結成!ヴァンデエミオンなのです!
次の日、またギルドにやってきた。
なにやら、正式なパーティー名を登録しておかなければいけないらしい。
実は、昨日まで全員が個人登録での臨時パーティーという扱いになっていたというのだ。
ツェイスさんとサナエさんも、二人だけなので正式なパーティーは組んでなかったそうだ。
「なので、ここで五人と一匹になったので正式なパーティー名を登録しておこうと思う」
「そうですね、そのほうが何かあったときに便利でしょうから」
「どんな名前がいいかしらね?」
「ふむ、パーティーを組むのに名前まで付けなくてはいけないのか」
その方が、ギルドが冒険者の情報を管理しやすいということなのだろうが・・・。
「みんな何をしているのです?」
「プヒプヒ」
ディベルが不思議そうに聞いてきた。
「今、みんなでパーティーとして登録するために名前を考えてるんだ」
パーティーの名前は、他の冒険者の目にも入るので出来るだけまともな名前がいいな。
「なら、わたくしも考えるのです!」
「プヒーッ」
おう、一所懸命考えてくれたまえ。
「プヒーッ」
「なんですの?アレキサンダーはもう考えたのですか」
「プッヒーッ」
「なになに、シュバイン・クリーガァですか。かっこいいのです!」
ちょっとまて、それって豚の戦士って意味だろ。
それじゃ、俺達がアレキサンダーのお供みたいじゃないか。
だいたいなんで、異世界の言語知ってんだよ。
ますます謎が深まる豚だな・・・。
「うーん、いざ考えるとなると悩むな」
「いい加減な名前にするわけにはいかないですからね」
「ディベルちゃんと楽しい仲間達なんてどうかな?」
「「却下」」
「ふぇ~」
向こうは向こうで、なかなか決まらないみたいだ。
「そういや、ディベルは何かいい名前ないのか?」
「あるのですっ!」
「ほほう、どんな名前を考えたんだ?」
「ヴァンデエミオンなのです!」
「プヒーッ」
おっ、なかなかいいな。名前を口にしたときの響きがいい。
「ちなみに、この言葉には何か意味があるのか?」
「『魂に響く鐘の音』って意味なのです」
なにか心に沁みる意味だな。
「うんうん。ディベルちゃん、凄くいい名前だよ!」
「ふむ、たしかにいい名前だ」
「かっこいい響きの名前ですね」
いつの間にか、三人はこちらの話を聞いていたようだ。
「プッヒーッ」
なぜか、アレキサンダーが物凄く興奮している。
みんなが、ディベルの考えた名前を称賛しているのでこれでいいな。
なら、決まりだ。
「ヴァンデエミオン結成なのです!」
こうして、俺達のパーティー名が決まった。
ギルドの依頼受けてから何日ぶりだろう?
久しぶりに、オルトガ師匠の本格的な修行の再開だ。
「ここ数日、片手間でやっていたからな、少々厳しくいこうか」
そういって、オルトガ師匠は木刀片手に柔軟をはじめた。
いつもの港の内湾で、浮島に乗って豚と戦う。偶に、オルトガ師匠の攻撃やディベルの魔法が襲ってくる。
ぐらぐらとゆれる不安定な浮島で行われている特訓を見て、ツェイスが驚いているのが分かる。
「本当に凄いな。あんな状態でよく戦えるもんだ」
「すごいなぁ、アレキサンダーちゃん空中飛んでるよ!」
依頼中では見られなかった豚飛翔を見たサナエさんが楽しそうに叫んでいる。
最終的には豚と相打ちで終わった。
まさか、分身まで覚えてくるとはとんでもない豚だぜ。
「さて、体も温まったところでツェイスの特訓をするか。まずは、この浮島の上で俺に攻撃をしてこい」
オルトガ師匠に呼ばれて、ツェイスさんが浮島に乗る。
「くっ、外から見ていたら案外平気そうと思ったが、いざ乗ってみると凄く揺れているんだな。しかも、揺れ方が不安定で踏ん張りが利かない」
ツェイスさんも、はじめての浮島の揺れに困惑しているみたいだ。
あの揺れに慣れるのに苦労したからなぁ。俺の場合は、その前に船の上で特訓していたからよかったが・・・。
「浮島にいるアレキサンダーの攻撃と、外からの嬢ちゃんの魔法を上手く躱せよ」
さて、どこまでもつかな?お手並み拝見といこうじゃないか。
「プヒーッ!」
「わたくしも準備はいいのです!」
ディベルがそういうと同時に、ツェイスさんがオルトガ師匠に向かって突進突きを放った。
「はぁっ」
「あまいな」
オルトガ師匠はひらりと躱し、ツェイスに木刀で背中をつついた。
思わぬ反撃によろめいたところに、アレキサンダーの渾身の体当たりをくらった。
さらに、浮いた体にディベルの魔法の直撃をくらい、そのまま海に落ちた。
「ツェイス!?」
一連の攻撃を受けて、海に向かって吹っ飛んだツェイスを見てサナエさんが叫んだ。
まぁ、こうなることは分かっていたけど、他人が吹っ飛ぶ姿を見ると本当に面白いな。
不謹慎と思いながらも、つい吹き出してしまった。
「いやぁ、参りましたね。足場が不安定すぎて踏ん張れないから、体当たりも躱せないし、手加減されているとはいえ魔法も当たると痛いもんですね」
ツェイスさんが、そんなことを言いながら海から上がってきた。
そんなことは気にも留めず、アレキサンダーは浮島の真ん中で荒ぶる豚のポーズを取っている。
「サクジロウ君は、毎日こんなことしていたんだね」
「私も、見ていて冷や冷やしたわよ」
「まぁ、まずは浮島の不安定な揺れに慣れないとね」
バランス感覚と体幹、足腰の筋力を徹底的に鍛えるんだよ。
「これに慣れれば、どんな場所、どんな体勢、どんな状況でも体を思いのまま動かすことが出来る」
「プヒーッ」
「アレキサンダーが、まだまだ修行が足りんて言ってるのです」
「ぐぬぬ、確かにこれは悔しい」
「まさか、アレキサンダーちゃんの方が強いってことになるのかな?」
うん、そういうことです。
俺も、はじめたばかりの頃は豚の体当たりに何度苦汁を舐めさせられたことか。
「よーし、次はサナエ嬢だ」
「やっぱりやらないとダメなのね」
若干涙目のサナエさんが浮島に向かった。
「うわぁ、何これ~。本当に揺れが酷すぎて立ってられないよ~」
浮島に乗ってみたもの、サナエさんは立ってられずへたり込んでしまった。
「おいおい、これじゃ特訓にならないな。サナエ嬢は、まずは浮島に立つ練習からはじめるか」
「サナエ、がんばるのです!」
「プヒッ」
そういわれて、サナエさんは一日浮島の上にいた。
さて、浮島が使えないなら、いつもの人形出して打ち込みの特訓かな?
おなじみの的が付いた人形を、ディベルの袖から出して内湾の広く空いている所に置いていく。
「さて、こいつの的に打ち込んでいくんだが、一応規則があるんだよ」
オルトガ師匠が、ツェイスに打ち込みの特訓方法を説明しはじめた。
「まずは、サクジロウでやってみるからよく見ておけよ」
俺は、十体の人形のあちこちに付いている的を、不規則に打ち込んでいく。
連続して同じ人形、同じ部位の的を打ち込まないように。
サクジロウ君が、素早く人形の的を短木刀で打ち込んでいる。
「これだけなら簡単だけどな、嬢ちゃん、アレキサンダー出番だ」
「任せるのです!」
「プヒーッ」
オルトガさんが、二人に合図を送ると打ち込みをしているサクジロウ君に向かって攻撃をはじめた。
「すごい、依頼中に見たときよりもさらに激しい攻撃だ」
「これからまだまだ激しくなっていくぞ」
今よりも激しいくなるのか。
良く見ると、サクジロウ君に少しずつ攻撃が当たりはじめていた。
ディベルちゃんが放った魔法は、放たれた後消えることなくサクジロウ君を追撃している。
それが、何重と襲ってくるのだ、たまったものじゃないだろう。
「ほれほれ、動きが遅くなってるぞ」
そういって、今度はオルトガさんも攻撃に加わった。
より激しくなった攻撃を躱しつつ、サクジロウ君は人形にひたすら打ち込んでいる。
アレキサンダーも、サクジロウ君の死角から突撃を繰り返している。
ただ、フェイントを混ぜ、偶に空中から突撃したりしている。本当に、豚なのか信じられなくなってきた。
さらに、サクジロウ君も時折オルトガさんにも攻撃していることがある。しかし、それが当たることなく逆に反撃を食らって動きが鈍くなっていた。
それでも、動きを止めることなく人形に短木刀を打ち込んでいるが凄いな、ますます感心してしまう。
すると、突然の叫び声がこだました。
「くらえっなのです!サクジロウデストロイビューティフルガッデス美少女女神殺人光線!当たったサクジロウは必ず死ぬ!」
いきなりディベルちゃんが、とんでもない言葉を発したと同時に生まれた無数の光の球が無数の光の筋を放った。
どう見ても、今までの倍以上の光の球からおびただしい程の光の筋が放たれている!?
「当たってたまるか!」
サクジロウ君がそう叫ぶと、今まで以上に加速し光の筋を躱していく。
「すごい」
縦横無尽に光の筋が襲い掛かるが、それを全て打ち落としきった。
「俺の勝ちだっ!」
「プヒプヒプヒーッ」
だが、突然上空から突撃したアレキサンダーの直撃をくらい、サクジロウ君はその場に倒れた。
「ふむ、今回はアレキサンダーの勝ちだな。まさか、隕石落しを習得していたとは驚いたぜ」
「さすが、アレキサンダーなのです」
「さて、見てもらった特訓だが、初めてなのでディベルの魔法を躱しながら人形に打ち込みをしよう」
「ツェイスには、まだ必殺技は使わないのです」
「プヒーッ」
「今回は、アレキサンダーはお休みなのです」
「俺も手出しはしないから、まずは打ち込むことだけに集中しよう」
そうして、僕は地獄というものをはじめて見るのであった。
ちなみに、アレキサンダーはサクジロウ君の再戦を受けていた。
パーティーの名前が決まりました。
特訓も再開です。




