女君主2
利兵衛が綾姫から論功行賞を受けるという名目で龍山城に召されたのは、戦闘から2日後の昼下がりであった。あれ以来、戦いはなく、教官や部隊長から一目置かれている風であることは肌で感じていたが、それ以上何があるわけでもなく、休養という名目でゴロゴロする日々だった。
利兵衛は居宅から2つの山を越えたところにある、その城に行くのは初めてであったが、特に臆することなく、どこに臆せば良いのかもわからず、直属の部隊長、西園寺公望と共に城門をくぐった。そもそもこの西園寺部隊長も地元の名家の出で、自分が靴を揃えて歩くような人物ではないのだ。人柄の良さとどことなく有能そうなところが所作から滲み出ていたが、この人物の隣にいることも含めて、自分が場違いであることは何となく理解しながらも歩を進めるしかなかった。。
西園寺部隊長は、利兵衛が綾姫と謁見する前に優しく、小さな声で
「あの方は年端も近い君に馴れ馴れしく接するかもしれないが、気を許し過ぎないように。できるだけ僕もフォローするからね。」
とだけ言った。
利兵衛らが、謁見の間に入った時、そこには侍従の者が居たが、それだけであった。2.3分待つと衣摺れの音と同じく、一人の女性が上座の間から姿を見せた。綾姫であった。
利兵衛はその容姿を写真やテレビで見たことはあったが、その記憶以上に彼女はかよわい女性であった。容姿は華奢だが、華やか、目元ははっきりとし、その両の目でまっすぐ自分を見つめているがそれはどう見ても女性のそれであり、もっと言うならば名家の御令嬢のそれであった。
利兵衛が驚き、ある種の憐れみで礼を忘れていると侍従が「名を」と促してきたので利兵衛は慌てて出身と姓名を述べ平伏した。
鈴が鳴る、ような声で綾姫は「首を上げよ」と言った。続けて彼女はこうも述べた。
「論功行賞をすると言ったが、何も決めておらぬ。何が欲しいか述べてみよ。」
と。