表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/42

世に出る準備

 やるべきことは無数にあった。根回しや取り込みはアシュベリー伯の領分といったが、現実問題として、人手が足りていない。

 少なくとも裁量を持って動ける人材が俺、アシュベリー伯、モンタギューぐらいしか戦略的視野に立って動けないのだから、俺が働かない理由はどこにもなかった。

 彼らが言うとおり、好きにやらせてもらうとしよう。

 まず行ったのはカトレア王女の遊説だ。本来高貴な身分の人間がそう出歩くものではないのだが、今回はそうも言っていられない。とにかく顔と名前を覚えてもらい、或いは漠然と抱かれていたマイナスのイメージを吹き飛ばす必要があった。

 ――つまり。


「ちょ、ちょっと待て!?」


 お嬢様を可愛いと言わせれば勝ちなのだ!

 アンナが装飾過多でピンクいドレスを持ってじりじりとにじり寄る。うむ、買収しておいて良かった。

 兎に角、人間第一印象が大事だ。カトレア様の魅力を存分に引き立てる衣服を着て頂き、そしてその上で可憐で気高い王女を演じていただかねばならない。

 その為の演技指導も含め、じっくりとしていくつもりだ。


 ……趣味が入ってる? 気のせいだと思うよ!


「これも必要なことなのです」

「理屈はわからんでもないが、ここまで着飾る必要はないのではないかね!?」


 訳知り顔で断じる俺に対し、カトレア様は半ば涙目になりつつ反論する。

 ……まぁインドア派な姫様だったから、ちょっとした苦手意識はあるのだろうなぁ。

 そも大衆の前に姿を晒す事自体、必要だと理解してはいるが、というような雰囲気であったし。

 だがそれでは困る。困るのだ!

 アイドルになったぐらいのつもりでやって頂かねば!


「キャピキャピしろともぶりっ子しろとも言いません。ただその服を着て『王女』を演じて欲しいだけなのです」


 嘘じゃないもんね。


「元より可愛らしいのですから、こういった服も似合うかと思います。経験だと思って着てみては如何でしょうか」


 うむ、うむ。同姓からもこう言われては断りづらかろう。

 困ったようにあぁ、うぅと唸っていた王女様はやがて勝ち目がないことを悟ったのだろう。深々と息を吐き、手で額を覆った。


「わかった、わかった。着てやるとも。それで、どのように振る舞えば満足するのかね、先生?」


 先生……!

 俺に向けて何気なく言ったのだろうが、或いは皮肉ったのだろうが、その言霊の破壊力に俺の思考は凍った。

 なんで先生とか先輩とかそういう言葉って妙に甘美なものがあるんだろうね。ホントにね。


「我が生涯に一片の悔い無し――!」


 思わず男泣きした俺に、怪訝な目を向ける二人であったが、気にしもしなかった。ふはは、カトレア様の服をコーディネートし、演技指導して先生とまで呼ばれるとか我が世の春かな?

 

 ……いやうん。色々厳しい現実から逃避してるだけなのはわかってるけど、適度に息は抜かせてください。




※ ※ ※




 とはいえ、扇動だけでどうにかなるものではないので実際に利というものを見せる必要がある。少なくとも、各領地を出入りする商人や旅人などは、簡単には騙されてはくれないし――彼らにも訴えかけてカトレア様の噂を広めてもらうのが、この遊説の目的でもあるのだ。

 何せこの世界のこの時代、彼らのネットワークは馬鹿にできたものじゃない。未だに貴人が馬車を用いていることや、俺たちが徒歩で逃げ続けたことからも明らかなのだが、交通網は貧弱の一言であり、旅をするということそのものの敷居が高いのだから。

 彼らの話は仮に信用ならないものだとしても、噂として収集する価値があるシロモノだ。それを知らない貴族は……多分居ないと思う。


 あまり気の長いことは出来ないが、それでも周辺の切り崩しも含め、いざ決戦となった場合、或いはその後――王位にカトレア様がついた時。

 そういった時に、役に立つのだ。噂が広まっていればいるほど、潜在的な敵を減らしうる。潜在的な味方を増やしうる。

 今回アシュベリー伯に庇護を求めた際、その他の貴族に横槍を入れかけられたが、そういうことだ。そういうことを今後防ぐためだ。

 長期的に見るなら、そう。彼らのネットワークにカトレア様の噂を載せることはかなり優先度(プライオリティ)の高いタスクだ。


 であるから、彼女が演説する前に。少ない期間であるが色々と小細工を施した。まず第一に、アシュベリー伯の資産から食料の放出を行う。

 アシュベリー伯の領地は良く治められている方だが、それでもスラム街はあったし、問題も幾つかあった。そして既に前例として炊き出しや食料の放出が行われていることも確認はした。その上で行った。


 無論、カトレア王女の名で。


 ……ちゃんとアシュベリー伯の許可はとっている。好きにやっていいと言質も貰っていたしね?

 王女には今、何もない。だが何か目に見えるものを見せる必要があった。そのスポンサーになってもらった形だ。

 元より王女側にベットして下さっているのだから、それを活用しない理由はないし……これだけのことをしてくれているのだから、当然カトレア女王が誕生した暁には、相応に返すことになる。それが今から少し怖いといえば怖いが、何も出来ないでいるよりは遥かに良い。

 とはいえ、ただ食料を放出するだけではただの民衆に対する人気取り、それも対処療法だ。それにやり過ぎれば市場の機能に支障が出てしまう。なのでバランスを取りつつ、もう一つ手を打つことになる。


 商人たちに繋ぎをとるのだ。

 大々的に、とまではいかないが。さるお方のスポンサーとして募る。耳聡い商人ならば、それがカトレア様であり、且つ支援するということは王権争いに間接的に関与するということを理解する。……理解できる程度には、情報を流す。

 そこまで情報を集め、判断できる商人から支援の申し出を受ける。そうすることでカトレア様独自の資金源と民間スポンサーをゲット、という筋書きだ。


 勿論、一番の後援者はアシュベリー伯であるのは変わりないし、彼らの場合は単なる金の繋がりだ。返すべきものも金になるわけで、後の精算も多少の利権を渡せば済むだろう。そこら辺はきっちり俺の方で手綱を握っている、問題はない。

 この支援金と支援者集め、そして人気集め。それらは全て並行して行った。民衆に対して大きなアクションをしなければまず商人たちから取引相手としては認識されないし、商人たちと秘密裏に結んでばかりでは後々大衆の方を向けなくなる可能性もあった。


 この辺りはもう、バランスだ。偏り過ぎないよう、そして同時に動いてどちらにも向いた行動が出来るよう着々と進めていった。

 そういった準備の上で、幾つかの材料を構え。



 ――ようやく、カトレア様に出ていただく段となるのである。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
もしよろしければ評価やブックマーク、感想などよろしくお願いします。
モチベーションに繋がります。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ