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サナエの本当の恐ろしさなのです。

「お、め、で、と、う、ツェイス」


サナエさんの機嫌が悪い。

もちろん原因はわかっている。


「ありがとう、サナエ。次は、お前の番だな頑張れよ」

「ふんっ、ツェイスに言われなくても頑張りますよ!」

「あぁ、僕もしっかり応援するから」

「なによ、鼻の下伸ばしてるツェイスに応援されたって嬉しくないんだから」

「ちょっと待て、鼻の下なんか伸ばしてないぞ!」

「伸びてまーす!女の子の声援受けて、ベローンって伸びてまーす」


2人がヒートアップしてきた。

しかし、それを止めようとする勇者はいない。

みんな巻き込まれたくないのだ。

痴話喧嘩ほど面倒くさいものはない。


「どうして、サナエとツェイスは怒っているのです?」

「プヒー?」

「あぁ、痴話喧嘩ってやつだ。親切心で余計なことをすると、矛先が変わって大変なことになるから構うなよ」

「そうなのですか?」

「プヒーッ」


気がつくと、オルトガ師匠とガナンドさんは既にいなくなっていた。



あれから、選手の呼び出しがあるまでツェイスさんとサナエさんは喧嘩をしていた。

最終的には、大人なツェイスさんが折れる形で決着が着いたみたいだが。


「それじゃ行ってくるね。サクサクっておわしてきちゃうから!」


なぜか、サナエさんの機嫌が良くなっている。


「ツェイスさん、サナエさんのあの変わりよう。いったい、何を約束されたんですか?」

「ガナンド商会の装飾品店を覗いた時に見つけたアクセサリーを買うことを約束させられてしまった」


そいつは御愁傷様です。

さすがに、個人的な理由での買い物には、ガナンドカードは使えないなぁ。こういうことは、誠意を見せないといけないからねぇ。

そんな話をしていると、審判が選手の名を呼ぶのが聞こえてきた。



「それでは、第三試合の対戦選手をお呼びしましょう」


審判の叫ぶ声が聞こえる。

私は、控え室で柔軟をして体をほぐす。


「ふふっ、ツェイスってばあんなに狼狽えちゃって。まぁ、これに懲りてもっと私に優しくしてくれるといいんだけど」


そんな独り言を言いつつも、何となく口元が緩んでいた。


「それでは、お呼びします。華麗なるエルフの暗殺者、サナエお姉さん!」


控え室から出て、舞台の中央に進む。観客席から歓声が上がる。

耳をすますと、ツェイスやディベルちゃん達が応援してくれている声が聞こえる。

続いて対戦相手が呼ばれ、中央に現れた。


「ほほう、俺の対戦相手は女か。暗殺者なんて呼ばれていたが、どうせ大したことなかろう」


相手が何か言っているようだけど、所々言葉が訛っていて何言ってるかわからないわ?

どうやら、相手も弓を持っているところを見ると、私と同じ後衛職だと伺える。

なら、少し脅かしちゃおうかしら?


「それでは、第三試合はじめっ!」


審判の合図とともに、相手はバックステップで後方に距離をとった。


「くらえっ」


相手がそう叫び矢を放つ。

試合用に鏃が外してあるが、当たればそれなりにダメージはある。

しかし、私は当たってやる気は毛頭ない。

弓を構え、矢を放つ!


「な、そんなことありえるかっ!?」


相手が叫び声をあげ状況を否定する。

驚きながらも次々と矢を放ってくる。

私も、それに合わせて矢を放つ。


「なぜだっ!なぜなんだっ!」


相手が、信じられないものでも見たかのように、狂ったように叫んでいる。

それも、そのはず。私は、相手が放った矢を同じように矢を放ち撃ち落としたのだ。


「なぜって言われても、当たったら痛いからかな?」


舌をペロッと出して可愛い仕草をしてみせる。

ここ最近ディベルちゃんと特訓していた可愛いポーズ。

通称シタペロッ!


「インチキだっ!矢を矢で撃ち落とすなんてできるはずねぇ!」


そう言って、相手が滅茶苦茶に矢を放つ。

そんなの当たるわけないのに。


「なら、とっておきを見せてあげる」


私は、そう言って隠密術を使う。

七つある隠密術の内の一つ、隠形。


「な、姿が消えた!?」


突然、私の姿が消えたことに対戦相手と審判が驚いている。

もちろん、影もなく音もしない。


そして、相手の頬をかすめるように矢を放つ。

次は腕、次は脚、次は、持っている弓。

何もないところから次々と矢が飛んできて、傷ついていく対戦相手。


「ま、参った。降参だ、もうやめてくれっ!」


相手が戦意損失したのか、そう叫んだ。

なので、眉間に矢を番う姿勢で姿を現わす。


「勝者、サナエっ!」


高々と審判が勝利宣言をする。

湧き上がる歓声が気持ちいい。ちょっと、ツェイスの気持ちがわかったかも。

最後に、私はシタペロッ!のポーズをとって観客席に手を振った。

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