アレンにとっての背中
アレンの視点です。
僕は見た。レイカさんが竜と戦う所を。それはまさに絵本で見た英雄そのもので・・・
どうしてレイカさんはあれだけ強いのに冒険者なんてやってるんだろうか?
馬車の中で、僕はそんな考えがずっと頭の中を巡っていた。
「気になるの?」
「え?」
向かいから声を掛けられるので顔をあげる。そこに居たのはあの竜と戦っていた軽装の少女。レイカさんの使い魔らしいけど。
「ずっと主様の顔をチラチラ見ながら考えてたでしょう?何が気になるの?」
「え・・・いや」
気になること、か。レイカさん自身の事情も気になるけど。どうしたらそんな強さまで辿り着けたか気になる。
「・・・レイカさんってなんであんなに強いんですか?」
その言葉に少し考えた様子を見せた少女は笑って言った。
「最初から強かったわけじゃないよ?むしろ最弱に近くて、毎日後ろ指をさされるような感じだった」
「・・・どういう事です?」
その答えを聞いて余計に分からなくなった。あれだけ強いのだから才能があったのではないのか?それこそ天才と褒められるほどに。
「主様は変わり者でね?魔法使いなのに魔法を使わなかったんだ、みーんな拳で戦ってた」
魔法使いなのに魔法を使わない。一言で言えば簡単だがそれは地獄だろう。人が呼吸をするのが当然のように、魔法使いにとって魔法は当たり前だ。それをしないのは魔法使いの意義がない。
「なんでそんな事を・・・いや、なんでそれを続けられるんですか。そんなのしなくていい苦労じゃないですか」
魔法を使えば簡単に倒せる敵を普通より弱い拳で戦うなんて、苦労以外何があるのだろう?
「うん、私もそう思ったよ。初めて会ったときなんて変人以外言葉が無かった。でも主様は辞めなかった」
「・・・どうして?」
「ふふ、笑うよ?主様はただかっこいいからやってたんだって」
かっこいい、から。そんな理由で?
「軽いかもしれないけど、そんなものじゃない?誰だってキッカケは」
その言葉には僕も心当たりがあった。僕が冒険者になった理由は妹だけど、選んだキッカケは憧れだ。色んな冒険をし、仲間と笑い合い酒を飲み交わす姿はどんな人よりも輝いて見えた。
レイカさんも、そんな誰かの背中を見たんだろうか。その背中を必死に追いかけて強くなったんだろうか。
「そう、かもしれないですね。なんか見えた気がします」
「そう?なら良かった」
ふふ、と笑う少女。
僕も、そうなれるだろうか。まだ駆け出しで、誰かの後ろについてなきゃ死んじゃうような僕でも。
僕の中での憧れは確かに今、前に進んだ気がした。
竜との戦いを見て、何か変わるものがあったようです。案外レイカの思惑は上手くいったのかもしれませんね?




