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Destiny ~魂の鼓動~  作者: 七海さくら
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#01 魂の叫び

『Destiny~終わりは始まりを告げる~』の続きです。

これからは亀更新になりますが、ゆっくりお付き合い頂けると嬉しいです。


「…っ……っく………ぅぅぅっ……」

 ナレーションとエンドロールが流れる中、少女の涙腺は壊れたかのように膨大な雫が溢れだす。それは止まることを知らない。

 たいしたことないと謙遜でも言えないような大邸宅の2階にあるリビングのソファーの上で、彼女は声を押し殺して泣いている。

 今、このリビングにいるのは自分だけだが、いつ誰が入ってくるかも判らないし、泣き声を曝け出そうものなら、料理長の一人娘であり、彼女と姉妹同然に育ってきた瑠架が異常を察知し駆け込んでくるだろう。

 そして、あっちこっちにいる心配性の執事達がメイドを伴ってどこからともなく湧いてくるうえ、今は1階の執務室にいる親馬鹿な父と外出中のシスコンな兄がどんな状況だろうが文字通り飛んでくることが簡単に予測される。

 7年前に母親が他界してから、その傾向はより一層強まった。

 ここまで過保護な環境の中、奢る事無く成長できたのはひとえに甘すぎる飴だけではなく、振るうところでしっかりと振られる鞭のおかげとも言える。父と兄はもちろん、執事長と瑠架もだ。

 ただでさえ多忙な皆の重荷になってはいけないと必死で気持ちを落ち着かせる。



 どうしてこんなに涙が出るのか彼女自身、理由がわからなかった。

 ただ、映像がリアルに頭の中に飛び込んできて、胸が苦しくなって、涙腺が勝手に崩壊したのだ。


 魂が揺さ振られたかのように。



 リビングでたまたま付いていた番組を見たのが間違いだった。

 誰も見ていない付けっ放しにされたテレビを消して、すぐに自室に戻るはずだったのに、リモコンにかけられた手は物語の佳境に入っていた再現ドラマに惹かれ、ボタンを押すことはなかった。

 その結果がコレだ。


 今まで古代遺蹟に残された情報を再現ドラマとして放送しているこの番組を何度か見た事がある。

 確かに泣いた事もあったが、だけど、今日のコレは違う。

 魂ごと震え泣くなんて事は今までの人生の中で探してみてもなかった。

 彼女の気持ちがダイレクトに届き、彼の想いがこんなにも胸を締め付ける。


 ようやく息が整い、声だけはなんとか押さえ込めたその時、軽快なノック音と扉を開く音がした。

 慌ててソファーの上で膝を抱え、その膝に額を押しつける。

 長いスカートを押し上げる膝を綺麗に伸ばされた長い髪がスカートの上からさらりと撫でた。

「の~ぞみっ」

 ノック音と比例して嬉しそうに彼女の名前を呼ぶのは10歳年上の兄、大輝。

 子犬のように駆け寄ってきては甘やかしてくれるが、間違った時にはしっかり怒ってくれる大輝が彼女は大好きなのだ。

 だけど今日は、今だけは来ないでほしいと、見ないでほしいと思った。また心配をかけるのが判っていたから声を押し殺していたのに。

 だが、自分を探してきた様子の大輝にはその思いも届かず、目の前に回りこんでくる気配を感じた。

「のぞみ?どうした」

 声が一気に心配な色に染まる。

 そこで「何でもないよ」と言えるならまだ良かったのだが、赤い瞳はごまかせないと結論づけ、ふるふると小さく首を振って答える。そもそも泣いた理由が判っていないのだから説明できるはずがなかった。




「この間の事か?」

 一瞬体が固まるが、それはないとまたしてもジェスチャーで訴えている。先程よりは大きいそれに大輝は予想が違ったことを証明され、少し安堵した。


 妹が自主的に面を上げるまで彼は無言で頭を撫で続けた。

 その温かく優しい感覚に、のぞみは胸がいっぱいになる。





 …もしかすると

 ……兄が“あの人”なのかもしれない

 そして、自分が“あの子”なのかもしれない

 だからこんなにも護ってくれるの?






 あの人が誰を指しているかもわからない、自分の立ち位置もわからないまま疑問の答えを求めるようにゆっくり顔を上げる。かち合った青紫の瞳には心配と安堵の気配が混じりあっていた。

 これ以上困らせてはいけない。

 今まで撫でていてくれた大きな大人の手を取って今できる最大の笑顔を返す。

「ありがとう。兄様」

「ん」

 その言葉に力強く頷くと兄はいつものように優しく体を抱き寄せる。

 強すぎず弱すぎない力に委ねるように、少女は体の強ばりを解いた。






 兄の兄なりの愛し方

 あの人のあの人なりの愛し方

 私の私なりの応え方


 魂は同じでも、あの人ではない。

 私も、あなたも。

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