久しぶりのガナンドなのです!
ヴァンデエミオンを結成してから数日が経ったある日。
いつものギルドのロビーに、五人と一匹が集まっていた。
「そういえば気になってたんだけど、ディベルちゃん達ってどこの宿に泊まってるの?」
サナエさんが唐突に聞いてきた。
あれ、言ってなかったかな?
「俺達は、街の海側にある宿だ。名前は、なんだっけ?」
「メルメル・ユラユラホテルなのです」
「プヒーッ」
「違う、メルオル・ユハイライドホテルだ」
なんだよ、その不安定に揺れてそうな名前は。
俺は、なぜか自信満々に踏ん反り返っているディベルのおでこに手刀をくらわせた。
声にならない叫びを放ちつつ、赤くなったおでこを抑えながら蹲っている。
「えぇ、そのホテルってこの街で最高級の宿じゃないですか!?」
「さすがに、ガナンドカード持ちは違いますね」
ホテルの名前を聞いた途端に、サナエさんが驚きツェイスさんが嘆息している。
そりゃそうなるよなぁ。
「ベッドが、とても大きくてふかふかで気持ちいいのです」
「プヒーッ」
「いいなぁ~。私も高級ホテルに泊まりた~い」
「無理言わないでくれ、僕達に高級ホテルに泊まれるほどの金はない」
「でも、この前の依頼で懐暖かくなったでしょ~、それでなんとかなるんじゃない!」
「その前に、格安とはいえ新しい装備一式を買い揃えてるじゃないか。いくらプラスとはいえこれ以上は贅沢は出来ない」
「ツェイスのドケチッ!」
いつものように、のんびりとした朝飯の風景があった。
「でも、そんな高級なホテルなら、豪華なご飯が出るんじゃないの?」
サナエさんが、恨めしそうな顔で聞いてきた。
「たしかに、ホテルのレストランでいつでも食事は出来るが、やはり仲間と一緒にご飯を食べたいじゃないですか」
「そうなのです、みんなの一緒のご飯の方が美味しいのです!」
「プヒプヒッ」
ディベルが、そう言うとサナエさんがおもむろに抱きついて頬擦りしている。
「まぁ、本当は食いすぎて飽きたんだけどな」
オルトガ師匠が、身も蓋もないことを付け加えていたが、誰も聞いていなかった。
「ホテルにいないと思ったら、ここにいたのですね」
そういって、現れたのはガナンドさんだった。
あれ、視察から帰ってきてたんですね。
「おう、なんだガナンドか。久しぶりだな」
「久しぶりって、たった数日でしょう」
「なにせ、このところ色々あったからな長く感じたわ。たぶん、お前の耳にも入っていると思うが」
「えぇ、色々あったみたいですね。一応、ギルド本部と自警団本部からの報告は伺ってますよ」
さすがにガナンド商会の情報網は凄いな。
正直、この国の全てを把握してるんじゃないのかと勘ぐってしまう。
「それじゃ、そちらにいるお二人を紹介してもらっていいですか?」
「先日のギルドの、とんでも依頼のときにパーティー組んだ仲間だ」
「一緒に特訓もしているのです」
「プヒーッ」
「ツェイスと、いいます」
「サナエと、いいます」
「ガナンドといいます。たぶん聞いてると思いますが、ガナンド商会の社長なんてことをやってます」
三人それぞれが自己紹介をして、握手を交わしている。
「まさか、ガナンド氏と直接会えるとは光栄です」
「面倒ごとに巻き込まれたみたいで大変でしたね」
「おいおい、その言い方じゃ俺が悪いみたいじゃないか」
まぁ、面倒ごとに巻き込んだのは俺らの所為なのは確かなんだけどね。
「そういえば、正式なパーティーを作ったそうですね」
「そうなのです!わたくしがパーティーの名前を付けたのです!」
「プヒーッ」
ディベルが自慢げに言った。
「いい名前ですね。何か、心に響くものがあります」
ガナンドさんにも、ヴァンデエミオンという言葉の意味に何か感じているようだ。
まぁ、結成したのはいいけど、まだ一度も依頼は受けてないんだよね。
あの依頼の後、自警団から危険なモンスターのに対しての注意喚起があり、ギルド側はこれを考慮して遠征の依頼を受けるときは二つ以上のパーティーを組み、且つ上位の冒険者の同行が必要とし、依頼を受ける冒険者が激減したらしい。
少なからず警護などの依頼にも影響は出ている。
だから、俺達も面倒ごとに巻き込まれたくないので依頼を受けないでいた。
「さて、長話もここまでにして修行を始めるぞ」
「そうですね、今日は少しのんびりしすぎましたね」
「ふぇ~、もう少しゆっくりしたかった~」
「今日は、どんな特訓をするのです?」
「プヒーッ」
「それなら、今日は休みを貰ってるので見学させていただきますか」
それぞれ席を立ち、いつもの港の内湾の広場まで行くのであった。
というか、ガナンドさんは見学に来るんですね。
せっかくの休みなんだから、ゆっくり楽しめばいいのにねぇ。
あんな地獄の特訓なんて見ても面白くないだろうに。
「ここ数日で、ツェイスの槍捌きもサナエ嬢の弓の扱いも上達したし、次の段階に進もうと思う」
「本当ですか!?」
「やった~!浮島の特訓がんばった甲斐があったよ!」
「それで、今回はサクジロウの短剣も含め、みんなの武器の特性について復習していこうと思う」
「わたくしの杖は?アレキサンダーは?」
「プヒーッ」
「もちろん杖も教えるぞ。アレキサンダーは体術だからちょっと別なんだけどな」
たしかに、自分の武器はなんとなく把握しているが、他はそこまで深く考えたことないな。
たぶん、この世界なら騎士学校などに行ってれば、座学で教わるかもしれない。
それに比べたら、俺は比較的平和な世界の一番平和だろう国に住んでいたし。
たしかに、ゲームや漫画に出てくるから、たいてい男は武器が好きだし、そういう特集された本も売っていたから読んだことはある。
でも、その程度の知識しかないってことだ。
「まずは、サクジロウの短剣だ。長所は、武器の類の中では小さく軽く、取り回しに便利で携帯もしやすい、素早い動きで相手を翻弄するタイプの戦い方に向いているな」
「サクジロウは、動き出すと止まらないのです」
「そうだな、基本は一撃離脱を主体に戦うのから、一対多数のでの戦闘にも向いている。その分、攻撃の精確さが必要だし、防御面は無きに等しいな。力押しの相手は不利になりやすい」
たしかに、先日の化物猿モンスターにも一撃で致命傷になるような攻撃が出来なかった。
あのときのように、ごり押しされてきたら動き回っていた分消耗したときに不利になってしまう。
「次に、ツェイスの槍だ。どの武器よりもリーチが長いのが長所だ。常に、相手の攻撃範囲外から攻撃できるのが特徴だな。さらに、防御面も優秀で防御範囲が広く、懐に入らせず全方位の攻防一体の戦闘スタイルが主体の武器だ」
「ツェイスの槍は、まるで生きているみたいに動くのです」
「後ろから矢を放っても、簡単に打ち落とすぐらいだものねぇ」
「ただ、逆に懐に入られると不利になりやすく、極端に狭い場所や障害物の多い場所での戦闘も不利だ」
たしかに、ツェイスの護りの槍は突破するのに全力で駆けても決定打を与えられない。
攻撃に転じると、槍がまるで別の生き物のように隙がない。
「サナエ嬢の使う弓だが、やはり遠距離攻撃が出来ることが長所だな。超長距離からの無差別攻撃が恐ろしいが、接近戦が不利なので敵に見つからないように隠密行動が主体でもある。前線に出て支援攻撃するなら護衛が必要だな」
「たしかに、ツェイスと二人のときは敵の数が多いときつかったわね」
「敵の後衛を処理してくれるのは、前衛として助かってたけどね」
「面倒くさいのは、矢の回収だよな」
いままで後衛はディベル一人だったから、サナエさんがいることでお互いの死角がなくなるのが助かる。
アレキサンダーが遊撃していたが、豚に頼りきりになるのも屈辱だしな。
「ただ、今回サナエ嬢には接近戦で使える携帯型短弓と、その戦い方を教えたので、今までと違う戦闘スタイルを確立するつもりだ」
あの、ふざけた変形する弓か。たしか、手甲と組み合わせた機械式の弓だ。
矢も独特な形状で、威力が異常な武器になってた。
「そして、嬢ちゃんの杖だが。基本的には魔法の照準器だな、ただ材質によっては打撃武器になるから、杖術を学べば接近戦も可能だ」
「まだ、サクジロウしかぶん殴ったことないのです」
「プヒーッ」
そのぶん殴った経緯も、夢見て寝ぼけた状態だったけどな。
ぽんこつ女神は、隙あらば俺を亡き者にしようと画策するからな、うかうかしていられない。
「最後に、アレキサンダーの体術なんだが、あれは別物だ」
「プヒーップヒーッ」
「アレキサンダーが文句を言ってるのです、ちゃんと説明しろって言ってるのです」
「そういわれても、基本的に人が使うのとは違うしな。普通の冒険者程度では、空中飛んだり分身したりできないからな」
それはつまり、普通じゃない冒険者がいて、それをできる奴がいるってっことだよね。
オルトガ師匠が分身したとこは見たことあるぞ。
「俺は、基本は長剣か刀を使うが、誰でも使いやすってのか特長だな。片手剣はバランスが良く、両手剣はパワーがある。これといって不利はないが、たいして有利もないってのが短所であり長所だ」
「でも、ししょうは木刀しか持っているのしか見たことないのです」
「そうね、たしかあの化物の腕を木刀で切ってたよね。まさか、伝説の武器か何かかな?」
「その領域に達するまでに、どれだけの時間と経験があったのか興味があります」
うん、あの木刀見せてもらったことあるけど、本当にただの木刀だったよ。
「こうやって、講義を聴いてると騎士団にいたときのことを思い出しますね」
一緒に話を聞いていたガナンドさんから衝撃発言!?
「えっ、オルトガさん騎士だったの?」
「そうですよ、昔は鬼のオルトガって呼ばれてたんですから」
「ガナンド、どうしてお前は余計なことを話すんだよ」
「今のオルトガが、昔とギャップがあって面白いものですから、ついからかいたくなるんですよ」
「もしかして、かなり凄い人の特訓を受けているのか」
「えぇ、オルトガの修行についてきているサクジロウ君も、あなた達も凄いですよ。見習い騎士程度では、泣いて逃げ出すほどでしたから」
いやいや、俺も最初は逃げ出そうと思ったことありますよ。
昔のことは知らないが、今のオルトガ師匠には感謝してますから。
この後、特訓にまで参加したガナンドさんがオルトガ師匠より厳しく、逃げ出そうとしたサナエさんが追加で地獄を見たのであった。
ブックマークありがとうございます。
やはり増えると励みになります。
そろそろ、旅がしたいですね。




