠手という形で自分の腕をカバーする攻撃武器兼防具だ。ガジャガシャと音を立てて自分の腕に展開される。
「ここっ!」
微かに聞こえる音を頼りに腕でガードすると、そこに斬撃が走りギャリギャリッ・・・っと金属同士の擦れる音が聞こえる。
それでも斬撃は止まない。次々に走る斬撃をひたすら腕でガードし続ける。
「大したものだ、俺の攻撃をここまで防ぐのはお前が初めてだ。しかし魔法使いなど俺の敵ではない。この速さで詠唱なぞさせないからな・・・」
何処から声が聞こえる。私の体は致命傷こそ防いでいるものの、細かい傷まではカバーできなかった。このままで防いだところで私の負けは見えている。攻撃に転じる必要がある。
「なるほど、自信を持つだけの事はある。私でも初めて戦うタイプだ」
かつてゲームの頃、これほどの速度で動くプレイヤーなど存在しなかった。おそらく新たな職やスキルによるものだ。しかし、魔物にこれに近い奴がいた事もある。今回もその例から倒せる手段はある。
「付き合ってやるよ、掛けっこといこうか!」
見えない速度で放たれる斬撃をガードしながらカードを取り出して差し込む。
『雷術式・迅雷』
雷が私の体に宿る。それはバチバチと威圧的な音を立てて空間を焦がす。そのまま雷の速度で踏み込み縦横無尽に走る。
「そこだ、見つけたぞ」
そのうち、剣を持ち動く黒鎧の男を視認すると地面に足を突き刺し強引にブレーキ踏みつつ方向転換する。
「馬鹿な!魔法使いが俺と同じ速度に到達するなど・・・!?」
こちらが繰り出す拳を剣で防ぎ黒鎧の男は驚愕する。
「方法は違うけどな、結果が同じならこうなるのも当然だろう?」
舌打ちをし剣で私を押し返すと再び加速。それについていくように加速し、交差するたびに火花が散る。お互い縦横無尽に駆け、周りの地面や建物は消えた二人の存在を証明するように砕け、破片が舞う。戦う二人の目には自分達以外はスローモーションにしか見えず砕けた破片を押し除けながら剣と拳を交える。
だが、音を置き去りにする戦いは唐突に終わる。
「チッ・・・」
体の節々が悲鳴を上げレイカの体は止まる。同じく止まった黒鎧の男はこちらをみて勝ち誇ったように笑う。
「なんだ、もう終わりか!?確かに俺の速度についてきたのは驚いたがそこが限界のようだな!」
カードを引き抜く。確かに私の魔法による加速は限界が存在する。人の体は音速を超えるスピードを出して無事でいられるほど強くはない。ゲームの頃は使うとジリジリと体力を失っていたが、こうして現実になると全身が痛む。筋肉痛を数倍痛くしたようなものか。
それでもこの程度で済むあたり、私の体は強い方なのだろうが。
「では死ぬがいい!お前を殺しその技術を全て我々マモン王国が貰う!」
再び黒鎧の男の姿が消える。加速し私に止めを刺そうというのだろう。だがそうはいかない。
「お前の動きは既に見切った、次はない」
『火術式・篝火』
カードを入れ、音を頼りに来るタイミングを見切って斬撃を放たれる前に虚空に向けて拳を振るう。
それは確かにヒットし奴の鎧をブチ抜き肉を焼く感触が手に伝わる。
黒鎧の男はその場で剣を離し倒れ込む。腹を抱えて悶え苦しんでいる。
「あんたの速さは確かに強いが、単調なんだよ。多分その速度に振り回されて複雑な動きが出来ないんだろう」
もしこれで本人の技量があれば私も周りを気にせず魔法ぶっ放してた。故にカウンターで合わせられた。まあその前に速度を合わせて相手の動きを見る必要があったんだけどね。
「レイカ殿、終わったか?」
「ん?ああ、終わったよ。そっちも終わったか」
未だに返事もできず黒鎧の男はもがき苦しんでいる。当然か。鉄くらいなら貫通するほどの火力があるからね。それで焼かれたんだ。
こうして、ナツミさんと共に私はドヴェルグを後にした。
こういった目に見えない速度で攻撃、というのは中々ロマンありませんかね?(´・ω・)




