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商業都市カナイなのです!

とうとう、その姿を現した『秘密結社ゴルデアバース』。

あの、黒ローブが猿モンスターを作り出し、さらに何体もの強化モンスターを作り出したという、人工モンスター技術。

まだ不明な点もあるが、俺達が標的になったのは間違いないだろう。


「商隊の前の方に出たのは普通のモンスターだった様で、たいした被害は出ていないようです。多少、負傷者がいますが進行には問題ないみたいです」


ガナンドさんが、状況報告を聞いて戻ってきた。

あの、黒ローブがここに現れたのは偶然だったのか?

もしかすると、俺の持っていた黒い宝石を感じ取って、現れたのかもしれない。

とにかく、一度ディベルに聞いてみるか。


「何にも感じないのです」


ディベルは、黒い宝石を手に持ってマジマジと見ている。


「そんなことないだろ、さっきの戦いの時には光ってた上に、黒い靄も出ていたんだぞ」

「そんなこと言われましても、分からないのです。ただ、これは自然にできた宝石ではないということは分かるのです」


そういえば、あの黒ローブはモンスターを結晶化できるとか言っていたな。


「魔力で生み出された、いわゆる魔石ってヤツなのです」

「プヒー」

「そうなのです。この技術を持っているのは、魔族とそれに連なる人だけなのです」


なに、魔族だと!?

ここにきて、新たな不安ワードが出てきた。

ぽんこつ女神ディベルの口から直接出たのであれば、確実に面倒ごとに関わってくるだろう。

魔族、この世界における上位種族。他の種族と交流をほとんど持つことなく、どこに住んでいるのかさえも知られていない。


「とりあえず、このことは他の誰にも言わないほうがいいな」

「なんでなのです?」


「もし、『秘密結社ゴルデアバース』が、黒ローブの奴が魔族と繋がりがあったりしてみろ。ギルドや、自警団が敵対したら大変なことになっちまうだろう。まだ、ギルドや自警団に噂程度の情報しか流れていないのなら、『秘密結社ゴルデアバース』に直接接触した俺達だけで、被害が大きくなる前に黒ローブを倒して問題を解決しまえばいい」

「そうなのです?わたくしは、よく分からないのでサクジロウの言うとおりにするのです」

「プヒーッ」


物分りがいい女神で助かった。



その後は、なんの問題もなく進むことができ、予定の時間を多少過ぎていたが、目的の場所に着いたので野営の準備になった。


「さて、『秘密結社ゴルデアバース』が接触してきたが、どうしたのものかね」


オルトガ師匠が、イライラした様子で言ってきた。

みんな食事が終わってくつろいでいたところに、いきなり酔ったオルトガ師匠が乱入してきたのだ。


「オルトガ、そんな状態で言っても、ただの愚痴にしかなりませんよ」


ガナンドさんに窘められて不貞腐れてしまった。

とにかく、このまま順調に行けば、明日の昼頃には商業都市カナイへ着くだろう。

ただ、明日も黒ローブがちょっかい出してこないとは言い切れない。

念には念を入れ警戒に当たるようにしよう。


「しかし、あの黒ローブが言葉が気になりますね」

「人工モンスターのことですか?」

「えぇ、人がモンスターを作り出すことなんて、本当に出来るのですかね?」

「確か、あの猿モンスターを失敗作って言ってたよね」

「あのとき戦ったモンスターも強化されていたし。もし、猿モンスターのような化け物が、他にも作られていたりしたら。しかも、思い通りに操れたりするなら脅威ですよ」


ツェイスさんが、心配するのも分かる。

今回戦って、一番大変だったのが虫型のモンスターだ。

なにせ、外殻が硬く攻撃が通りにくく、力も強く何匹か苦戦する状況もあった。

オルトガ師匠とガナンドさんが戦っていた、巨大な虫モンスターは、かなりの強さを持っていたみたいだし。

街の外で確認されていたモンスターの亜種は、多分強化実験をしていたヤツなのかもしれない。それだけ強化モンスターの実験に力を入れていた証拠なのだろう。

ただ、あの猿モンスターの餌にもなっていたみたいだが。


「でも、原動力で弱点でもある黒い宝石を破壊できれば、なんとかなるでしょ?」

「だとしても、今回の戦いの情報を基にさらに強化してくる可能性は高い」

「なら、俺達がそれ以上に強くなればいい。明日からも、ビシバシ修行をしていくからな覚悟しろよ」


最後にそんなことを言って、発破をかけるオルトガ師匠。

酔っ払ってなければカッコがついたんだけどなぁ。



次の日、いつもより天気が良く、朝からディベルと豚が元気に走り回っていた。


「ディベルちゃんとアレキサンダーちゃんは、今日も元気だねぇ」


サナエさんが、朝食の片付けをしながら、ぽんこつ女神と豚を微笑ましく眺めている。

俺はツェイスさんとテントを片付けていると、そこにガナンドさんが戻ってきた。


「あと、四半刻ほどで出発します」

「飲みすぎて気持ち悪い」

「それは自分が悪いんですよオルトガ」

「酔い止めの薬をくれ〜」

「弟子達に見せられる姿じゃないですね。それに、お酒の酔いには船酔い止めの薬は使えませんよ」


オルトガ師匠は、昨日の黒ローブの態度が気に入らなかったのか、愚痴りながらお酒を飲んでいたので、飲みすぎていたようだ。


「ししょー、飲み過ぎはダメなのです」

「プヒーッ」

「ほら、ディベル嬢も言ってますよ」

「う、うるせぇ」


二人に窘められて、不貞腐れて荷台に突っ伏してしまった。


「やれやれ、これじゃ今日は使い物にならないですね」


まぁ、そのうち復活するだろう。

それまで、俺達が警戒を強めてればいいだけだし。

そうこうしながら片付けが終わるころ、商隊が出発する合図が出た。



目の前に大きな門が構えている。

中継商業都市カナイに到着した。

何度か、モンスターの襲撃があったが問題もなく進むことができた。

結局、黒ローブの奴が再び現れることはなかった。


「やっと着いたぁ〜」

「お疲れ様です」

「ここが商業都市カナイなのです」

「プヒーッ」


無事に街に着いたことから緊張感も解け、みんな安堵の表情になっている。

本当に、ここまでピリピリした雰囲気が続いたから、俺も肩が軽くなった気がする。


「さて、これから商会の人達が取引する間、冒険者の方々も滞在してもらうのですが、こちらで宿を用意しているので解散後、宿の手形を取りに来てください」


ガナンドさんの秘書の声が聞こえて、冒険者達がゾロゾロと動き出す。


「俺達はどうするんだ?」


二日酔いから復活したオルトガ師匠が聞いてきた。

俺達は、ギルドの合同依頼ではなく、ガナンドさんからの直接の依頼なので宿は用意されてないとのことだ。

すると、丁度ガナンドさんが商会陣から戻ってきた。


「うちの系列店の宿で大丈夫ですよ。オルトガ達のことは、全ての店舗に通達してありますので、面倒なこともないはずです」

「えぇっ!?それって、ガナンド商会の高級宿に泊まれるってこと!」

「まぁ、そういうことだな」

「やった〜」

「ふぇっ!サナエも一緒なのですか、嬉しいのです」

「プヒーッ」

「少しは落ち着けサナエ」


高級宿に泊まれるとわかったサナエさんが大はしゃぎして、それをマネするようにぽんこつ女神と豚もはしゃいでいる。ツェイスさんも、呆れ顔をしているが小さくガッツポーズしたのを俺は見逃さなかった。


「ここが、ガナンド商会系列高級宿〜」

「ようこそ、カナイ・ヤーヴェイユホテルへ」


サナエさんが、ロビーでクルクル回っていると、ロマンスグレーをオールバックにした聡明そうな紳士が現れた。


「ヤーヴェイユさん、この度は宿の提供ありがとうございます」

「いえいえ、ガナンド社長の頼みであれば、ロイヤルスウィートでも無料でお貸しいたしますよ」


どうやら、ここのホテルのオーナーの様だ。

しかし、とんでもないこと言う人だな。


「ロイヤルスウィート泊まってみたいっ!」

「ダメに決まってるだろっ!」

「わたくしも、ロイヤルスウィートがいいのです!」

「プヒーッ」


調子に乗ったサナエさんがツェイスさんに怒られている。

ぽんこつ女神と豚も、碌でもないことを言いはじめた。

そんなのダメに決まってるだろ。

何日滞在すると思ってるんだ。


「俺は、美味い酒が飲めるなら何でもいいわ」

「既に、高級宿特有の歓迎酒を飲んでるところが、オルトガらしいですね」


ガナンドさんがオルトガ師匠を見て、既に諦め顔になってた。

みんな自分勝手すぎて、俺も面倒くさくなってきた。

なんとか、ガナンドさんがオルトガ師匠を引きずり、ツェイスさんがサナエさんを引きずり、俺がぽんこつ女神と豚を両脇に抱え、それぞれが割り当てられた部屋に入っていった。


「よう」

「さっきぶり〜」

「ししょーとサナエ、ツェイスもなのです」

「プヒーッ」

「すまないね」


結局、ロビーで全員が集まることになった。

みんな豪華な部屋に落ち着かないらしい。

そういう俺も、ここにいるわけだが。


「はぁ、ヴァンデエミオンはみんな仲良しなんですね」


ホテルのオーナーとの話し合いから戻ってきたガナンドさんが、俺達を見かけてそんなことを言っていたとか言わなかったとか。

高級なところって落ち着かないよねぇ。


次回、催し物に飛び入り参加!

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