秘密結社ゴルデアバースなのです!
豚が、クレーターを作るほどの攻撃をした所為で、まだ寝ていたはずの冒険者達が一斉に起きてしまった。
まぁ、時間的にいいタイミングだったので、誰も責める事はなかった。
「アレキサンダーの最後の技凄かったのです!」
「確かに凄かった。僕も、あと少し反応が遅れていたら、大変な目に合うところだった」
「プヒプヒプヒーッ」
ディベルとツェイスさんが褒めるので、豚が得意げになっているのに嫉妬する。
正直、今の時点で本気やりあったら勝てる気がしない。
もしかすると、今までも豚は手加減していたのではないかという思いが頭をよぎる
「はいはーい、朝食もらってきたわよ」
「すまんな、サナエ嬢」
なんか悔しいから、とっとと朝飯食っちまおう。
「今日は、このまま南に向かって進むらしい。丁度、旧王都跡を大きく迂回するから、警戒を怠るなよ」
「そうですね。少なくともこの先に危険がないとは言えないですからね」
「何にもないに越したことはないんですがね。一応、今朝冒険者には警戒を強めるようには言ってあります」
事情を知ってる俺達は大丈夫だが、見たことないものに警戒を続けるのは精神を消耗するからな。
そんな心配をよそに、ぽんこつ女神と豚は楽しそうにしている。
「それでは出発します」
荷車に荷物を載せはじめ半刻ほど時間が経ち、ガナンドさんの秘書の声が響いた。
少しずつ列が動き出し、俺達最後尾もようやく動き出した。
太陽が真上に昇ったあたりで異変があった。
前方に、緊急事態の合図である魔法が上げられた。
「前の方で何かあったみたいですね」
「何があるか分からない、警戒態勢を崩すなよ」
「凄く嫌な感じがするのです」
「プヒーッ」
ディベルとアレキサンダーが、何かを感じたようだ。
すると、後ろの方で黒い靄が発生していた。
次第にその靄は形作るように集まっていき黒い塊になった。
なんだありゃ、こんな何も無いところで人が出てきたぞ。
「やばい匂いがプンプンするぜ」
「そうですね、まるで猿モンスターに似た化物の様な気配がします」
その人の様な存在は、真っ黒いローブの様なものを頭からすっぽり羽織っていて、顔は見えない。
奴が、こちらの様子を伺ったかと思うとゆっくりと右手を払う。すると、奴の周りに先程と同じような黒い靄が生まれた。
「何だこいつら」
「気味が悪いですよ」
「サクジロウ、こいつらから嫌な感じがするのです」
「プヒーッ」
すると、突然俺の体が熱くなってきた。
あ、熱いっ!?
「サクジロウ君、君の体から黒い靄が出てるぞっ!」
ガナンドさんが叫ぶ。
うわっ、なんだこれ懐に手を入れて探ると、熱を発しているモノの正体が分かった。
取り出すと、例の黒い宝石が鈍く輝きながら、黒い靄を生み出していた。
「それは?ほほう、貴様があの化物を倒したやつか」
黒ローブが喋った!?
「貴様、あの猿モンスターのことを知っているのか!」
オルトガ師匠が、木刀を黒ローブの方に突きつけて怒鳴りつける。
ガナンドさんも、ツェイスさんとサナエさんも攻撃態勢をとり、距離をとりはじめた。
「なるほど、他の冒険者共よりは楽しめそうだな。だが、アレについて知りたければ、コイツ等に勝つことだな」
黒ローブが、そう言うと周りの黒い靄が様々な形に変わってモンスターになっていく。
そうか、さっき手を払った時に、これと同じ黒い宝石を投げていたのか。
あの猿モンスターは、黒い宝石を埋め込まれたんじゃなくて、黒い宝石から生み出されたんだ。
いったい、どんな魔法技術で作られているんだ?
「とにかく、このモンスター共を蹴散らして、あの陰湿黒ローブ野郎から、情報を聞き出すぞっ!」
「よくみると、報告にあったモンスター亜種もいますね。やはり、裏があったようですね」
ガナンドさんは、何か掴んでいたのか。やはり、抜け目がない人だ。
完全に黒い靄がなくなったところで、モンスター達が襲ってきた。
獣型や、虫型、不定形型まで多種多様だ。
十数匹はいるだろうか?このモンスター全てが、あの猿モンスター並みの化物ならまずいかもしれない。
「女神のチカラ、受けてみるのです!」
そう言って、お馴染みのぽんこつ女神の先制魔法攻撃が放たれた。
幾つもの光の球が生み出され、光の筋が輝く軌跡を伸ばしながら次々とモンスター共を蹴散らしていく。
「どんなものなのです!」
「プヒーッ」
よくやった!
ディベルが、得意げに踏ん反り返っている。
護衛のアレキサンダーも飛び跳ねている。
俺も、後を追いバックラーから引抜いたダガーを滑らすようにモンスターの間を駆け抜ける。
三匹の獣型モンスターが首を落とし絶命する。
「せいやーっ!」
大きな怒声と共に、ツェイスさんが槍を振り回すと、複数のモンスターが巻き込まれ、体が変な形に曲がり吹っ飛んでいる。
トドメとばかりに、高速突きで追撃する。
穴だらけになるどころか、モンスターの体の半分が消滅するような恐ろしい突きだ。
オルトガ師匠とガナンドさんは、黒ローブを守っている大型の虫モンスターと戦っていた。
「こいつら、かなり硬ぇぞ!?」
「それは、オルトガが木刀を使っているからでしょう」
「少なくとも、私の大剣は効いてますよ」
「うっせ、俺にはこいつで十分なんだよ」
「あなたは、まだ・・・」
何を話しているかよく聞こえないが、喋りながら戦っているのなら余裕があるのだろう。
少しずつ数は減っているが、致命傷を与えられなかったモンスターは、再生をしながら再び攻撃してくるのでキリがない。
あの猿モンスターほどの異常さではないが、再生能力を持っているのか。
もし、俺の予想が当たっていれば・・・。
俺は、隙を見てツェイスさんとサナエさんに近づく。
「なるほど、どうりで上半身が消滅したモンスターが再生しないわけです」
「そっか、なら私が動きを止めるから二人で一気に攻めてよ」
二人に作戦を伝える。
どうってことはない、あのモンスターの原動力である黒い宝石が、猿モンスターと同じように心臓にあるとしたら胸だけを狙えばいいだけだ。
試す価値はある!
ディベルの魔法はそれ自体が効果的なので、勝手にやらせておく。
豚が守っているから危険はないだろう。
それじゃあ、作戦開始だ!
俺とツェイスさんが左右に駆け出す。
サナエさんが、その場から掻き消えたように存在をなくして暗躍する。
残っているモンスターがバラバラに動き始めたところに、無数の矢が空から降ってきた。
何匹かが地面に縫い付けられ、俺とツェイスさんがそいつらの胸を狙って攻撃をする。
やはり、硬いが手応えがある。
すると、再生を止め動かなくなるとモンスター。
そうやって次々とトドメをさしていく。
さらに、視えないサナエさんが他のモンスターを撃ち殺していた。
正直、サナエさんが一番怖いかもしれない。
いるのは分かっているが、一切その存在を感じ取れない。
「終わりましたね」
「弱点が分かれば、どうってことなかったわね」
「全部倒したのです!」
「プヒーッ」
それでも、再生能力を上回る攻撃ができるようになったのは、二人が参加してからの修行のおかげかもしれない。
切磋琢磨する環境はいいことだ。
「そっちも終わったか」
オルトガ師匠の声がする方を見ると、数匹の巨大な虫モンスターがバラバラになっており、奥に黒ローブが立っているのが見える。
「いやいや、凄いですねあなた達は。実験体とはいえ、強化モンスターをこんなに早く倒してしまうなんて」
黒ローブは、少し興奮した声で俺たちを褒めている。
なんか、バカにされているような感じだ。
「まさか、バカになんてしていませんよ。こちらも、良い実験データが取れたのですから」
「で、モンスターを全て倒したんだ。約束は守ってもらうぞ」
「ふふっ、いいでしょう」
やはり何かバカにしたような言い方で、オルトガ師匠の問に答える黒ローブ。
「これは私が作り出した、人工モンスターですよ。魔法技術を駆使して、モンスターの結晶化に成功しましてね」
人工モンスターだと!?
奴の言葉に、みんなが驚いている。
「えぇ、もちろん只のモンスターではないですよ。強化することによって、攻撃力や防御力を上げ、さらに・・・」
「再生能力もつけたっていうのか!」
「そうです。ただ、化物は暴走してしまいましてね、実験中に逃げてしまいまして」
そうか、旧王都跡でディベルが気付いたのは、この黒ローブが実験してた時なのか。
どうりで、猿モンスターが突然出てきたわけだ。
「まあ、失敗作を処分してくれたのは助かりました。それだけは、お礼を言わないといけないですね、ありがとうございます」
嫌な気分になる。
「ふざけるな!もし、あの化物が街や人を襲ったらどうするつもりだ!」
「そんなこと知りませんよ。私は、私の実験をしているだけですから。他人の心配なんてするはずがないじゃないですか」
胸糞悪い奴だ。
「気に入らねぇ、気に入らねぇよお前!そこを動くな、俺がぶっ殺してやる!」
「落ち着けオルトガ!」
怒りを顕にするオルトガ師匠を、ガナンドさんがなだめる。
「威勢がいいのはいいが、私も時間が惜しいのでね。悪いが、このあたりでお暇するとしよう」
そういうと、黒ローブのを黒い靄が包みはじめた。
「そうそう、あなた達に賞賛を送るついでに、もう一ついいことを教えてあげましょう」
そういって、黒ローブの口から出た言葉は。
『秘密結社ゴルデアバース』
俺の、嫌な予感は当たっていたようだ。
ブックマークが増えると嬉しくなります。
秘密結社ゴルデアバース編に突入です!




