ダイチ、ムタミの館の住人と親交を深める
あっさりと拠点が決まってしまった、話がトントン拍子で進み過ぎて頭が全くついて行ってない。とりあえず部屋着として使っている召喚された時に着ていたジャージに着替えて落ち着こう。もう夕方だから買い物は明日にしようかな。
案内された2階の部屋は8畳くらいの洋室とベッドが置かれた4畳半くらいの部屋で掃除が行き届いているので、すぐに使えそうだ。寝具は清潔ですぐに寝れる状態になっている。1階に共同のトイレと台所、飲用に適した水質の井戸がある。中庭に灯りがあるけど明日、ランタンでも買おうかな。
とりあえず飯にでも行こうかと思ったらドアが結構な勢いでノックされ、ギャバン卿の声が響いた。
「ダイチよ、ムタミと住人達が歓迎会を開いてくれるそうだ。すぐに中庭に来るがよい」
中庭に行くと真ん中に煉瓦で組まれた大きなグリルがあり、網の上で肉や野菜、加工肉が焼かれている。その横ではダッチオーブンみたいな鍋が火にかけられていて、野外に組まれたテーブルセットが用意されている。
ムタミさんを始め住人達が用意しているので手伝おうとすると、耳が長くて尖っている美青年に止められた。
「今日は君の歓迎会なんだから座って待っときなよ、準備が出来次第始めるからさ」
ギャバン卿と2人で上座に座らせられて準備を待つ。熊獣人一家は屋台を出しに行ってるので、ここにいるのが他の住人全員なんだろうな。ギャバン卿はここに度々顔を出しているようで馴染んでいる。
「ダイチよここに居を構えるのも何かの縁であろう、ムタミは吾輩が最も信頼する人物である。ここの住人達も彼奴に認められた者達だ、必ずダイチの力になるだろう」
テーブルの上に料理が並べられていくのを見ていて思い出した。
「あ!そう言えば今日ジュリーさんの店に食べに行くって言ってたの忘れてた」
「ああ、ジュリーさんところなら僕が魔道具で伝えとくよ、君は律儀だね」
さっきの美青年が笑いながら言うと白い石を取り出し「ダイチは今日、白虎亭に行くって言ってたけどムタミの館の住民になって歓迎会をするから行けないよ」と言うと白い鳩になって飛んで行った。
しばらくすると鳩が帰って来て「気にしなくていいわよ、またいつでも食べに来てね」とジュリーさんの声で話すと白い石に戻った。
「すごいな!魔法か?初めて見たよ」
「僕はナッシュ、ここで魔道具の研究と開発をしているんだ、冒険者として探求をしながら研鑽する毎日だよ。大変だけどエルフの里ではこんなに刺激的な日々はないさ、充実した毎日を送っているよ」
「この流れで自己紹介をしようか、儂はここの大家兼管理人のムタミ。元この町の代官で見込みのある者が成長することが何よりの楽しみでこのムタミの館を経営しておる」
「儂はドズン、見ての通りドワーフだ、ここに住居兼工房を構えている」
ドワーフって種族だったのか。ズングリしていて髭面だ、そう言えばこんな風体の人達を町で結構見かけたな。
「俺はカムリ、こっちはキースだ2人で組んで色々やっている」
キースは無口だしカムリもあまり話すのが得意ではなさそうだ。ムタミさんの面接に通ったなら悪い人間ではないだろう。
「私はノエルです、この町で様々な事を学び祖国の復興に役立てたいと思っています」
ノエルは海を隔てた島国の王女だったが後継者を巡り国は分裂、度重なる戦によって民は疲弊している。現在は有力な3つの氏族が睨み合い膠着状態にあるらしい。彼女は英雄であるギャバン卿と優秀な代官であったムタミさんに学ぶためと、刺客や彼女を利用しようとする氏族から身を守るためにロクジョウに滞在しているという。
「ここで店と工房を出させてもらっている仕立て屋のバイスです、丈夫で見た目も良い服を作るため今も修行中です。こっちは妻のタバサと子供のリンとエドです」
俺のジャケットはバイスさんの仕立てた物らしい、結構高かったからそれなりに腕はいいんだろう。
「この町の役人で商工会の管理をしているサボイと申します。妻のエマと子供達です」
子供は男女合わせて8人いた、名前が覚えられない。あとはシナバ屋の熊獣人家族だな明日顔を合わすからその時でいいだろう。
「ベイマンさん一家は昼間、そこの小屋で仕込みをしているよ。シナバのスープは結構匂いがキツイんで気を使ってるんだよ」
みんなが自己紹介をしながら宴の準備を完了した、俺も自己紹介と挨拶しないとな。
「今日は歓迎の宴を開いていただき、ありがとうございます。俺はDランク冒険者のダイチといいます、この町を拠点に活動したいと思ってますのでよろしくお願いします」
俺が自己紹介を済ますとムタミさんが笑いながら言った。
「堅苦しい挨拶はいらんよ、ここは自由な場所だ。住人同士遠慮無く家族のように接してもらいたい、庭や敷地内を近所の子らが走り回っても見守ってやるくらいの気持ちでいるくらいがベストだと思うよ」
「そう言うムタミさんが堅苦しい言い回しが好きだからね、君のことは結構服飾ギルドで噂になっているよ、最高級品ばかり現金即払いで買って行った冒険者がいるってね。あのジャケット結構自信作なんだよ」
「話は食事をしながらでも良いだろう!とりあえず我々は冒険者ダイチがムタミの館の住人となる事を歓迎する、乾杯!」
「乾杯!!」
ギャバン様の音頭で乾杯し、グラスに注がれた酒を飲む。低炭酸のレモンサワーみたいな感じだ。アルコール度数も高く無く、いくらでも飲めそうだ。
大皿に盛られた料理を各自で取り分けていくスタイルで、俺は肉と野菜をバランスの良く取っていく。子供が親に、肉ばかり食べないで野菜も食べなさい!と叱られるのはどこの世界も同じみたいだ。
「すまないが、あんたの剣少し見せてくれんか」
酒を飲みながら言ってきたのはドワーフのドズンさんだ。工房を構えていると言ってたから刀鍛冶なのかな。刀を鞘ごと渡すとドズンさんは目を見開いて驚いた。
「これは!ドアン親方の最高傑作タイガーピアスではないか!使い熟せる者がいないと嘆いていたが使えるのか?」
「どの程度が使い熟せていりのか分からないがとりあえず実戦で何度も使えているよ」
手頃な薪があったので高く放り投げて、落ちてくるところを居合抜きで切るとそのままの形で地面に落ちてから真っ二つになった。
「お見事!」「すげえ!」「 剣が全然見えなかった!」「ダイチ!このあいだの続きをやるぞ!」「ギャバン様!おやめ下さい!」
拍手喝采と変なスイッチが入るギャバン卿を無視してドズンさんは真剣な面持ちで俺に言う。
「良かったらその剣の手入れは儂にさせてはくれないか?師匠の最高傑作をその辺の三流に触らせたくない」
製作者の弟子なら大丈夫だろう、刀はメンテナンスが大事だしな。
「キース、目が見えるようになったの?」
「いや、見えない」
「まるで見えてるみたいに動いてるから」
「今日は感覚が冴えてる。見えた事が無いから分からない、けど今日は多分見えてるみたいにわかる」
子供達が普通に料理を取るキースに聞いている、彼は目が悪いんだろうか?
「キースは生まれつき目が見えないんだ。だけど独特の感を持っていて普通の人に分からない色々な事を感じる事が出来る」
カムリが教えてくれた2人で組んで色々やってるって何だろうな、キースはあまりアクティブに動けないだろうけどカムリの方はNAPでも通用しそうな体と身のこなしをしている。あまり詮索しないのがマナーだよな。
このムタミの館は訳ありや特殊な技能を持つ人が集まってるのかな。話を聞いているとムタミさんに気に入られた人間が集まってるみたいだけど。
その後はギャバン卿が持ち込んだ、度の強いウイスキーみたいな酒を飲んで盛り上がった。俺の剣技が呼び水となって其々の特技を余興にしたり、子供達が可愛らしい歌や踊りを披露して楽しい時間が過ぎてゆく。
やがて熊獣人親子が帰ってきた。ベイマンさん一家が席に着く、子供達は追加で焼かれた肉に齧り付き、夫婦はウイスキーみたいな酒を楽しんでいた。シナバが美味かったと言うと凄く喜んでくれた。
子供達を寝かせて後片付けが終わり夜が更けて行く。ムタミのさんやここの住人達とは仲良くやっていけそうだ。
明日はとりあえず朝から冒険者ギルドに顔を出して昼から買い物にしようかな。そう考えながら部屋に向かっているとキースに声をかけられた。
「ダイチは何者?カタチはヒト属だけど魂の輝きが全然違う。タブン超越した存在」
「余計な検索をしないのがここのマナーだろう。確かに俺はこの世界では異質な存在だと思うけど、みんなと楽しくやってこの世界を良くするために頑張るつもりだよ」
「うん、ダイチの魂はとても綺麗。綺麗な魂はココの人たちミンナ同じ、ムタミの目はタシカ。でもダイチは次元がチガウ存在で善だから気にナッタだけ。もう聞かないケドこれからのダイチを見させてモラウよ」
キースは奥の自室に戻って行った、物陰で気配を消していたカムリに声をかける。
「覗き見は感心しないな、なんか探られてるみたいで気分が悪い」
「すまないな、職業病なんだ。キースが初対面の相手にあんなに話をするのを見たのが初めてなんでつい気配を消して見ちまった」
「まあいいんだけど、あんたら何処かの諜報員か?なんとなくだけど。キースの感じとギャバン卿やムタミさんが受け入れてるなら害が無いと思うし」
「まあ当たりだ。所属は明かせないが・・と言ってもムタミさんやギャバン様にはバレてるんだけどな。この町はいろんな意味で要所だからな情報集めと不穏分子の監視ってところだ。じゃあまた明日な」
なんかエージェントやスパイの類にしてはフレンドリーだな。この集合住宅の雰囲気がそうさせるのかもしれない。
明日は朝から冒険者ギルドに行って何か依頼を探そう。これからが本格的な冒険者生活とこの世界での活動開始だ。
そろそろ冒険と変身入れないといけませんね




