サンタさんをつかまえようッ‼
クリスマスと聞いて、何を思い浮かべるでしょうか?
家族団らん?
それとも、大きな七面鳥の丸焼き?
プレゼントも外せませんね。
けれど、その全てに興味がない女の子がおりました。
彼女の名前はアキラ。天真爛漫で、元気あふれる5歳の女の子。
いつもお父さんは仕事で忙しいので、お留守番のアキラは今日も、お手伝いさんのハダリーさんといっしょにクリスマスを迎えようとしていました。
「ハダリー、サンタさんってどんな人なの?」
ロープをいじりながら、アキラはそう言いました。
「サンタさんはどんな人、ですか……」
ハダリーさんも手を動かしながら考えます。
「サンタさんは、太っていて、白いおひげを生やした、赤い服を着ているおじさんではないでしょうか」
「ちがうよ。アキラがきいてるのは、サンタさんのみためじゃないの。どんな人か、なの」
「性格、ということですか? 優しいとか、怖いとか」
「そう! アキラはね、サンタさんはいじわるな人だと思うの」
アキラは、持っていたロープをほおり投げました。
「だってさ。サンタさんは、いい子にしかプレゼントをあげないでしょ。それはね、『ふこうへい』だよ。その子がいい子だったか、わるい子だったかなんて、会ってみないと分からないじゃん」
「『不公平』なんて、難しい言葉を知ってるんですね」
「おかあさんがいってた」
「そうですか……」
ハダリーさんは笑って作業にもどります。
夜になるまえに、アキラのいうとおりにハダリーさんがロープや虫とりかご、ネットを家中にとりつけおわりました。
しかし、ハダリーさんは、ひとつ分からないことがありました。
「アキラちゃんの言う通りにロープや虫鳥籠、ネットを家中に取り付けたのですが、一体なにをするおつもりですか?」
「なに、って。クリスマスにきまってるじゃん!」
「クリスマスの飾りつけにしては物騒と言いますか……」
「『ぶっそう』って?」
「『危ない』とか、『意地悪』みたいなものです」
「ふーん、じゃあオッケーだね」
アキラは机に立って、こしに手をあてて、むねをはりました。
「きょうはね、サンタさんをね、つかまえるの! つかまえて、おせっきょうするの! アキラが、『わるい子にもプレゼントあげて』っていうの!」
アキラはそう言って、笑いました。
ハダリーさんは、笑っていませんでした。
◇◇ ◇
夜、アキラは寝ようとしませんでした。
ハダリーさんが本を読んでくれても、子守唄を歌っても、
「アキラは、おねえさんだからねないの!」
と言って、ベットに入ってくれません。
困りに困ったハダリーさんは、
「アキラちゃん。良い子にしないとサンタさんは来てくれませんよ。サンタさんを捕まえて『お説教』できなくなりますよ」
と言って、ようやくアキラをベットに入れることができました。
ですが、アキラはベットに入っただけでした。
『サンタさんを捕まえる』ことに燃えたアキラは、目をパッチリと開けて、まだか、まだかとサンタさんを待っています。
でも、待てど暮らせどサンタさんがやってくることはありません。
「もしかして、サンタさんきてくれないのかな」
アキラは、急に不安になりました。
「アキラが、『つかまえる』っていっちゃったから。わるい子になっちゃったから。きてくれないのかな」
泣きそうになったその時、廊下の方で物音がしました。
「サンタさんだッ!」
アキラは涙を拭いて、ベットから飛び上がりました。
扉を開けて、すぐさま玄関へと走り出します。
玄関にいたのは、白いおひげを生やした、赤い服を着たおじさん。
太ってこそいませんでしたが、サンタさんに違いありませんでした。
だって、背中に大きなプレゼント袋を背負っているんですもの。
「やぁ、アキラちゃん。良い子にしてたかな?」
嬉しいあまり、飛びつきそうになったアキラでしたが、踏みとどまります。
アキラの目的は、『サンタさんを捕まえる』ことだったからです。
でも、どうやって捕まえれば良いのでしょう?
「アキラちゃーん。どうしたのかなー?」
アキラが思いついたのは、ただ一つ。
「でィりゃッ!」
サンタさんのお股に向かって、パンチ!
「はぅッ!」
たまらず、サンタさんは倒れます。
「サンタさん。アキラね、サンタさんにききたいことがあるの」
「な、何かな?」
サンタさんは、まだ意識が残っていたようです。
さすが、サンタさん。
「サンタさん。なんで、サンタさんはわるい子にプレゼントをあげないの?」
「それはね、わるい子だからさ」
「いい、わるい、はどうやってきめるの? おとうさん? おかあさん? それともサンタさん?」
「みんなさ。みんなから聞いて、プレゼントをあげたいと思ったみんなの代わりに、サンタさんがいい子にプレゼントをあげるんだよ」
「じゃあ、おとうさんも、おかあさんもいない子がどうするの? プレゼント、もらえないの?」
「言ったろ。『みんなが決める』んだ」
サンタさんは、アキラの目を見て言いました。
「子供たちのことを、大人たちはみんな見ているんだ。
どこどこで良いことをした。どこどこで悪いことをした。ってね。
すると、不思議なことにね。良いことだけをしている子も、悪いことだけをしている子もいないんだ」
「じゃあ、どうやってきめるの?」
サンタさんは、答えました。
「分けることにしたんだよ。
プレゼントをあげるのはサンタさんの仕事。プレゼントをあげないのはお父さんやお母さんの仕事。ってね。
アキラちゃんだって、お父さんに怒られることあるだろう?
みんなそうだ。みんな、お父さんやお母さんに怒られてる。
だったら、サンタさんはみんなにプレゼントを渡さないと『不平等』ってもんだろ?」
アキラは顔を膨らませました。
サンタさんは難しい話をして、アキラを言いくるめようとしたからです。
アキラがサンタさんにお説教をするつもりだったのに、まるでアキラがお父さんにお説教されているようです。
そんなアキラに、サンタさんは言いました。
「サンタさんは、悪い子にはプレゼントをあげないよ。
でも、良い子か、悪い子か、は皆が決めることだ。サンタさんだけじゃない。
その子は、サンタさんから見れば、悪い子かもしれないけど、他のみんなから見れば、良い子かもしれない。
だから、サンタさんは皆にプレゼントをあげるんだ。
良いことだけをしている子も、悪いことだけをしている子も、いなんだからね」
アキラの頭を撫でるサンタさん。
でも、アキラはまだ顔を膨らませたままです。
「めんどくさいー。じゃあ、わるい子も、いい子も、みんなにプレゼントあげてるの?」
「そういうことだね」
サンタさんは笑って答えました。
「じゃあ、ゆるす!」
納得したアキラも笑いました。
アキラはサンタさんと手を繋いで、ベットに戻ります。
サンタさんは、アキラの横に座って、背中に背負った大きな袋を広げて、アキラに渡すプレゼントを探しています。
そんなサンタさんを見て、アキラは言いました。
「サンタさん! アキラが欲しいのは、これ!」
アキラは、プレゼントの内容が書かれたカードを、サンタさんに渡しました。
内容はこうです。
『いつも 小さなケーキだけなので おとうさんと いっしょにたべられる 大きなケーキをください』
サンタさんはアキラを見ると、頭を撫で始めました。
泣いているようにも見えます。
なんだか、急に眠たくなってきました。
翌日。
テーブルには、サンタさんがくれた大きなクリスマスケーキがありました。
アキラは、それをお父さんと半分つにして、お腹いっぱいになるまで食べましたとさ。
最後まで読んでくれてありがとう!
初めての童話制作で緊張します……。
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