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槍魔神ツェイス無双するなのです!

今、ディベルとアレキサンダーが観客席に戻ってきた。

とにかく、ひとこと言ってやらないと気が済まない。


「ただいまなのです!」

「プヒーッ」


嬉しそうな顔をしている、ぽんこつ女神と駄豚。


「おい、なんで何の相談もなく剣技大会に参加したんだ。怒らないから正直に話せ」


多少怒気を含んだ言葉になってしまったが、無駄に叱って話にならないのも困る。

先程、ガナンドさんにも『怒らないであげてください。知らせなかった私にも責任があります』なんて言われてしまったからな。


「本当に、怒らないのです?」

「プヒー?」

「あぁ、怒らない」


ディベルが、わざわざ確認するかのように聞いてくる。


「大丈夫よ、サクジロウ君は、ディベルちゃんのこと怒らないって私達と約束したから。もし、約束破って怒ったら、私が後ろから矢を放っちゃうから」


サナエさんは、ディベルを優しく諭しながら、弓を引くような仕草をしている。なんか、俺の扱いが酷すぎないか?まぁ、矢が刺さると痛いから約束は守るけどな。


「だって、サクジロウ達が楽しそうに剣技大会の話をしてるから、わたくしも一緒に参加したくなったのです。でも、サクジロウに話すとダメって言われると思ったので、ガナンドに頼んで登録してもらったのです」


なるほど、確かにそう言われると俺達にも責任があるな。

無意識にディベルを除け者にして、自分達だけで盛り上がっていたと思うと反省するべきは俺の方だ。


「すみません、もう少し私が気を利かせていれば、こんなことにはならなかったのですが・・・」

「いや、俺達がそこまでガナンドに責任を追及することはできない。逆に、ディベルに手助けしてくれたことに感謝しなくちゃいけねぇ。それで、悪かったな嬢ちゃん。いい大人の俺がこんなで面目ない」


ガナンドさんが謝るが、それを遮るようにオルトガ師匠が割り込む。

そんなことオルトガ師匠が言ってしまったら、俺は何も言えないじゃないか。


「確かに、僕達に責任がありますね。ディベルちゃん、アレキサンダー、ごめんね」

「そうね、ここは私達が謝るべきね。ごめんね、ディベルちゃん。いまさら都合よすぎるかもしれないけど、アレキサンダーも許してくるな?」


ツェイスさんとサナエさんが、ディベルとアレキサンダーに誤っている。


「みんなは悪くないのです。謝らないでくださいなのです」


そう言って、嬉しそうに笑っていた。

ディベルには、許すとか許さないとか関係ないのだろう。

みんなで楽しめればそれでいいのだ。


「よし、これで今回のことは解決ってことでいいな?みんながみんな反省したんだ、引き続き剣技大会を楽しもう」


そう言って、俺はこの場を〆ようとした。

が、そうは問屋が卸さないようだった。


「サクジロウは、謝ってないのです」

「プヒーッ」

「サクジロウは、ただ謝っても許さないのです」

「プヒーッ、プヒーッ」

「そうだよね」

「そうですね」

「そうだなぁ」

「そうなりますね」


みんなが俺を追い込むように詰め寄ってくる。


「あれ、そうだったかな?ご、ごめんなさい。どうすれば、許してもらえるのかな?」


あきらかに怒っているであろうディベルとアレキサンダーが提示してきた条件とは・・・。


「やっぱり、串焼きは美味しいのです!」

「プヒーッ、プヒーッ!」


大量の串焼きを買わされた。

こっそり貯めていた金がスッカラカンになった。



第一試合が終わってから四半刻が経ったころだろうか?


「続いて、第二試合が始まりますので選手の方は指定の控え室にいどうしてください」


闘技場の舞台から審判がそう叫んでいた。


「どうやら、僕の出番のようですね」

「頑張ってね、ツェイス!」

「おう、頑張ってこいよ。特訓の成果見せてやれ!」

「ツェイス、頑張るのです!」

「プヒーッ」

「応援してますよ、ツェイス氏」


みんなが、それぞれ応援の声をかける。


「頑張ってください、ツェイスさん。あなたの槍の凄さをこの街に轟かせましょう!」

「ありがとう。では、行ってきます」


そう言って、ツェイスさんは控え室に向かった。

さて、それではお手並み拝見といきましょうか。

駄豚と共に闘気の訓練を重点にしていたみたいだか、どれだけ強くなったのか正直怖い、だが反面ワクワクしている自分もいる。



審判が舞台の中央に現れた。


「第二試合の対戦選手をお呼びしたいと思います」


そう言って、審判に呼ばれ一人の選手が出てくる。

どうやら、審判が言うには優勝候補らしい。


「迎える対戦相手は、孤高のエルフ戦士こと、槍魔神ツェイス!」


ぽんこつ女神の時にも思ったけど、あの前置きとか二つ名みたいのは誰が考えているんだ?


「なぁ、ディベル」

「はいなのです?」

「自称美少女女神って誰が考えたんだ?」

「もちろん自分で考えたのです」


そうだよなぁ、自分で自分のこと美少女で女神だなんて、普通の感性を持ってるやつなら恥ずかしすぎて無理だもんな。


「孤高の使役豚も?」

「もちろんなのです」

「アレキサンダーは、それで納得したんだ」

「プヒーッ」


あっ、納得してるんだ。

駄豚が嬉しそうに跳ね回っている。

ということは、あれもツェイス自身で考えたのか。


「やべぇ、俺も考えておかないと」

「なら、私が考えてあげるのです」

「プヒーッ」


ぽんこつ女神に頼んだら、ロクでもない二つ名になりそうなので断っておこう。

そうこうしているうちに試合が始まりそうだ。

さて、どんな一方的な試合になるかねぇ?



なるほど、僕の対戦相手は優勝候補の剣士か。


「お手柔らかにお願いしますね」


そう言って、剣士が握手を求めてきた。


「こちらこそよろしくお願いします」


その手を握り返し、所定の位置に向かう。

手を握った時に分かった、あの剣士そこそこ強そうですね。

相手を正面に見据え槍を構える。


「それでは、第二試合開始っ!」


審判が大きな声で合図をする。

さて、あの剣士はどうくるかな?右手に剣、左手に盾を持つ基本的な剣士のスタイルだ。


「どうした、その槍はお飾りか?」


剣士が、みえみえの挑発をしてくる。

なるほど、相手は後の先を得意としているみたいだな。

ならば、その挑発に乗ってやろじゃないか!


「くらえっ」


最小限の動きで槍を穿つ。

掛かったと言わんばかりの顔で、槍の穂先を盾で軌道を受け流そうと剣士が動く。


「がっ!?」


だが、流したはずの槍が左肩を貫く。

甘いな、この剣士は僕の槍の軌道が見えていないだろう。


「な、盾で受け流したはずなのに!?」


やはりな、剣士が驚いている。

致命傷にならないように、穂先の更に先を刺しただけだが。その程度で、注意を怠るとは戦士にあるまじき甘さ。

どうやら、僕の見込み違いだったようだ。

槍を引き戻し、もう一度突きを放つ。


「あぐっ!?」


右肩を穿たれた剣士が苦痛の声を出す。

剣で切り払おうとするが、その刃に触れることなく槍が襲いかかったのだ。


「その程度ですか?残念です」


槍を引き戻すことなく、このまま剣を搦め捕り弾く。

空に舞った剣が、クルクルと回転しながら剣士の後ろに落ちる。

僕は、槍を剣士の喉元に突きつけた。


「勝者、ツェイス!」


審判の声に、観客席から歓声が沸き立つ。


「今回の剣技大会の参加者レベルが高けぇ」

「第一試合も一瞬だったけど、この試合も早すぎるだろ!」

「さっきの子も可愛かったけど、今の人すごくカッコよくない?身体中にビビビッて電気が走ったわ」

「いやーん、私もあの人のファンになっちゃった!」

「おいおい、エルフってあんなに強かったのかよ?それとも、あのエルフの戦士の強さが特別なのか?」


あちこちから賛美の声が聞こえる。

たまにはこういうのも悪くはないな。

そんなことを思いながら観客席に手を振っていると、なぜか頬を膨らませているサナエの姿が見えた。

どうやら、今叫んでた女の子の声が聞こえていたみたいだな。


「戻ったら面倒くさいことになりそうだ」


これから、どうやってサナエをなだめようか考えながら観客席に戻るのだった。

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