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キャンプなのです!そして、戦うのです!

ブックマークしてくれた方、ありがとうございます。


あれから随分と歩いた。日も傾き、空の色がだんだんとオレンジ色に変わっていく。

ここいらで野営の準備をしよう、暗くなってからだと危ないしな。そう言ってテントを立てるのに良さそうな場所を探す。

街道沿いには、野営できる広い場所があるとキーリカさんから聞いていたので、その場所を見つけたので準備を始めた。


「キャンプなのです、楽しみなのです」


ディベルは、楽しそうにはしゃいでいる。

後ろから頭に手刀をくらわし、キャンプ道具を出すように促す。

ふきゅっ、と変な声で鳴く。


「分かってるのです、サクジロウは直ぐ頭を叩くのは良くないのです。女神をもっと敬うのです、崇め奉るのです」

「それはできないな、お前がぽんこつ女神である限り、崇め奉ることない」


間抜けな声を出し、頭を摩りながらいつものやりとりをはじめるが、はっきりと言ってやった。

うおっ、干し肉が飛んできた。

飛んできた先を見ると、ディベルが袖から出した色々な物を投げてくる。当たることはないが危ない。とうとう、金属製の物を投げはじめたので駆け寄り手刀をくらわす。

さすがに危ないだろ!


「また、ぶったのです!?」


無視してテントを組み立てる。

思っていた以上に簡単に出来た。二人横になっても余裕がある大きさだ、これなら俺達二人ぐらいなら、かなりくつろげる。

外で焚き火を突きながら、ブツブツと文句を言ってるぽんこつ女神に声を掛ける。


「そろそろ、食事の準備をするから手伝ってくれ」


食事と聞いて、顔がにこやかになるディベル。ちょろいなぁ、なんて思いながら焚き火の横にかまどを作る。


「ここで料理を作るのです?」


野営なんて初めてだし、飯盒炊飯だって小学生の頃のキャンプ以来だから不安だったが、キーリカさんから簡単に出来る料理のレシピを貰い、昼間会った商人の護衛をしていた冒険者から野営のアドバイスを受けたので、なんとかなりそうだ。本当に感謝します。

まぁ、炊事は得意ではないが、一人暮らしである程度はやっていたので簡単な料理は作れる。面倒なので、コンビニ飯の方が多かったけどな。

それと、ヴィルガレストにも米があった。麦があってパンがあるんだから不思議ではないが、こちらではサラダ感覚で食べられていた。炊かずに炒めて料理のトッピングとしたり煮込んだりして食べるのだ、キーリカさんの料理にも使われてた。


「これは何を作っているのです?キーリカさんの所でも嗅いだことない匂いなのです」

「これは、俺がいた世界の料理の一つで御飯という食べ物で、米を炊いたものだ。おかずとしてではなく、主食つまりパンの代わりになるものだな」


そう説明する。実際食べてみれば分かる、日本人ならこれは譲れないのだ。

隣でスープも作る、干し肉で出汁をとり乾燥させた野菜を煮込む、カレー粉があればいいのになぁ。そんなこと考えながら塩と胡椒で味を調整する、うんなかなか美味い。商人さんから貰った魚の塩漬けを火で炙りいい匂いがしたところで御飯が炊けた。


「美味しそうな匂いがするのです!」


そうだろ、そうだろ、これが御飯の匂いなのだ!

さて、皿に盛り付けてディベルに渡す。


「いただきますなのです!」

「おうっ、たくさん食ってくれ!」


キーリカさんの料理に比べれば大したことないが、ディベルは美味そうに食べている。


「やっぱり、料理は美味いのです!」


俺も食べはじめる。料理なんて殆どしなかったけど、なんかこういうのいいな。

ひとりで食べるコンビニ弁当は、本当に味気も無かった。

ちょっと焦げたご飯ですら美味く感じるのは、ディベルが一緒に食べているからかもしれないな。

そんな感傷に浸りながら、初めてのキャンプを堪能した。



翌朝、朝日を浴びて大きく背伸びをする。

街道に張られた地脈結界のおかげか、モンスターも寄ってくることもなく、ぐっすり眠れた。

ディベルは、朝が弱いのか寝ぼけ眼でテントに挨拶している。


「サクジロウ、おはようなのです」

「それはテントだ、今お前が出てきたんだろうが」


燻ってる焚き火跡を処理し、作っておいた朝飯を渡す。

このままの今日は街に着く予定だ、地図と目印を確認するとあと三割ほどの距離だ。順調に行けば夕方までには着くだろう。



昨日と同じように黙々と街道を歩いていると、少し先に何かいるのが見えた。


「モンスターか?だとしたら、街道の真ん中にいるのは不自然だ」


ゆっくりと近づきよく見ると豚がいた。

こんなところに豚?野生の豚なのだろうか?無視するか、それとも狩ってみるか?

いまだ使われずのダガーに手を掛け考える。

これまでの人生で生き物を殺したことなんてない、いいとこ虫ぐらいだ。

本当に、俺は野生豚を殺すことができるのか?

そんな考えが頭をグルグルと巡っている。

野生豚から注意を逸らさずにディベルの方を見ると、手を掲げ光が集まってる!?


「おいおい、こんな所で、ましてや野生豚相手に魔法を使うつもりなのか!」


そう叫んだ瞬間、青白い光の筋が野生豚めがけて放たれる!

光は、野生豚に直撃した。


「女神のチカラを思い知ったかなのです!」


得意そうな顔で、いつもの踏ん反り返りポーズをしているぽんこつ女神がいる。

野生豚相手に、女神のチカラを行使するのは残念すぎるぞ、しかも得意げに。

とりあえず倒した野生豚の方を見やると、そこには野生豚Bと野生豚Cが増えていた。

しかも、こちらを見ている目には怒りのせいかどうかは分からないが、赤く光っている。


「なっ!まずい!?」


おもわず声が出る。

それと同時に、おもむろに野生豚Bが突進してきた!?

ダガーを手にして半身に構える。

が、野生豚は俺にではなく、ディベルの方に向かって突撃した。


「ブヒーッ」

「ふきゃっ!?」

「ブヒーッ」

「ふきゃ〜っ!?」


踏ん反り返りポーズのまま、ぽんこつ女神は野生豚Bの突撃を受けて吹っ飛ぶ、高さにして5m程。さらに落下したところに野生豚Cの突撃受けて10m程引き摺られた。

まぁ、ぽんこつでも女神だ大丈夫だろう。女神の衣もあるしな。


「ふきゅ〜っ、一体なんなのです?」


声を聞いて無事なのを確認する。本当に無事なのかは分からないが大丈夫だろう。


「ちくしょー、なるようになれっ!俺は、やれば出来る子だっ!!」


俺はダガーを構え、野生豚Bに襲いかかる!

ぽんこつ女神を倒したことに、鼻息を荒くして熱り立っている野生豚Bの首にダガーを突き立てる!


「ブヒーーーーーーーーーッ」


そのまま、力任せにダガーを薙ぎる。

抵抗なく刃が滑るように切り裂く。

野生豚Bは、血を噴出させながら横たえる、ピクリとも動かないので絶命したみたいだ。

このダガーとんでもなく業物だ!

それに、体が軽い。


続けて野生豚Cの方を見るが、こちらに気づいてないのか再度ディベルに突撃している。


「なんで、わたくしばかりに攻撃してくるのです」

「ブヒーッ」


野生豚Cに追いかけられながら魔法を放つが、狙いが定まってないのか明後日の方向に光の筋が伸びる。

そのうち、俺に向かって走ってくるぽんこつ女神。


「サクジロウ、助けてなのです~!」


ディベルとすれ違うと、俺はダガーを横に構え野生豚Cに駆ける!

そのまま野生豚Cの横にダガーを滑らせると、真横に切られた野生豚Cは血を噴出させて倒れる。

すぐさま、他に野生豚がいないか周りを見渡す。

他に野生豚がいないことを確認して一息つく。


こうして、俺は生まれて初めて生き物を殺した。

今でも、ダガーで肉を裂いた感触が残っている。

寒くないのに体が震えている。



少し落ち着いてきて状況を確認する。


「ふうっ、なんとか倒せたか。戦い方なんて知らないからどうしたものかと思ったが助かった。豚と言っても大きさは俺の倍はあるし。元の世界じゃ、猪に襲われて怪我したなんてニュースもあったしな」


しかし、このダガーの切れ味は凄い。豚とはいえ、俺みたいなヤツでもいとも簡単に切ることが出来た。

さらに、体が軽く全身に力が漲るような感じがしていた。

普段運動なんてしない俺があれだけ動けた上に疲れを感じていない。

理由は分からないが、ここが異世界だからだろうか?

それとも、これが女神のチカラなのだろうか?

ともあれぽんこつ女神の姿を探すと、遠くの方で転んでいる姿を確認した。


「なんで、わたくしばかり狙われるのですぅ」


ディベルが、半泣き状態で突っ伏しながら嘆いている。

面白い格好なので少し眺めていると、むくりと上半身が起き上がる。

涙と鼻水と泥で、顔がぐちゃぐちゃだ。泥だらけになった女神なんてなかなか見られるものじゃないなぁと、思いながらタオルで汚れを拭いやる。


「たぶん、最初の野生豚を倒されたのを見てたんじゃないか?」

「だとしても、サクジロウも隣にいたのです。二匹とも、わたくしを狙うなんてありえないのです。はっ!まさか、サクジロウまたステルスのスキル使ったのです!?」


だから、そんなスキル持ってない。


「そもそも、いきなり魔法使うのもおかしいだろ。せめて俺に確認ぐらいしてくれ」


それともなんだ、女神ってのは豚見たら魔法をぶっ放す掟でもあるのか?


「だって、いつもサクジロウがバカにするので、女神の威厳を取り戻したかったのです。魔法で華麗に敵を倒して、わたくしの凄さを知って、崇め奉るサクジロウを見たかったのです!」


とんでもない理由だった。そこまでして崇め奉られたいのかぽんこつ女神は。

とにかく分かったことは、今の俺達は戦いには向いてないってことだ。今回だって、ぽんこつ女神が囮になったからこその勝利だ。どこかで戦い方とか習っ方がいいのかなぁ?


とりあえず、街に着いてから考えるか。

色々なことを考えながら、ひたすら街道を歩く。

ディベルは、先程の戦闘のことなど忘れたのか、子豚と遊びながら歩いている。微笑ましいなぁ。

ん?なんで子豚?

おいっ、ちょっと待てなんで子豚なんか連れてんだ、このぽんこつ女神はっ!?


「さっき拾ったのです、とっても可愛いのです」

「拾ったじゃねぇよ、返して来いよ」


さっき倒した野生豚の子供なのだろうか?

なんで、このぽんこつ女神は次から次へと面倒ごとを持ち込むんだ。


「えぇ、可哀想なのです。一緒に旅に連れて行くのです」

「じゃあ、子豚の餌はお前の食事から分けるからな、量が少ないからって文句は言うなよ」


これならどうだ。料理を食べるのが何よりも好きなディベルのことだ、きっと諦めるはずだ。


「本当なのです!?食事分けるから、連れて行くのです!」

「なっ!?」

「アレキサンダーよかったのです!サクジロウが連れて行っていいと言ってくれたのです」


マジかよ。しかも、名前までつけていやがった。

アレキサンダーだと?豚の身分で偉そうだ。


「そのかわり、しっかり面倒みろよ。餌も、トイレもきちんと躾けられないなら問答無用で捨てるからな」

「はいなのです!」


一応釘を刺しておく。まぁ、いざという時の非常食と思えばいいか。そんなこと考えてると、子豚改めアレキサンダーが俺の足におしっこしやがった!?

このクソ豚がぁ、今すぐ焼肉にしてやる!


クソ豚を追いかけるが、足が速く追いつけない。

そんな俺を、ポンコツ女神兼豚飼育係が追いかけてくる。


「待ってくださいなのです」


馬鹿騒ぎしながら走っていたら、いつの間にか街に近づいていた。

気が付いた時には、すぐそこに商業都市が見えていたのである。

初キャンプ、初戦闘です。

まぁ、豚が相手ですけどね。

でも、現実でも野生の動物ってかなり危険なんですよ。

ペットの子豚アレキサンダーの登場です。

これでさらにポンコツ具合が目立つといいのですが。

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