第1話
「…寒い」
見慣れたホームで、アサヒはポケットに手を突っ込みながら電車を待つ。この寒さでは手を出してスマホを触る気にもならない。座席を確保したくて一本見送ったが、12月の風はそれを後悔させた。
(怠惰なのはわかってんだけど、やっぱ疲れには勝てないよね…って、何歳だよあたし)
脳内で自己ツッコミをしながらマフラーに顔を埋める。
(っていうか…)
視線だけを動かしてあたりを見る。
街もこの駅もハロウィンを終えた直後からクリスマスムードに染まり始めていたが、12月に入るとまだ上旬だというのにカップルが増え始めた。何を考えているんだこの国は。
(楽しそうでいいねぇ。こちとら受験生だっての)
特に羨ましいとも思っていないのに捻くれたことを考える。一緒に過ごす相手も無し、時間も無し、そもそも興味無し。「受験生に年中行事は関係ない。勉強こそ全て」という担任の意味の分からない根性論を信仰しているわけではないが、別段否定する要素も無いので今日も今日とて予備校通い。
あいかわらず、女子高生とは何かと問いたくなる。もっとこう、そういうのってキラキラしたものじゃありません?あたしにはそういうの似合わないですかね。
(にしても、あんなにリア充してるように見えるのにこうも"色"が違うともう可哀想になるっていうか…)
色。声や音にそれが見えるアサヒは、人混みの中で何よりそれが疎ましかった。
共感覚。
別に特殊な能力でも変な病気でも無い。
ただの知的現象だ。幼いころからそれと付き合ってきた。全人類に共通するものではないと知った時は驚いただけで、それ以上にもそれ以下にも何もなかった。
(やっぱりあれか?クリスマスにぼっちはつらいから〜とかいうくだらない理由で作られた即席カップル?ラーメンかっての。バカバカし)
毎日の勉強と睡眠不足のコンボで溜まったストレスも相まって、アサヒの毒舌はとどまることを知らなかった。