DUST TO DUST ~塵は、塵へ~
◆タツマゲドン様主催【戦闘シーン祭り】参加作品◆ https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1027505/blogkey/1974627/
We therefore commit his body to the ground.
Earth to earth,ashes to ashes, dust to dust.
──その屍を、地にゆだねる。土は土へ、灰は灰へ、塵は塵へ。
俺は、冷たい息を吐いた。
そしてゆっくりと、マチェットを握った右手首の上に、45口径自動拳銃GSRを構える左手を交差して重ね合わせる。
背中越しに、一人の少女の怯えた視線を強く感じた。
黒い頭巾を被った、ショートカットの白い髪の少女。名前は、エイという。
俺は、あらゆる刺客から、この子を絶対に守り通さねばならない。
それが、警視庁特殊部隊第四小隊の小隊長である俺に与えられた任務だ。
高層ホテルの最上階、豪勢なパーティールーム。
対峙する九人の敵。
黒い鉄仮面を被っている、五人の赤服のメイドと、四人の赤服の執事。
その全員が、『武器』を持っている。
エンジンの駆動音。そして、耳障りなヴィィイイイイインという回転音が、周囲に喧しく木霊する。
鋭い刃を持ったチェーンが高速で回転し、丸太を易々を切断できる大型の工具────チェーンソウだ。
九人は、チェーンソーを盛大に唸らせながら、じわじわと俺を包囲するように距離を詰めてくる。
エンジン音に紛れて、彼らは俺の知らない言語を使って互いに指示を飛ばし合っている。誰もが、俺を嘲り笑うかのような口ぶりだ。
九対一。
こちらには銃はあるが、最大の急所である彼らの頭部は鉄仮面によって守られており、非力な拳銃弾では撃ち抜けない可能性が高い。よって、他の部位を狙う必要がある。
俺が構えているGSRに装填されている弾は、八発。予備の弾は、既に撃ち尽くしてしまった。
敵数に対して、弾が足りない。
彼らはそれを見越しているからこそ、銃を持つ俺が相手でも、平気で接近してくるのだ。
この状況は、敵にとって圧倒的な優位。
────俺が、銃しか使わないのであれば。
警視庁特殊部隊第四小隊。
『死』と読み替えられる『四』は忌避される数字であり、表向きでは、その小隊は欠番とされている。
しかし実際には、他の小隊とは全く異質の訓練を受ける、完全な【殺害】を専門とする部隊がここに存在する。
それは、最終手段として殺害を選ぶ部隊ではなく、殺害を前提として出動する部隊だ。
俺は身を低くして、床を後ろ足で蹴った。
瞬時に、チェーンソーを振り上げて構える執事の男の懐に入り込む。
動揺して雑にチェーンソーを振り下ろそうとする執事の腕を、俺は左腕を使って固めながら、右手のマチェットで彼の腹を容赦なく貫いた。
柔らかい腸を突き破る生々しい感触。思い切り刃を捻ると、彼の血液が、刺した傷からドボリと溢れ出した。
────まず、一人。
彼のすぐ左隣に居たメイドが、叫び、血が焦げつくチェーンソーで猛然と斬り掛かった。
俺は刺したマチェットのグリップから右手を放し、瀕死の執事の襟首を掴んで、思い切りチェーンソーの動線へと押しやると、獰猛な刃は彼の身体を一瞬で肩口から斜めに両断した。
執事の上半身がずるりと滑り落ち、それにより切り拓かれた俺のGSRの射線は、無防備なメイドの胸元を正確に捉えた。
引き金を絞り銃口から撃ち出された凶悪なスパイク状のRIP弾は、亜音速でメイドの胸に着弾、肉を喰い破りながら回転分離し、口径の倍以上の傷穴を穿ちながら、背中から大量の血液を伴って抜けていった。
衝撃で仰け反った彼女の喉に、追撃で撃ち込んだ二発目のRIP弾は、気管、食道、脊髄を一撃で破壊して首を切断し、頭部を宙に飛ばした。
────これで、二人目。
倒れた死体からマチェットをブーツで蹴り抜いて上方に放り、右手でキャッチした。
「小隊長さん!! 助けて……!!」
エイが叫んだ。
二人のメイドが、俺から距離を取って二手に分かれて回り込み、彼女を直接狙おうとしている。
咄嗟にGSRを構えた俺に、二人の執事が左右から斬りかかった。
俺はその場に背中から倒れこみ、チェーンソーの刃を回避した。眼前で二つのチェーンソーが激突し、凄まじい金切り音と熾烈な火花を散らせる。
仰向けに着地すると同時にGSRを発砲し、激突の衝撃で怯んでいる左の執事の足首を撃ち砕き、間髪入れずに、左腕を軸に身体をしなやかに回転させ、マチェットで右の執事の足首も切断する。
そこに飛び込んできた別のメイドが、俺の身体めがけてチェーンソーの刃を垂直に振り下ろした。
俺は素早く転がって回避すると、そのメイドの腰にGSRを撃ち込んで、骨盤を粉砕。身体のバランスを失った彼女は、哀れなことに自分のチェーンソーの刃の上に倒れてしまった。
悲鳴を上げて切断されていく彼女を見届けきることなく、俺は照準を変え、エイを襲おうとするメイドの首を撃ち抜き射殺した。
続けざまに、エイを狙うもう一人のメイドへ向けて発砲する。だが、そのメイドは咄嗟にチェーンソーを盾に銃弾を防御した。
俺は迷わず次弾で彼女の足首を撃ち、体勢を崩したところで、その首を正確に撃ち砕いた。
そこで、GSRのスライドが後退位置で停止した。弾切れだ。
────これで七人沈めた。残るは、二人。
立ち上がった所でいきなり、チェーンソーが回転しながら飛んできて、マチェットで薙ぎ払うと、ダガーナイフを逆手に握った執事が叫びながら突進して来た。
俺はGSRとマチェットを同時に放棄し、執事のダガーナイフを持つ手を捕らえ、脇で締め込み床へ投げ倒してから、右手で自分の腰に差したM12ワスプナイフを取って、彼の喉に突き刺し、ガス放出スイッチを押し込んだ。
刃先から低温ガスが噴射され、組織が一瞬で凍結、放出の圧力で首が爆散した。
凍結した血液の破片が派手に飛散し、頭部が転げ落ちた。首の断面から、白い冷気が上がる。
────残るは、一人。
最後に残った身構えるメイドを睨んだ瞬間、野太い銃声が轟いて、彼女の身体が交通事故の如く綺麗に視界の外へ吹き飛んでいった。
その銃声には、よく聞き覚えがあった。俺は、ホールの入り口を見る。
そこには、硝煙がゆらめくベネリM4セミオートマチック・ショットガンを構えた、俺と同じ戦闘服を着たグレーの髪の女性が立っている。
俺の第四小隊のチームメイト、宮潟瑯矢。
「お待たせ!! 助けに来たわよ────!!」
彼女の後ろから、重武装の警視庁特殊部隊の仲間たちが次々と駆け込んでいる。
俺は力なく笑う。
「遅かったな。あと三分早ければ完璧だったぞ」
駆け寄ってきた宮潟は、背中に抱えていたHK416アサルトライフルを取って、俺に差し出した。
「必要でしょ? 持ってきてあげたわよ」
「……前言を撤回する。完璧だ。この世で最高の相棒だ」
手に取ったHK416のチャージングハンドルを少し引いて、弾が装填済みであることを確認した。やはり、戦うならコレだ。
アサルトライフルのズッシリとした重さが、今は非常に心地よい。
俺は振り返って、呆然と立っているエイを元気づけようと声を掛けた。
「ようやく救援が来た。ひとまず安心だぞ。……よく、頑張ったな」
するとエイは、くりっとした可愛らしい瞳で、俺の顔から足のつま先まで観察してから、言った。
「──────こんなに強いのに、童貞って本当?」
……どこでそんな事を吹き込まれた。
俺は咄嗟に宮潟を睨む。彼女は口笛を吹いて、プイッと顔をそむけた。
「……童貞か否か、そんなもので人間の価値は決まらない。人を怒らせるだけの無意味な質問は、今後は控えたほうがいいぞ」
怒りを必死に抑えながら、俺は努めて冷静に答えた。
想像以上に、エイは切り替えの早い肝っ玉が据わった少女だ。
その時、隊員の一人が叫んだ。
「──────敵だ!! 窓の外!!」
ホールの窓ガラスが、一斉に割れた。
無数のガラス片を宙に散らせながら、赤服の刺客たちがロープを使って次々と飛び込んでくる。
「まったく、懲りない奴らだな……!」
仲間たちの一斉射撃が始まり、俺はエイを後ろに庇いながら、親指でセレクターを弾いてフルオートにセットしたHK416を発砲した。
最も近い敵の胸をバースト射撃で撃ち抜き、真っ直ぐに伸ばした左腕で銃身の跳ね上がりを抑え込みながら、次々と襲い来る敵を薙ぎ撃っていく。
発砲の度にボルトが火薬の爆発で前後にブローバックし、バッファースプリングが跳ねる衝撃がストック越しに肩に食らいついた。
銃身上方のガスピストンが煮えたぎるような高熱を放ち、凄まじい発砲炎を受け続ける銃口も真っ赤に加熱していく。
死角から、他の味方が仕留め損ねた瀕死の執事が素手で飛び掛かってきて、俺のHK416を強く掴んだ。
俺は左手を銃から離して拳の底で敵の喉を殴りつけ、怯んだところでその顔を後方へ押しやり、銃ごと薙ぎ降ろすように床へ倒して、そのまま銃弾を撃ち込んで射殺した。
しかし、死体の手が離れない。
俺は歯を食いしばり、ブーツでその手を蹴って指の骨を粉砕し、もぎ取ったHK416を素早く持ち直して、間近に迫った最後の敵の眉間に銃弾を放った。
音速を遥かに越える速度で射出されたタングステン合金製アーマーピアシング徹甲弾は、敵の鉄仮面を紙のように火花を伴って貫き、その頭蓋骨を突き抜けて、衝撃波で脳を掻き回して中枢神経を破壊し、後頭部を突き破って、窓の外の夜空の彼方へと飛んで行った。
宮潟は、弾切れになったベネリM4ショットガンを降ろし、背筋を曲げて大きな息を吐いた。
「まったく、どうなってんのよ……。倒しても倒しても、次から次へと敵が湧いてくる……!」
ホールに転がった大量の敵の死体を見渡しながら、彼女は嘆く。
「こんな戦い……いったいいつまで続くのよ……」
俺は、弾を撃ち尽くしボルトが後退停止したHK416の銃口を下げ、残弾のないマガジンを床へ脱落させた。
新しいマガジンを銃にガチャリとセットして、ボルトリリースを乱暴に叩いてジャキンと次弾を装填する。
そして、答えた。
「この子を狙う敵が全員、死に絶えるまでだ」
それまで、この戦いは決して終わらない。
件のエイの方を見ると、彼女は黒のハーフフィンガーグローブを着けた手で、俺が捨てていた弾切れのGSRを握っていた。
マガジンキャッチを押して弾切れのマガジンを外し落とし、それからスライド後端をチャキッと引いて、ロックを解除したスライドを前進させた。
その操作に、迷いはなかった。
「…………銃を、扱えるのか?」
恐々と尋ねる俺を、彼女は真っ直ぐに見つめた。
「弾が欲しい。45ACP弾が八発詰まったシングルカラムマガジン。……ボクにも、戦わせて」
戦いは決して終わらない。
この一人の少女のために、全ての敵の屍の山が、そこに築き上げられるまで。
【終】
この度は「DUST TO DUST ~塵は、塵へ~」を、お読みいただき誠にありがとうございました。
相山たつやです。
本作は、タツマゲドン様主催の【戦闘シーン祭り】の参加作品です。
対人戦かつ異能力なしの戦闘シーンに特化した短編投稿祭ということで、本作は戦闘シーンのみに単純集中できるよう、それ以外の設定については意図的に削ぎ落しています。
理屈は抜きにして、自分を襲う『敵』が居れば、そこで戦いが発生することは不可避です。
彼らが何故襲ってくるのか?
戦闘中には、そんなことを考える余力はありません。今すぐ敵に反撃しなければ、自分が死ぬのです。
何故、少女は命を狙われるのか、何故警視庁特殊部隊SATが護衛に選ばれたのか、敵はどうしてチェーンソーを持ちメイドと執事の仮装をしているのか……などなど多くのストーリー上の疑問をあっという間に置き去りにして、短いが過激な戦闘に没入していただくことができたなら幸いです。
私の作品の戦闘シーンは、『銃火器』と『破壊描写』に重きを置いています。
武器(技)を使う、そして敵を倒す……という単純な文章構成ではなく、どのような殺傷力をもたらす武器を使い、どのような物理的ダメージを与え、どのように死に至らしめるかを練りながら書いています。
それによって、命を奪い合う熾烈な戦闘が、読者様の頭に鮮明にイメージされることを目指しています。
本作は参加規約を遵守して独立した短編作品として楽しめるよう構成しておりますが、物語の設定や登場人物、作中の戦闘などは、同サイトで現在連載しておりますホラーアクションサバイバル小説『東京バトルフィールド』より抽出したものになります。
宣伝となってしまい恐縮ですが、もし今回の戦闘描写を見て興味が湧いた読者様がいらっしゃいましたら、こちらの作品もぜひご一読いただければ幸いでございます。
改めて、誠にありがとうございました。
東京バトルフィールド <東京を奪還せよ。異世界の魔法使いの手から>
https://ncode.syosetu.com/n1512du/
【異世界】 VS 警視庁特殊部隊。
一人の少女を護り、異世界に侵略された東京を奪還せよ。
極限のサバイバルが幕を開ける。
瞬間移動を可能とする新世代交通機関【テレポーター】。
ある日の夜、それは、未知の【異世界】へと繋がる地獄の門を開いた。
人類を掃討し楽園を築く為、数多の魔法と怪物を操る異世界の軍隊は、大規模侵攻を開始した。
対峙するは、大量の現代火器で武装した対テロ特殊部隊の精鋭たち。
銃器、爆薬、格闘術──全てを己の武器として、強大な異世界軍に立ち向かう。
東京を奪還せよ。異世界の魔法使いの手から。