王と春の女王
王宮では、寒さのため、全員が着膨れて、丸くなっていました。
寒がりの王は相変わらず、毛皮の帽子に毛皮の襟巻、毛皮のガウンです。
そこへ、春の色、輝く黄色の甲冑を着た春の女王が供回りもつけずに、やってきました。もちろん長剣も盾も持たず。
恐れ半分興味半分王のの廷臣を左右に分け、春の女王は王の元へキビキビした歩みで向かいます。
道化のサンダンスが言いました。
「ドラゴンの泣き声がここでも聞こえたぞい、クィーンズガードは何人死んだ?」」
春の女王は道化に一瞥すら与えません。
まだ子供の若い王子ロンデュアルも興味津々で春の女王とスピリゴンを見ています。
"王の右手"ハーダウェイ卿が尋ねます。
「女王陛下、果たして首尾は?」
「よくありませんね」
春の女王は答えました。
「よくない?」
ハーダウェイ卿は不思議そうです。
「ハイ、王と女王としてでなく、妻と夫として王と話があります」
春の女王が提案しました。
王が一瞬怯えた表情を見せました。やはり夫婦にだけにしかわからない何かを感じたのかもしれません。
「では、寝室へいこうか、我が妃よ」
「はい、我が夫よ」
王が言い、春の女王が答えました。
二人は、廷臣を遠ざけ、息子さえ遠ざけ、夫婦として寝室へ向かいます。
長い、キングス・コリドーには、歴代の様々な王の彫像が立っています。サリタス健全王、レニアス偏屈王、ルヴァイアル睡眠王、狂王ランドス、着膨れてのそのそ歩く王を春の女王は見て、王はほぼ一年前会ったときより、はるかに太ったように感じました。
寝室に入る前、王が言いました。
「その爬虫類が一緒では床に入らんぞ」
「御意のままに我が夫よ」
春の女王はスプリゴンを羽ばたかせ離しました。
王は太っているため長時間立っているのも辛そうです、ベッドに腰掛けました。
「久しぶりゆえ、床でも共にするか我が妃よ」王は嫌な笑いを見せました。
「良いですね、そこの窓辺棚のスーベニールに私の好きな飛翠華の香水が入っていたはず、それを身に纏いたのですが、如何ですか、我が夫よ」
「よいではないか」
王はさらに嫌な笑いを見せ、春の女王に背を向け、窓辺に向かいました。
春の女王の魔法は人間である王には効きます。しかし、春の女王言は魔法を一切使いませんでした。
単純に背を向けた王の大きな背中に自決用の小刀を立てました。
「我が姉妹も過ちを行ったかもしれないが、我が夫よあなたのしたことも許されるべきことではない、そして私のすることも許されるべきことではない、このあたりで三人で決着をつけましょう」
春の女王はそう言うと、王の髪の毛を掴み、王の首を小刀で掻き切りました。
春の女王は、輝く黄色の甲冑を血まみれにしたまま、切り取った王の首を持って王宮に戻ってきました。
そして、王の首を王宮のど真ん中に放り込みました。王の首は不自然な角度で止まりました。
道化のサンダンスが狂ったように叫びます
「首、首、クビ、くび」
廷臣たちは、慄き、叫び声をあげました。
「ぎゃあああああ」
「王が、、、」
「静まれ、静まれ、このスプリリアはもはや春の女王にあらず、スプリゴンも魔力ない。
王を背後から、切りつけ、殺した、キング・スレイヤーなるぞ。
そう、ただのキング・スレイヤーですらない、夫殺しにして親族殺しなる。永遠に追われるべき罪人ぞ」
もはや春の女王ではなく、スプリリアは、そう言うと、まだ血が乾かない小刀を王子ロンデュアルに向けました。
「王を殺したるはそれなりの故があってこそ、王の名誉のため仔細こそ語らぬが、わけがありし事を理解していただきたい。このスプリリアも春の女王から退位し、冬の女王も王の赤子たる国民に多大な迷惑かけしゆえ退位す、そして王もかくなりては責務と義務は果たせぬ故、幼き王子ロンデュアルを幼王ロンダー四世として即位させよ。幼王が成人するまで摂政など、どなたでもでもご随意に」
王のくびを投げ込んだ血まみれの元春の女王にこう言われて抗言出来るものは居ませんでした。
「では」
スプリリアはそう言うと、小刀まで王のくびの横に放り込み、すたすたと王宮を出ていきました。
幸いにも廷臣の誰一人追ってはきませんでした。