王と冬の女王
この王国フォーシーズンズでは、四つの季節の女王がそれぞれの季節を司り、その季節の期間中、季節の塔で暮らすことになっていました。
しかし、その冬はいつもより長い長い、冬でした。
冬の女王が季節の塔に籠もり出てこないのです。
もうとっくに春分の日を過ぎているのに昼間は吹雪が吹き荒れ日の光も届かず、軒の下には氷柱が長く垂れ、毎朝になると池が凍りついています。
フォーシーズンズでは一向に春が訪れる気配がありません。
王国の国民みなが困り果てていました。
「このままでは、種まきができない」
「それより、秋蒔いた葉物の新芽が出なければ、飢えることになるぞ」
「それより、もう秋の間に集めた薪や柴がそこをつく」
王国の人々は、吹雪の止み間に顔を合わせては、そんなことばかり話していました。
中でも、とりわけ困っていたのは、寒がりのフォーシーズンズの王その人でした。王冠の代わりに毛皮の帽子を被り、豪勢な毛皮のガウンを着て、これまた毛皮の襟巻を巻き、暖炉では家一軒燃やすほどの量の薪が焚べられていましたが、
「寒い、寒い」
の一点張り。毛皮の襟薪は頬をすべて覆わんばかりです。
「王様は、大困り!」
道化サンダンスが茶化します。
王は叱りつけもしません。なぜなら、襟巻を下げるだけでも充分寒いからです。
「誰ぞ、春の女王を呼んでまいれ」
王が言いました。
"王の右手"でありサーの称号を持ちロード・オブ・ティンブルグであるハーダウェイ卿が答えます。
「何度も鳩の使いは出しましたが返事がありません」
同じく、"王の左手"であるサー・ケリアスが答えます。
「陛下、これで、鳩の使いは七度目になります」
「むー」
王は襟巻を降ろして口を出さずに答えます。さらにもう一回
「むー」
道化サンダンスが言いました。
「めー」
と言うと、サンダンス自分自身で笑い出しました。見かねたハーダウェイ卿が王様の玉座に敬々《うやうや》しく近づきます。
王はハーダウェイ卿に耳打ちしました。
ハーダウェイ卿はため息一つつくと、宮廷内を見回しました。長い平和が続いたため宮廷内には、もう屈強な騎士は一人もいません。みな歳を取っているか長い宮廷生活で太ってしまっているかどちらかです。若い人間は幼すぎるぐらい若い王子ロンデュアルだけです。この王子の母親は四人の季節の女王ではありません。王が下賤の女性に産ませた私生児を正当な跡継ぎに仕立てだけです。
此度は王国の一大事、"王の右手"であるハーダウェイ卿自らがその任を全うしなくてはなりません。
とはいえ、ハーダウェイ卿も決して若くはありません。膝の痛みをおして春の女王を呼びに行くことになりました。
「あとは名のみ王子ロンデュアル殿下に、全権は"王の左手"サー・ケリアスに全てを託す」
そう言い残すと、従者を二名引き連れ、馬上の人となりました。