春の女王来たる
季節の女王はそれぞれ、その季節を担当する時以外は、王国の冬の女王は北に、春の女王は東に、夏の女王は南に、秋の女王は西に領地を得て住んでいます。
ハーダウェイ卿の雪おしての騎馬の旅はそれほど簡単なものではありませんでしたが、どうにか、春の女王の領地にたどり着きました。ハーダウェイ卿は春の女王の道で幾度も黄色の胸当てを着けた装甲騎兵に出会いましたが、あまり気に留めませんでした。
ハーダウェイ卿は春の女王の館、スプリングスホールに入るといの一番に暖炉にあたります。
衣擦れの音がして、春の女王がハーダウェイ卿の背後に現れました。
春の女王の頭には小さな菜の花をあしらった王冠が、そして肩には、季節を司る女王だけになつくドラゴン、スプリゴンが乗っています。ドレスは女王にしては質素ですが、春の女王は賢さから、凛とした美しさを内面から醸し出しています。
「大凡の察しはついています、ハーダウェイ卿」
「これは、春の女王陛下、一刻も早く、季節の塔へお越しを、王国はこれ以上の冬にもう耐えられません」
「わかっています、鳩の知らせを幾度と貰ったときより、万が一に備えクィーンズ・ガードの召集はかけております」
「おお、、、しかし、それは信誠と盟約を犯すことになるのでは、、」
ハーダウェイ卿がやや狼狽えながら答えました。
「わたくしは、これを王国の危機と認めます。覚悟は即位したときからもう既に出来ております」
春の女王の決意と意欲に満ちた表情にハーダウェイ卿は何も言えませんでした。
春の女王は、侍女に合図を小さく送ると、侍女が近くまでかしこみやってきました。
「娘のスプリニアには、申し付けてあるとおりに、」
「ハイ、女王陛下」侍女が大広間から下がりました。
「参りましょう、ハーダウェイ卿」
すると、違う侍女がズボンを春の女王のドレスの下に履かせ、簡単な胴当てを着せました。
「あの子の気性は一番この私が存じています」
そう春の女王が言うや、肩に乗った小さなドラゴン、スプリゴンが小さく吠えました。
「キィヤー」
スプリゴンは金切り声を上げると春の雷を小さくですが吐きました。
これは、大変なことになりそうです。