第四十位
今回、前回とかよりも長いです!(誰からみてもそう思うと思う!)
「楽しい...ですか。その選択は面白いですね。まあ、僕も楽しいことは大好きですよ。そうですか、この人間界がミナージェ達の今の楽しみならばそれを崩す訳にはいきませんね。」
フィーベルトも楽しいことを好むようだ。ミナージェもキラリスもあまり表情を変えてはいないが、さっきと比べるとほっとしているように見える。
「.....ですが、こちらの問題もかなり深刻なものです。なので、色々条件的なものを出すとしましょう。聞くところによると、いま貴女達は学校とやらに行っているようですね。そこでです。私が持っている富のうち六割を貴女達の学校に寄付しましょう。こうすれば学校は様々な設備を整え、かなり裕福となるでしょう。その代わりに、貴女達二人は天界へと戻り再び二位と三位になってほしいのです。住居等は、以前使っていたものが残してあります。勿論、今までのように学校に通ってもらって構いませんよ。ただ、ミナージェ達は天界位階序列高位の椅子に座り、天界を見守りながら、学校に行けばいい。今までの生活に少し面倒が入ってきただけです。どうですか?この条件飲みますか?」
フィーベルトは、天界でも差別をせず身分に関係なく話を聞き話の分かる奴、として有名である。また、それと同時に諦めが悪い奴としても有名だ。天界の議員に対しても諦めずに説得をしたんだろう。そんな彼だ。ミナージェとキラリス、二人の事も諦めずに粘ることだろう。何度断られても、諦めない。それが彼の中でのスローガンのようなものだろう。
「分かりました。その条件飲みましょう。」
「確かに、フィーベルトは何度断ったとしても諦めないと思うしね。」
「話が早くて助かります。あと、ミナージェ。そろそろ様を付けようとは思わないのかな?」
「様付けの件は諦めてくれると助かるんだけどね。」
沙弥は目上の人に対して様をつける気がさらさらなく、いつもこれで茶番のようなものが始まるらしい。
「あの、フィーベルト様。もう一つ言いたいことがあります。」
「あ、私も。」
「なんだい?言ってごらん。」
二人はまた顔を見合わせる。
「私たちの呼び方の件だよ。私はもうミナージェじゃない。今は沙弥っていう新しい名前がある。」
「沙弥と同じです。私も、キラリスはもう既に捨てた過去です。今は亜美という名前があります。」
「なるほどね。過去を捨てたか。面白い。じゃあ、これからは「サーヤ」に「アミ―」だね。」
二人は、一瞬名前を勝手にいじられた事を不快に思ったが、すぐにその意味を理解した。二人の、「沙弥」や「亜美」という名前は天界には無いような名前で人間界特有のものだが、「サーヤ」、「アミ―」とすれば天界の田舎の方に行けばよく聞くような名前だからだ。天界の人間界嫌いはいまだに変わらないようで、人間界から来た者たちが位階序列高位になれば各地からの反発が収まるどころか酷くなるだけだろう。フィーベルトもその辺を考えたのだろう。
「あの、フィーベルト様、本当にこの者達を元の位に戻すというのですの?!私は反対ですわ!この者達は一度天界を追放されていますのよ、それをまた連れ戻すなど非常識過ぎますわ!!」
さっきまで黙って俯いていたマリーナがフィーベルトに反対の声をあげる。
「マリーナ。」
マリーナはフィーベルトに名前を呼ばれその威圧に肩を震わせている。
「君には、この二人を天界に戻すという僕の考えに反対なんだね。では、君に問うよ。いま天界で起きている問題は、サーヤとアミ―が追放された後に起きた。そして、今の僕らではそれを対処することが出来なかった。そうすれば、サーヤ達の追放がこの問題が起こった理由として挙げられるだろう。となれば、この二人を天界に戻す以外の解決法、マリーナなら思いつくのかな?」
「そ、それは...。」
マリーナは何も言い返せない。フィーベルトの言い分に間違いなどないから。正しいことしか言っていないフィーベルトに否を突きつけるはどの勇気と権限をマリーナは持っていない。ならここは従うしかないと、判断したのだろう。
「分かりましたわ。このお二方の天界への移住を飲みますわ。今すぐに色々と準備をしてきますわ。」
こうして、沙弥と亜美はもう一度天界へと戻り、地位を取り戻した。その日から沙弥達は天界への引っ越しや色々な手続き等色々とあり、学校へ行く暇が無い程に忙しかった。引っ越しも順調に進み、屋敷の清掃も終わらせあの戦闘の日から一週間ほど経った。そろそろ学校に戻らないと二人ともいないことが怪しまれると思い次の日学校へ行った。今までのように二人で登校し教室の扉を開けた。
───その時だ。
「むむ!何者?!我の世界に何の用だ!」
何やら白いワンピースの様なものを着た少女が開いたばかりの扉の方を睨みつける。制服はどうしたのだと思っていると亜美が沙弥の肩をつつき何かを知らせる。そこで、一度少女から目を離し教室の中に目をやる。教室の中は、少女の存在よりもはるかに凄かった。教室の中は今までとは一変。白一色に統一された壁や床。その一部には羽根と思われる装飾もある。この一週間程で一体何があったのだと驚きを隠せずにいる沙弥と亜美。その疑問は白いワンピースの少女の言葉により理解することが出来た。
「汝ら、ここは我の治める世界。勝手に足を踏み入れることは許さぬ。ん?なんだ汝ら、我を知らぬのか?ならば教えてやろう。我こそは、一週間程前突如裏山に現れた謎の天使の主であるぞ!まあ、人間の名を借りて名乗っておいてやろう。我は天堂真央だ。まあ、汝らもせいぜい我を楽しませることだ。」
この、少女....天堂真央は一週間程前裏山に現れた天使の主といっている。今の格好は翼人種の姿を真似ているのだろう。翼人種を知ったのは山に登ってきた命知らずな記者の集団に生中継中のテレビ局のカメラでも紛れ込んでいて亜美の姿をそのカメラが捉えたからだろう。何故、雑誌などの可能性は無いのか?それは簡単。戦闘の流れ弾がたまたま山の頂上に落ちてしまい、そこにいた記者達は全治三ヶ月の怪我を負い入院。カメラもその時に壊れてしまったからだ。亜美の忠告を聞いていればこんなことにはならなかったと記者達は病院でずっと呟いているそうだ。そして、真央は世間に天使として広まっている翼人種に憧れを抱き今のこの状態にあるのだろう。要するに「中二病」だ。
「何を馬鹿なことを言っているのやら。さ、入ろ亜美。」
「そうだね。もうすぐでホームルーム始まっちゃうし。」
「な、ちょっと待て汝ら!わ、我が怖くないのか?!」
「「全然、怖くない。」」
その返答に、真央含めクラス中の誰もが驚いただろう。今世間を騒がせている天使がいるのだ。普通、怖がるか、驚くかという反応があるものと思っていたのだろう。だが、沙弥と亜美は怖がるも何もない。なにせ、真央が偽物なのに対しこっちは本物。しかもトップ三位に入っている。逆に怖がれという方が無理だ。
「どうせ、強がっているだけであろう!我が魔法を見るがいい!!」
本当に口の減らない奴だと沙弥は内心思う。亜美は、教室内の様子を見渡し生徒の表情を伺う。今の表情は真央に対する恐怖心。相手の心の中を探るのは亜美の得意分野とだけ述べておこう。どうやら、沙弥もその表情の変化に気づいたようだ。そこで、少し煽ってみる。
「ほーほー、魔法ですか。それは凄い。是非やって頂きたいものだ。」
わざとらしく、棒読みで話す。薄っすらと小さく凶暴な笑みを向けながら。その隣、亜美はやっぱりという顔をする。生徒たちの顔色がさっきとは比べ物にならないほど悪くなった。おそらく、この自称翼人種は魔法と言って高度で見破れないほどの手品か何かを見せ信じさせたのだろうと。沙弥もそれに気づいて煽っているのだろう。
「ほぉ~よかろう、汝らの我に対するその偉そうな態度を改めさせてくれる!」
そう言うとポケットから小さなハンカチを取り出す。そのハンカチを一振り。大きな布となった。まるで手口が分からない。亜美はだんだんと不安になってきた。
「あの自称翼人種ちゃんも馬鹿だねぇ。もうすでに私の罠にかかったとも知らずに.....。」
戦闘の時にのみ見せる凶悪な笑みを浮かばせながらそう呟く。
「そうだな....おい、汝手伝うがよい。」
真央は一番近くにいた少し小柄な少年に手伝うように言う。少年は自分に白羽の矢が立ったことに震えながらも真央の目の前に立ち手伝うという事を態度で示す。真央はその少年に布をかぶせ、三つ数える。そして、その布をとると、少年が消えている。もう一度、いなくなった少年のいた場所に布を置き三つ数え布をとると、少年は戻ってきた。このことに、周りの者は驚き少年は他の者達よりも驚いている。
「なるほど、そういう仕掛けになってるわけか....。」
「沙弥も分かった?」
沙弥は、亜美の言葉に小さくうなずき返す。
「おーすごいですね。」
相変わらずの棒読みである。
「そうであろう、我の魔法は最強なのだ!」
誇らしそうに胸を張る。
「じゃあ、次はその魔法私にやってみてくださいよ。」
少しだけ意地悪に言う。
「良かろう。では我の前に立つがよい。」
「沙弥、相手が.....の可能性であるのは間違ってないと思う。ただ、何があっても油断だけはしないように。」
その言葉を聞いた後、沙弥は真央の元へ歩いて行った。今度は、さっきと違うハンカチをポケットから取り出す。手順は少年を消した時と変わらない。ハンカチを大きな布にして沙弥の上にのせる。三つ数え、布をとるとそこには.....さっきから何一つ変わっていない沙弥の姿がある。真央はおかしいという顔をして何度も布を乗せてはとってを繰り返している。しかし、何一つ変わらない。沙弥はずっと立っているだけなのである。
「あれれ~?どうしたんですか?」
「どうなっているのだ!おい天使!我に魔法を授けたのに何も起こらないのはなぜだ!」
亜美は教室の扉を閉め、結界魔法を発動させる。
「沙弥、いま!」
その合図とともに沙弥の背中から翼が出てきて、見る見るうちに翼人種の姿となる。その後、すぐに魔法を発動。隠れた者の正体を現す魔法だ。それにより、真央の後ろで透明になっていた翼人種が現れる。
「な、天界位階序列第四十位の俺様の魔法が破られるとは...!!」
「天界位階序列」は、全翼人種の強さ分けの為のものであり、故に全翼人種約一万三千体についているものである。ちなみに、四十位というのもかなり強いに分類される。まあ、二位に勝てるわけ無いのだが。
「お前....たしか、名前は....あ、そうだ。「アーガイル」だったな。で、四十位程度のお前が....なんだって?」
「あ、貴女様は....。」
「どうしたのだ、我が天使よ。」
「こ、この御方は....この神々しい存在感、高位のものみが有する翼の大きさ....天界位階序列第二位「ミナージェ」様?!では、そちらに居られるのは天界位階序列第三位「キラリス」様....勝ち目がない....。」
偉そうにしていた翼人種....改め、アーガイルは沙弥たちの本当の姿を見て勝ち目がないことを理解した。この世の終わりというようにうなだれている姿を見る限り、もう戦意はないだろう。
「アーガイルさん、訂正があります。私たちは一度翼人種という過去を捨て、人間という新たな道を今、歩いています。なので、天界には戻る予定ですが名前は変えます。ミナージェはサーヤに、私はアミーに覚えておいて下さい。」
アーガイルは、亜美の言葉に驚いていた。人間という軟弱な種族に堕ちてまで追い求めるものは何か。今の彼には分からないだろう。
「あと、もう人間界でこういうことはしないように。」
沙弥の言葉に、大きく頷き翼を大きくうちながら天界へと戻って行った。アーガイルは人間界への無許可入界として罪に問われるそうだ。ちなみにあの自称翼人種の中二病である真央はアーガイルが居なくなった途端に土下座をする体勢に入り、沙弥たちが一仕事終えた直後、クラス中の皆に謝る声が聞こえた。
沙弥と亜美はその隙に、記憶操作魔法により学校中の人間から教室での騒動、真央の翼人種真似の記憶を抹消した。
沙弥ちゃんは、戦闘モードになるとキャラが崩れまくりますね!