恋の始まり
はれてお付き合いする事となった九重
おいおい、塾に通い出して早速女を作るなんて‥
まぁ受ける方もそうだが告る方も方である。
さておき彼の初彼女の誕生であった
塾での授業は自由に席を選ぶ事が出来るのだがクールを装う事が格好良いと思っている彼は隣には座らない
左2列後ろからスナイパーの様に彼女の背中を見つめる
当然の事だが授業など聞いていない
まぁそこに関しては彼女が居ようが居まいが関係ないのだが
とにかく肉食獣が獲物を狩る目で見ているという事だ
後に彼の癖はここで構築されたのでは無いかと思われるのである
塾で会えない日は毎日電話をする
当時電話は宅電で家にかけるのだが親が出るとすかさず切ってしまうため時間を決めてその時間にしかかけない
今日は彼女から電話がかかってくる約束の日だ
電話がかかってくる前は必ずトイレで心と体を落ち着かせて挑む九重
その日はトイレに皐月ばあちゃんが入っていたのでイライラしながらトイレが空くのを待つ
「早よしてばいばあちゃん。もう爆発すって!」
ドンドンとドアを叩き催促する九重に遠くから母が
「隼人〜、柳川さんから電話よ〜」
時間通りに電話がかかってきた
流石麻衣ちゃん、抜かりない!
治りのつかない息子を抑えつつ電話に出る
「もしもし」
今日も他愛のない会話が始まる、筈だった
「あのね隼人君、再来週の日曜日時間あるかな?」
「あぁ、俺はいつも暇ばい」
「一緒に遊園地行きたいな」
デートの誘い
デート、それは男女が時間や場所を打ち合わせて会う事
何かが起きる!
いや、何かを起こしたい!
「あぁ、遊園地ね、よかばい。行こう」
浮ついた下心しかないその脳内は遊園地で彼女の手を握る、そのミッションを成功させるべく明日尚人に相談するのである
翌日、いつものツーフィンガー
「尚人!ご相談がございます!」
ゼロ距離まで顔を近づけただならぬ気迫で迫る九重
「なんなん、どうしたん隼人」
またしょうもない事だろうと思いつつも彼の話を真剣に聞く為煙草を足元でねじり消す
「実は、麻衣ちゃんと遊園地に行く事になりまして‥』
「えっ?こないだ付き合い始めたらしいリンゴび‥」
「ほわぁた!」
尚人は彼女をなじろうとすると隼人の電光石火の如きデコピンが左耳をかすめた
「す‥すみません、お続け下さい」
‥‥‥。
「まぁなんだ、ただ手を繋ぎたいだけやろ?」
呆れながら尚人は尋ねる
首を横に振り隼人は
「違う!自然に手を握りたいんだ!」
尚人は改めて呆れなおす
「じゃあ適当なタイミングで君が先に歩き距離を取るだろう」
「えーえー」
隼人は大きくうなずく
「先に行きすぎちゃったなぁ感を出しながら振り返って適当に『ごめん』とか言って手を伸ばせば良い」
隼人は大きく目を見開き
「なるほどですね、流石社長!」
ご満足なさった様だ
お礼の様に僕の口に煙草をくわえさせ火をつける
その夜
玄関で三つ指をついて父の帰りを待つ隼人
彼の父は証券会社の役員で堅物の父である
一言で言えば昭和の男
拳で語り曲がった事が嫌いな種族である
フリーダムな隼人はそんな父が苦手で毛嫌いしている
だが、今回のミッションを成功させる為には父の助力なくしては成功しないという事が分かっている
ようはお小遣いが足りないのである
ガラガラ
引き戸の玄関が激しい音をたてて開く
再度頭を下げ直し父を迎え入れる
「お帰りなさい、お待ちしておりました」
頭を下げる隼人の横を
「書斎にて待つ」
と、通り過ぎる父
その威圧感に冷や汗をかきつつ父の待つ書斎へ向かう
トントン
「入れ」
緊張しつつドアを開けると緊張が走る
「なんだ」
父の声に体に電気が走る
「実はお金が欲しくてお願いにあがりました」
父の右の眉毛がピクリと上がる
「お母さんから貰って無いのか」
「いいえ、貰ったのですが友達に遊園地に誘われまして‥」
隼人は震えながら偽らなく答える
「いつだ」
「来週の日曜日です」
「‥女か」
「はい」
沈黙が続く
「わかった」
父がそういうと椅子に腰掛け書類に目を通し出した
頭を下げ部屋を出る隼人
バタン
「くそが」
今できる精一杯の陰口を叩く
父に懇願するものの出してもらえるか分からないまま事は済み数日がたった