第3話
「それ、私のバイト先の後輩じゃん!」
「ふーん…って、は?」
朝の教室。がやがやと至る所で聞こえる話し声。昨日の出来事を半分ぼーっとしながら話していたアサヒは、ミサキの声で強引に意識を引き戻された。
「後輩?」
「ほら、私そこのカフェでバイトしてんじゃん。リョウタ君いつもシフト一緒だからさ、よくしゃべんのよ。いや〜、まさかアサヒとそんなことがあったとはね!」
朝からよくしゃべるなぁ、と嬉々として話し続ける幼馴染を眺める。
「そうそうあとリョウタ君ね、あんたと同じ予備校行ってたはずだよ」
「へぇ、あたしは昨日初めて会ったけど」
「そもそもあんた、周りの子意識して見てないでしょ。あでも、私がアサヒの話したとき興味持ってたし、近々紹介しようと思ってたんだよね」
「…何勝手なことしてんの」
「いやいや別に変な意味じゃないって!マジで!リョウタ君そんな子じゃないし」
「あ、そ」
興味ない、というようにアサヒは視線を参考書に落とす。勉強熱心とか真面目とかではない、ただほかにやることが無いだけだ。生憎、他の生徒と世間話に花を咲かせる気はさらさらない。
「つれないなぁ〜せっかく心配してやってんのに」
「心配?」
心配されるような覚えはない。再び顔を上げると割に合わず真剣な表情のミサキと目が合い、思わず目をそらす。
「な、何心配って」
「あんたさ」
改まったような声色に冷や汗が流れる。いや、実際は流れてなどいないがそんな気がした。少し間を置いてミサキが口を開く。
「女子高生の自覚あんの!?」
「…………はあ?」
「この年になって彼氏もいたことない、友達も少ない、毎日学校と予備校と家の往復だけ、無趣味で周りへの興味も極薄!!青春ナメてるよね!?いくら受験生だからって!!」
「……………」
その後もずっと話し続けるミサキにくだらない、と思いながら生返事を繰り返す。もちろん聞いてなどいない。JK?青春?残念、そんなものとは無縁だ。暇そうだとか虚しくないかだとか言われるが自分はこれで満足しているし充実している。昔から周りと馴れ合うタイプではないし面倒だ。
しかし。
(アサノリョウタ、か)
昨日の夜、慌てながらも無邪気に告げられた名前はどうも頭から離れなかった。