大冒険
『お〜い!』
なんだ、まだ朝6時なんだけど…
「尚人!冒険に出かけようぜ!」
なんだこいつ、やっぱり頭沸いてる
「…おやすみzzz。」
今更だが彼の名前は九重隼人
この時中学2年生
僕の後の大親友である。
この時はまだ知人。
自分のペースで行動する彼に付き合わされていつも気が滅入っている。
好奇心旺盛だがすぐ飽きる
細かい所を気にする僕とは正反対ですぐぶつかる
まぁ裏表がない所は素敵だけれど
そういう彼に無理矢理起こされて冒険という名の旅に付き合わされた
「さて勇者様、今日はどちらにおでかけに?」
僕は彼に問うとニコニコしながら
「今日はチャリで熊本城に行こうぜ!」
だめだ…これは命に関わる
「あのさ九重、熊本城まで40kmはあるばい、チャリ漕ぎ続けて4、5時間はかかるばい?」
一生懸命諭す僕に変わらぬ笑顔で彼はいう
「大丈夫て、車で1時間しかかからんとばい!なんとかなるて!」
だめだ、とりあえず出発しないと機嫌が悪くなる
途中で疲れて帰るって言い出すだろうし取り敢えず出発してみるか…
「やったね!尚人なら分かってくれると思った!」
ペットボトルにお茶を入れカバンに詰めるとカゴに入れ九重の後ろをついていく
サイクリングを始めるとまぁ気持ちはいいものでノリのいい彼は下り坂になると
「界王拳2倍!」
を繰り出し加速する
まぁすぐ先の登り坂ですぐに追いつくのだけれど…
そんな事を繰り返しながら体力の有り余る彼はそのままの勢いで熊本城へ着いた
もうほとんど体力の残ってない僕もその絶景を見ると
「うわぁ〜疲れもぶっ飛ぶね」
その言葉に大喜びして
「そうやろ!そう思ったけんお前ば連れて来たかったっちゃんね!」
ニコニコしながら彼はそう言った
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『結構コンビニ遠いな、この道をまた歩いて帰るのかこの猛暑に』
礼服の上着は置いてきたものの帰り道を思うと素直に車を出すべきだったと後悔する
あの時も思ったよな
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『来んとよかった!』
僕は激しく後悔した
5時間かけて来たということは帰りはそれ以上かかる
元々体力に自信の無い僕は尚更だった。
「マジ来んとよかったし…」
つい声に出る
「はっ?お前さっき喜んどったやんか」
「そうばってんもう疲れたし」
ポツポツと小雨が降ってくる
「雨とか言ってなかったとに」
ブツブツ言いながら疲れて自転車を押して歩く僕
すると
「なんや、雨も俺のせいか?もうよか、お前一人で歩いて帰ってこい」
そう言い全力で自転車を漕いで行ってしまった
「あっ…、なんだよ無理矢理誘いに来たくせに…」
とぼとぼと自転車を押しながら帰る
まだまだ道のりは遠い
しばらくその調子で歩いていると大きな公園の脇を通り過ぎようとした
「ねぇねぇ」
突然声を掛けられた
見知らぬ青年
疲れているので適当にあしらう
「すみません、急いでるので」
自転車にまたがり走り出そうとすると
「なんや横着かねお前ちょっとこっち来いて」
僕は自転車を倒され公園のトイレに引きづられていく
半ベソをかいて僕は
「ごめんなさい、疲れてたので許して下さい」
そういうと
ボコっ!
お腹にキツい一発を貰う
「ふぐっ…うっうっ…」
涙が溢れ出す
「お詫びがしたいんだろ?出せよ」
そう言われたがお腹の痛みでよくわからないでいると
ボコっ!
また殴られた
「うっうっうっ…」
涙が止まらない
「金だよ金、早く出せよ」
カツアゲだ
「お金無いです…ぐはっ!」
また殴られ
「まだ痛い思いしたいの?」
青年は再度お金を要求して来た
今日はお茶とお昼ご飯代しか持って来ていなく本当にカバンにはお金がなかった
まぁそのカバンも自転車のカゴの中にあるのだけれど
「本当に無いんです」
涙でグショグショになりながら無い事を伝えるがその態度も気に入らなかったようで
「嘘つくなよ、本当は持ってんだろ?服全部脱げよ」
僕は隙をみて逃げようとしたけれど襟首を掴まれ壁に押しつけられた
「顔殴られたいの?どうする?」
そう言われ声にならない返事で
「脱ぎます…」
と言いボタンに手をかけた
ズボンを膝まで下ろしパンツ一枚で躊躇していると青年はライターに火をつけ
「炙ってやるから出せよ」
と笑いながら火を近づけると
「何やってんだよ!」
その声とともに青年は横へぶっ飛ぶ!
「尚人、逃げるぞ!」
急いでズボンを上げシャツを拾って駆け出す
青年は頭を打ったのかすぐには追いかけてこなかった
自転車を起こして全速力で駆け出す
「はははは!お前ここまで来て何やってんの!」
九重だった
「どうして?」
彼に問う
だって喧嘩して先に帰った筈なのに
「お前全然追いかけてこんし、戻ったらチャリ投げ捨ててあるし」
そうか、道端に置きっぱなしだった
「お前の合図かなと思って便所行ってみたら」
「やられちゃってたね」
「だな」
随分走ったのでペースを落とし自動販売機の前で止まる
「ありがとう…戻って来てくれて」
また涙がこみ上げてくる
すると彼は
「当然だろ?今日は俺が誘ったんだし、お前喧嘩弱いじゃん」
涙が止まらない
「ごめんな俺も、冒険誘ったのに一人で冒険させて。帰ろうぜ」
二人分のジュースを買い自転車を漕ぎ出すと強めの雨が降り出した
「やっぱりホント来なきゃよかったー!」
大声で僕が叫ぶと
「絶対また誘ってやるー!」
二人大笑いしながら家へ帰った。