間話 騎士団長と側近
メレディス団長視点。短いですがご容赦を。
「いや、見事だった」
彼との戦いは満足出来るものだった。力を尽くしてもなお、勝てぬというのは悪くないものだ。
このように団長となってからも日々の鍛錬に励むことが出来るのは彼の存在あってだろう。心底からそう思う。
「お疲れ様でした」
部下たちの訓練も含めやるべきは終え、執務室に戻るとクラークが出迎えてくれた。私の代わりに騎士団の事務・折衝作業を行ってくれる大事な人材だ。
「うむ、良い汗をかけた」
「身体は清められましたか?」
「もちろんだとも。傷も負ってしまったしな、医務室で治癒魔法をかけてもらったところだよ」
「ならば良いのですが」
コクリと頷く彼は実直で、その真っ直ぐなところが私は嫌いではなかった。元々武人として騎士団に入ろうと望んだ男だったが、今では私の片腕となってくれている。
「傷を負ったということは試合でも?」
誰とやったのです、とその銀色に輝く双眸が訴えてきている。髪色も含め、一見冷たい印象を与えるその色は誤解されがちであることも知っている。
「例の従者とだよ。ケヴィン・スペンサーとやりあったのだ」
「あぁ、あの弓使いの」
クラークは得心した、という風に頷いた。
「勝ちましたか?」
「いいや、負けた。あと一歩のところだったんだがなぁ」
超長射程まで正確に射抜くことの出来る実力、それだけに留まらず戦闘中に魔法を扱うための努力と工夫。そして意のままに戦況を操りアドバンテージを握り続ける頭脳と観察力。どれをとっても見事な戦士であり、その卓越した技術を認めざるをえない。
単なる使用人と侮ったこともあったが、あの男を認めなければ誰を戦士と認めればよいのか。アレを侮り蔑むならば、それ以下の騎士どもは全て腑抜けになってしまう。
ガシガシと頭を掻くと、「そのような仕草はお控えください」と注意される。
軽く睨みつけてやると、知らんぷりしおった。生意気だ。
「何故彼は騎士にならないのでしょうか」
平民、ましてや使用人として代々仕えている家系。だが騎士団は、貴族以外でも実力が認められれば入ることが出来る。尚且つ、その中でもずば抜けた実績を残せば一代貴族、ひいては家を興すことだって可能だ。
まだまだ武力が必要とされる時代は続くであろう。であれば、クラークの疑問は尤もである。
だが、私はその理由を知っている。だから溜息をつく。
「あの男も変人だからな。使用人の中でも下の方にいたアヤツは、必死になって王女専属の側仕えにまで出世した。しかも原動力は単なる一目惚れだ」
彼を知らない人間が聞けば馬鹿馬鹿しいと思うだろう。だが、事実である。そしてその特異性を知っている者はそう多くはない。所詮は従者のことだからだ。
私とて、時折試合をする関係になったのが不思議なぐらいなのだ。何が切欠だったかなど、正直覚えていない。
「愛の力というやつですかねえ」
「私にはイマイチわからないがな」
愛がわからないというわけではない。ただそのためにそこまで必死になるということが良くわからないのだ。王族と平民。それも主従。
結ばれるはずもない恋に身を焦がして、果たして彼は何を考えているのだろう。