サクジロウが迷子なのです!
ブックマークしてくれた方、ありがとうございます。
ここが商業都市か。
王都から、東西南北に伸びる街道の中継地点になる街だ。ここは、王都から東側の街になる。
「ふへぇ〜、大っきいのです!」
「プヒーッ!」
街の門も大きかったが、街もかなりの規模だ。
ディベルもアレキサンダーも、目をキラキラさせながら、はしゃいでいる。
「さて、まずは宿を探さないとな。確か門から右手に進んで最初の大通り手前にあるって言ってたな」
門番に街の作りをざっと聞いた時に確認しておいてよかった、こんなにでかい街じゃ迷子になりかねん。
ん?誰がだって?決まってるぽんこつ女神だ。
「とりあえず、宿屋に行くぞ」
そういって、振り返ると誰もいなかった。
「あぁ、そうだよ分かっていたさ、絶対に目を離しちゃいけないってことは。でも、まだ門をくぐって右左を確認しただけだよ?」
仕方がないので、近くにいた人に片っ端から聞いていくしかない。
街で最初にやることが、まさかの迷子探しである。たぶん豚も一緒だ。
街について早々にしでかす、ぽんこつ女神と豚だった。
「ふわぁ〜、いい匂いがするのです!」
「プヒーッ、プヒーッ」
「アレキサンダーも、そう思いますのです!」
いい匂いがするので、そっちの方に駆けていく。
その先には、食べ物の屋台があった。
どうやら、今日は収穫祭みたいで、あちこちに様々な屋台が出ていた。
「美味しそうなのです!」
「プヒーッ!」
「いらっしゃい!おっ、可愛いお嬢さん、美味しい串焼きどうだい!」
「とっても、美味しそうな料理なのです。
串焼きっていうのです、これ食べたいのです!」
ディベルに、抱っこされているアレキサンダーも、鼻息が荒くなるほど興奮しているのです。
「サクジロウ、これ食べたいのです!」
「プヒーッ!」
サクジロウに話しかけようと、後ろを振り向くが誰もいない。知らない人が、こっちを見て首を傾げている。
「あれ?サクジロウは、どこに行ったのです?」
ディベルは、辺りを見回すがサクジロウは見当たらない。
仕方がないので、とりあえず…。
「おじさん、これ二つ欲しいのです!」
「あいよ!二本で銅貨二枚だよ」
「ありがとうなのです」
「プヒーッ」
とりあえず、串焼きを二つ買った。サクジロウの分ではない、アレキサンダーの分だけどな。
二人で、ベンチに座り串焼きを食べる。
向こうの通りで、チンドン屋が楽しそうな音楽を流している。
「あれは、何なのです?すごく楽しそうなのです!」
「プヒーッ、プヒーッ、プヒーッ!」
ディベルは、串焼きを食べ終えると、まだ咀嚼中のアレキサンダー抱きあげ駆け出した。
「いったい、どこ行ったんだあいつら」
いま、街は収穫祭らしく人が溢れている。
この街は、東西南北に延びる中央通りに対し、東西に五本の大通りがある。
俺達は、東側の門から入り、右手側で北の宿屋に行こうとしたから、左手側の南を探した。
「まったく、今度からは腰縄括り付けておかないとダメだな。屋台の食べ物の匂いが凄いな、たぶん釣られてフラフラ行っちまったんだろう」
とにかく、食べ物系の屋台に、手当たり次第に聞き込みをする。すると、ひときわスパイシーな匂いがする串焼き屋があった。
「すいません、ここに豚を連れたちっこい女の子来ませんでした?」
「いらっしゃい!ん?豚連れたお嬢さんなら来たぜ。もしかして、あんたがサクジロウさんか?」
「そうです、なぜ名前を知っている?」
「あぁ、お嬢さんが串焼きを買うとき、その名前を呼んでたからな。そこの、ベンチで食べてたのが四半刻ほど前だ」
なるほど、ならまだ近くにいるかもしれない。
「食べ終わった後、西の通りに走って行ったから、広場の方にいるんじゃないか?」
「ありがとう、そっちの方を探してみるよ」
まずは、広場を探してみるか。確か、大道芸をやってるみたいだったな。
あちこちにチンドン屋がいたから、ディベルはついて行ったのかもしれない。
とにかく、広場に向かって走り出す。
広場では楽しげな音楽が流れ、様々な大道芸人が己の技を披露していた。
ディベルは、あちこち見ながら楽しんでるようだ。サクジロウのことはすっかり忘れている。
「凄いのです!楽しいのです!」
「プヒーッ!」
「さっきのは凄かったのです!体が真っ二つになったのに、生きていたのです!不思議なのです!」
箱に入った人が剣で上下に切られたが、分かれた箱を元に戻すと切られたはずの人が元どおりになって出てきた。確かに、不思議だ。
今度は、大小様々な玉を何個も空中に投げる、だけど一つも落とすことなく受け取る、そして何度も空中に投げて受け取るのを繰り返す。
「凄い!あの人、あんなにたくさんの玉を空中に投げてひとつも落とさないのです!」
ここが広場か?
円形状で大きめな広場で、たくさんの大道芸人が披露している。それを見る観客も、かなりの人数だ。
しかし、こう人が多いと探すのも大変だ。
「凄いのですぅ!」
「プヒーッ!」
ひときわ大きな声で驚いているヤツがいる。
ディベルの声だ、豚の鳴き声も一緒に聞こえるから間違い。
奥のナイフ投げの大道芸を見ているようだ。
「サクジロウも、こんなことできれば凄いのです!」
「プヒーッ、プヒーッ」
一人と一匹がひときわ歓喜に沸いている。
「やっと見つけたぞ!」
息を切らせ、ディベルの後ろから声をかける。
それから、俺は大道芸人じゃないから、口で咥えた果物でナイフを十本も受けられない。
「あっ、サクジロウ見つけたのです」
「プヒーッ」
「まったく、迷子になるなんてダメなのです」
「違うわ、俺がお前を見つけたんだ。迷子になったのも、お前と豚だ!」
いつもの手刀もくらわしたいが、そんな気力もない。とにかく見つかってよかった、もしかしたら誘拐されたのかもなんて考えても浮かんでいた。
「たのむから、あまり心配かけるな。」
そういうと、ディベルは何か感じ取ったのかしょんぼり顏になった。
「ごめんなさいなのです」
「プヒッ」
反省はしているようだ。まぁ仕方ないのか、こんなお祭りなんてはじめてだろうし。
俺だって、昔お祭りで迷子になったことはある。だから、楽しいと周りが見えなくなっちまうのも分かる。
とにかく無事でよかった。
「まずは、宿屋で部屋をとってこよう。お祭りを巡るのはそれからでも遅くはない」
そういって、今度は迷子にならないように手を繋いだ。
ディベルは、最初は恥ずかしそうにしていたが、しっかり握り返してきた。
さて、宿屋に着くまで誘惑に負けずにたどり着けるかな?
ちなみに、アレキサンダーは紐で括り付けた。
今回はディベル視点もあります。
語ってるの誰だか分かっちゃいますよね?




