賢者の館
あれからヒィヒィと命乞いしてくる衛兵達を蹴りながら身分証を発行させた。まああれだけ汚職というか、酷いこと普段からしてるっぽいし自業自得だ。
私は街の中に居る、人々が溢れる大通りを歩くわけだが・・・どういうわけかジロジロと周りからの視線が痛い。見た目のせいか?ほらそこの井戸端会議中のマダム達、こちらを見ながらコソコソ話さない。泣くよ?
まあいいや、ここが『ビーゲン』なら私が所属していたチームのハウスがあるはず。そこで必要なアイテムを回収する・・・ないと私の攻撃手段減るから。
しかし・・・私の知るビーゲンはまさしく初心者の村といったところだった。今や立派な街に変化しているのだから月日の流れは早い。私の感覚からすれば数日程だが、実際は300年近く経っている。
その時間差に少し面食らうが、それ以上に私としては変化した事に対する興味が勝る。新しい魔法や新しい職、それに伴う新スキル・・・楽しみだ。
道は前ほどシンプルではなく複雑になってはいたが何とか記憶を頼りに進むこと数十分。ようやく辿り着く
「ここ、チームハウス・・・だよね?」
そこにあったのは鉄柵で囲われ門番らしき衛兵、整備された庭の奥に私の知るハウスがあった。
「あのー、ハウスいきたいんですけどー」
そんな風に衛兵に声を掛ける、しかし返事がなく何故か少し私の顔を見て固まっている
「あ、あの?」
「・・・あ、あぁ、すまない。ぼうっとしていた。ここは世界を救った英雄達が暮らしたとされる賢者の館だ。見学希望かね?」
賢者の館?そんな呼ばれ方してるの?ただのチームハウスの筈なんだけど。
「見学希望です、入っても大丈夫ですか?」
「ああ、構わないよ。観光客は大体一度は来るからね」
「ありがとうございます」
一応お辞儀して衛兵の脇を抜け門を潜る。一体どういう事なのやら。もしや英雄って私の仲間の事か?どいつもこいつも変人の変態しか居ないんだけどなぁ。
本人達が聞いたら絶対に反論するであろう事を考えつつ館に入る。
入口を抜けるとメインホールになっており、そこに居たのは女性だ。どうやら受付のようになっているらしく、こちらに気づく事なく椅子に座って本を読んでいる。
「あのー、見学したいんですけど」
そう呼びかけると女性のページをめくる手が止まる。顔を上げこちらをチラッと見てまたページをめくり始める。
「あのー?」
女性はこちらを見る事なく言う。
「見学したければ勝手にどうぞ、私の至福の時を邪魔しないでもらえる?というかあなたに費やした時間を何処かで返してもらえるの?なら話す事も考えるのだけど」
一方的に言われ、こちらは閉口するしかない。まあ触らぬ神になんとやらだ、ここは大人しく入ろう。お互い無言のままページをめくる音だけが響くメインホールを後にした。
女性の横を通り抜けると長い廊下に入る
どうやら左右にガラス張りにされたケースが並び中に偉人が使っていた物などを展示しているようだ。博物館のような扱いみたいだ。
先ほどの気分直しというわけでもないが一応見ておこう・・・ってあれ?これ前に仲間が考えた罰ゲームアイテムじゃんか。説明には『これを持って厳しい修行を耐え抜いた』的な事書かれてるけど。
まあ・・・確かに修行かもね、身に付けると死ぬほど体が重くなって吐き気とかの身体的なデバフが永続発動するし。
歴史ってこういう所で変な風に変わるんだなぁと学んだ瞬間であった。
さて、それはさておき。私が目的としてるのは自分のルームだ。アイテムなんかを保管してるから回収したいのだけど・・・大丈夫かな?300年近く経ってるなら朽ちてるとかないよね?
廊下の隅にあった階段を上がり、自分の部屋まで行く。この辺はどうやら変わってないらしい。ドアノブを捻ればすんなりと開いた。中身はシンプルなもので、服などを仕舞うタンスにアイテム倉庫。セーブ用に置かれたベッド。外からの日差しが入る窓辺には机と椅子が置いてある。
そこで私は机に何か置かれている事に気づく。私が置いた記憶はない。
「なんだこれ・・・」
どうやら本のようで、日に焼けた白調の冊子だ。
ぺらっと一枚めくるとそこには見慣れた日本語で書かれた日付と文字が並ぶ。どうやら日記らしい。
『4月24日、と言ってもこの世界での日付は俺たちのものとは違うけどな。さて、これを見ていると言うことはお前もこの世界に来たんだな、レイカ。いつになるのかは知らないがお前を除くチームの連中は全員こっちに来た。だから先輩として言っておこう、ようこそ。この世界へ』
そこには、確かに私の知る汚い筆跡で書かれた仲間のメッセージがあった。字面だけとは言え、私の知る仲間が居たのだと知り少し嬉しかった。
『この日記はいつか来るであろうレイカ、お前に俺たちが知ったことを伝えるために書いた。まあどうでもいい事も書いたりするけどな。結構長いから暇なときにでも読んでくれ。それと結論をさっさと知りたいなら最後のページを見ろ。せっかちだからなお前』
反論したいが否定できない。まあ結局最後のページまで飛ばすけどさ?
『さて、ここまで話したが最終的な結論を言おう。俺たちもあらゆる手を尽くし元の世界に帰る方法を探したが見つからなかった。そもそも俺たちがこの世界に来たのも恐らく、この世界で暴れた邪神をどうにかするために呼ばれたカウンターだろう。まあ俺たちが倒したんだけどな?レアドロップもザクザクだったぜ・・・と、話が逸れた。酷い話だが飛ばすだけ飛ばしてその後は知らん、って感じなのかもしれない』
見つからなかったのか、そうか・・・
『まだ詳細不明というか、調べてないところもあるんだが・・・時間が足りない。いくらゲームの世界とは言え俺たちも生きている。寿命が先に来ちまった。まあ150歳近く生きたんだ。大往生だろう?これを書く俺が仲間の中で最後の一人さ。後は頼んだぜ』
『俺もみんなも、この世界に来て色々あったけどよ。やっぱり一番楽しくて笑えたのはお前と、仲間とバカやって笑えたゲームの頃だ。楽しかったよなぁ・・・覚えてるか、初めてチーム組んでレイドボスに挑んだあの時。みんなやらかしてステージごと吹き飛ばしたよなー。いやほんと楽しかった。ありがとうな。また遊ぼうぜ。じゃあな』
「賢者のリーダー マコト」と締め括られ日記は終わった。
軽い気持ちで読んでいたが、最後の方は少しページをまくるのが怖かった。そうか・・・みんなもう、居ないのか。
うまく感情を表現できず自分の中で巡るそれを飲み干すように部屋の天井を仰いだ